夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

番外編 香織の変恋慕①

香織は、琉偉によって菜都たちから少し離れたところに移動させられていた。

「・・・ねぇ、なんで目隠しするの?指の隙間から見えてるし、もうやめてよ。」

呆れた口調で琉偉に言う。

菜都たちのキスシーンを遠目から見てしまい、つい香織に目隠しをしてしまっていたのだった。

「お、おう。つい・・・悪いな!」

「お子ちゃまじゃあるまいし・・・。で、どういうことなの?」

「菜都からどこまで聞いたんだ?」

香織は菜都の言葉をありのまま伝えると、琉偉は知っている限りのことを説明した。

もちろん菜都の滅茶苦茶な説明とは違って分かりやすく、香織もすぐに理解することができた。

そして香織が理解して一番に思ったこと、それは・・・”何で言ってくれなかったんだろう?”。

当然、簡単に信じられるような話ではないが香織はずっと菜都の一番近くにいた。

確かに別人のように感じた時期はあったが、思春期の自分たちはいつ大人びてもおかしくない。

特に菜都は昔から少し冷めたような性格だと分かっていたし、”男オンナ”とも呼ばれる人柄だったので、違う自分になろうと思う気持ちがあってもおかしくないと思っていた。

「私が最近仲良くしてた人は”美癒さん”なんだね。きっと、こっちに来てからは沢山悩んでたんだろうなぁ・・・。私なんかが力になれるわけないけど・・・言ってくれなかったのは、やっぱり”美癒さん”だったから私に心を許せなかったのかもしれない。無意識に私と距離を置いてたのかもしれない。」

「美癒はそんな女じゃない。俺にも黙ってた。ただそういう性格なんだろ・・・。」

「で、でも・・・。」

香織は口を尖らせたが、それ以上文句は言わなかった。

「それにしても、あの変なオジサンのせいでこんなことになってたなんて思いもしなかった。」

近藤君は刺されて怪我をした、菜都もストーカー被害に遭い危険な目にあった。

香織も無傷ではない・・・心に大きな傷は負っている。

「あのオッサンに会わなければこんなことにはならなかったのにな・・・。」

一歩間違えれば近藤君の命はなかったかもしれない。

オジサンとの出会いが3人の人生を不幸に突き落としてしまった。

だが・・・
「でもあの事件が、菜都と琉偉が付き合い始めたきっかけでもあったよね~。そして私は・・・。」

香織は中学生だった当時を懐かしそうに思い返す。


***


中学生なんて、毎日が充実していた。

特に、夕暮れ時が一番楽しい時間だった。

あの日もそう・・・菜都と一緒に駄菓子屋に寄って近くの公園で遊んでいた。

遊具に腰掛けて笑い合っていると、駄菓子屋から公園に向かって歩いて来る琉偉と陽太の姿が見えた。

「あ、香織の好きな陽太が来たよ。」

「もーぉ、聞こえたらどうするの!!」

琉偉と陽太も公園によく来るから自然と仲良くなっていた。

「よっ!菜都と香織は1年中アイス食べてるよな。最近は暖かくなってきたけど、真冬は見てるこっちまで寒くなったわ!」

まだ春の肌寒い時期にアイスを食べていると、いつものように陽太にからかわれる。

そんな陽太に菜都と香織は言い返す。

「そう言う陽太も、私達につられて食べてたよね~真冬に!」

「ねー!通りすがりのおばあちゃんに笑われてたし!」

ストップストップと言わんばかりに板口君も言い返す。

「あのバーチャンは笑ってたんじゃない。立ち止まって口を開いて驚いてたんだよ。何をどう見たら”笑ってた”ように見えるんだ!
そ、それにあの時は・・・2人とも美味しそうにアイスを食べるから欲しくなったけど、俺は食べて後悔したし。」

「例え後悔したって、私達と同類なのよ。」

「なんだそれ・・・。」

陽太は呆れながらも琉偉に助けを求めるために子犬のような視線を送る。

琉偉はプッと笑ってガムを噛み始めた。

「あんまり陽太をイジメんな。それに菜都と香織は『アイスの人』で有名になってるからな。」

「いやいや、『アイスの人』とか辞めてよー。ウケるって!」

これが私達が過ごす”いつも通り”の日常だった。

そんな時、私は決意した。

”陽太に好きって伝えたい”

ーーーフラれたらどうする?

頭の隅にあった悩みすらも吹っ飛ばしてしまうほど
気持ちはどんどん大きくなって、抑えきれなかったのだ。


帰り道、菜都と2人になると
「陽太に告るわ!」と、宣言した。

菜都は肩をピクッと震わせ、心配そうに訊ねた。

「香織ってば・・・。ついこの間は”今が一番楽しいからこのままでいたい”って言ってなかった?」

「いーや、決めたの!絶対に言うから!そうね・・・今度公園で会った時にする。だからその時は2人にしてくれないかな?」

「うん、分かった。」

菜都の表情は少し曇った。

香織も菜都の気持ちはよく分かっていた。

応援してくれている、でも・・・心配もしてくれている。

それでもどうしても言いたかった。



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