夢で出逢う - meet in a dream -
第5章 第110話 彩る
最初に琉緒が、菜都と琉偉のつながれた手に気付いたとき顔が引きつっていることに自分でも気付いていた。
(菜都と琉偉はヨリを戻したのか?菜都は身体を返したらここからいなくなる。残酷な言い方だが、未来はないのに・・・)
琉緒は考えを巡らせていた。
残された時間は短いだろうが2人のしたいようにさせてあげたい、そう考えていた。
だが、2人が手をつないでいる姿を見ると胸が苦しくなったのも事実。
そして無意識のうちに菜都の名前を呼んでいたのだ。
「菜都・・・。」
菜都は琉緒に気付いた瞬間、繋いでいた手をパッと離した。
一瞬戸惑った表情をしたが、隣にいた琉偉が片手で菜都の背中を押した。
「る・・・るい・・・。」
「早く行けよ。」
ぶっきらぼうな言い方。
菜都は琉偉に向かって頷くと地面を思いっきり蹴り、駆け出した。
そしてそのまま琉緒の胸に飛び込んだ。
「え!?」
琉緒も反射的に菜都を抱き留める。
何が何だか分からなかったが、なぜか菜都を引き離すことができなかった。
琉緒は正面にいる弟に目を向ける。
弟は菜都を見つめているため視線は合わなかったが、とても優しい笑みを浮かべていた。
(なんだ・・・?何が起きてる?ヨリを戻したんじゃないのか?)
躊躇しながら再び菜都へと視線を移す。
「る・・・お、琉緒・・・。」
琉緒の眉がピクッと動いた。
繰り返し名前を呼ぶ彼女は・・・
「美癒か!!?」
琉緒は咄嗟に声を張り上げる。
「し・・・信じらんねぇ・・・本当に・・・嘘じゃないよな?」
そんなまさか、とは思ったが自分の名を呼ぶ姿を見て確信していた。
たったそれだけのことなのに、琉緒は気付いたのだ。
胸の中に包まれた彼女は必死に首を縦に振る。
何度も何度も首を縦に振り続けている。
琉緒の心臓が大きく鳴りはじめた。
それは菜都も同じで、伝わる鼓動がどちらのものなのか分からなかった。
(昨日は俺が菜都を家まで連れて帰った。・・・その時は既に入れ替わっていたのか?)
隣にいた香織が瞬きを繰り返しながら、菜都と琉緒を交互に見つめる。
「ちょっとーどういうこと?さっき菜都も”美癒”って言ってなかった?誰のことなのー?」
状況が理解できない香織がつい口に出した。
空気を読んで行動する性格の香織は、普段ならここで口を挟むような子ではない。
驚いて咄嗟に聞いてしまうほど香織にとっては不思議でたまらなかったのだ。
琉偉は香織の元へと駆け寄り、慌てて口を塞いだ。
目を見開く香織に向かって、人差し指を立てながら”静かに”と伝えると、そのまま香織の腕を引っ張りながらその場を離れた。
静かに、静かに去って行った。
辺りが再び沈黙に包まれたとき、菜都は漸く顔を上げて琉緒と視線が合った。
「やっと会えたね。」
相変わらず泣き虫な彼女。
涙で包まれたその笑顔は、琉緒の目にはとても輝いて見えた。
「ば・・・ばかやろ・・・。」
琉緒は抱きしめる力を強めて離さなかった。
どれだけ強く抱きしめても足りないくらいだ。
菜都はどんなに強く抱きしめられても全く苦しく感じなかった。
お互いの温もりが伝わってくる。
菜都は温もり包まれるなか、モゾモゾと両手を取り出して琉緒の頬に優しく添えた。
そこで琉緒の頬が濡れていることに気付く。
(琉緒も泣いてるんだ・・・。)
”幸せ”を全身で実感しているのは、菜都も琉緒も同じだった。
「これ・・・夢じゃないよな?」
少し不安そうに呟く琉緒を見て、菜都は微笑む。
「現実だよ。」
「そうか、やっと・・・やっと現実か。」
待ちわびていた瞬間、それは
琉緒にとって10年、いや100年くらい待っていたような気分だった。
菜都の両手は琉緒の頬へと伸ばされたまま。
琉緒の両手は菜都を力強く抱きしめたまま。
・・・菜都はグンッと高く背伸びをする。
・・・琉緒は背筋を曲げて菜都に顔を近付ける。
お互いの顔が近付き、そっと唇が触れて離れた。
目を合わせたあと、再び深く、深く唇を合わせる。
もう二度と離れたりなんかしない。
いや、離れられないーーーー・・・。
・・・そう、心の中で叫びながら。
*ーーー完ーーー*
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