見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

3.第参話 その名、トトさん


大きな猫に乗せられ着いた先は俺の家。やっぱり“門”を使うとすごく怠くなるな…

(使い所を考えないと不味いよね…この猫さんが敵だったらと思うと…)

いや、考えないようにしよう…そう言い聞かせ猫の背から降り、八城さんを抱える。

「凪、大丈夫か?教室帰ったら荷物だけだったから心配で…ってなんだその猫?」

息を切らしながら颯が家の前まで走ってきた。両脇に自分の荷物と俺の荷物を持ってきてくれていた。

中学の時、颯に俺の“力”の話をしていたから余計に心配させちゃったかも。

「結構力使っちゃって猫さんに家まで送ってもらったんだ。立ち話も何だしとにかく上がって、猫さんも」

「おう」「うむ」

客人用の部屋に1人と1匹を案内し、お茶を入れる為と八城さんを寝かせる為退席する。
八城さんを客室の横にある同じような部屋に布団を敷き寝かせる。
今回は何も無かったから良かった…八城さんが無事で。

お茶を入れ部屋に戻ると1人と1匹は戯れあっていた。

「だから鼠は嫌いなんじゃ!!」

「俺は猫さん大好きっすよ〜?」

(あ〜颯は昔から猫好きだもんな)

家に来た時からソワソワしてたし、余程撫でたかったのかもしれない。
撫で過ぎて肉球を頬に押し付けられているがそれすらご褒美になっている…

「自己紹介が遅れたね、私はトト。猫又の妖怪で君のお爺ちゃんに君の手伝いを頼まれたんだよね。遠慮なくトトさんとお呼び」

お爺ちゃん…何から何まで本当に感謝しかない。トトさんが来てくれなかったらやばかったし…

「あ、俺は真季波凪。これからよろしくお願いします」

「俺は鼠入颯!よろしくトトさん!!」

「ええい!暑苦しいぞ!抱きつくな!撫でるな!これだから鼠わ…」

(仲良くなった、と言うか一方的に颯が愛でに行ってるだけだけど…)

「さっきから気になったんだけどトトさんなんで颯のこと鼠って言ってるの?」

ト)「は?」 颯)「あ…」

「お主打ち明けていなかったのか…?」ヒソッ

「はい…」ヒソッ

「凪坊は妖怪の類いが見える事をお前に話したのにお前は自分のことを話していないんだな」ヒソッ

「…」

2人がヒソヒソと内緒話をしている横で襖が開く。おずおずと八城さんが部屋に入ってきた。

「目、覚めたんだ」

「えっと、あの、助けてくれてありがとございます」

深くお辞儀をする。妖怪に連れて行かれたこと知らないよな?教えるべきか…

「いやいや、お礼は俺じゃなくてトトさんに」

「何を言っている?助けに行ったのは凪坊で私は運良く通りかかっただけだが…まあお礼を言われるのは悪くない」

「ね、猫が、喋ってる…」

あ、そうか。日々妖怪や人成らざるものと接してきたから感覚が麻痺してた。普通はそんな反応だよな…

「あ、こちらトトさん。んでトトさんこちらクラスメイトの八城さん」

ペコっとお辞儀をし、トトさんをじっと見つめる。やはり信じ難いのかも…

「うむ、八城と言うのか。ところで八城に質問なんだが肩こりや疲れが中々取れなかったり体調が良くなかったりってのは結構あるのかい?」

「は、はい。体調がすぐれない方が多いです」

「驚くかもしれないがその原因に妖怪が関係していてな。八城は昔から憑かれやすい体質のようだな。今日みたいに妖怪に連れて行かれないとも限らないから様子見しなければな?」

トトさんが代わりに伝えてくれた。俺は伝えるべきか迷ってたから言ってくれて助かった。
ふと八城さんの方を見ると腕をギュッと強く掴んでいた。自分の知らない所で危険な事があったと思うと恐怖でしかないだろ…

「どうする?学校にいる間は様子見できると思うけど学校外だとプライバシーもあるし…」

「そうだな…今回みたいに悪い妖怪に連れて行かれないとも限らないしな」

「なら私が八城に付こう。男どもより私の方が幾分かマシだろう」

「ナイスアイディア!!トトさーん」

だからくっ付くなッ!!と叫んでいる。

「八城さん急にこんな事言われて困惑したと思うし怖かったよね。ごめんね。でも本当の事だから酷かもしれないけど理解して欲しい…」

「うん、大丈夫。いや、それは強がりだ。本当は怖いと感じた、でも真季波くん達が言ってる事嘘だと思えないし」

これからよろしくお願いします。そう告げる彼女の目にはもう恐怖なんて感じていないほど強い力が宿っていた。

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