夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第5章 第106話 彩る

菜都はため息を吐いて再び声をかけた。

「どうすのが正しいか、分かった?」

美癒にとって”正しい”のかどうかは分からないままだった。

ただ、自分の思いは・・・。

「そんな・・・それじゃああなたは?」

「私は元の美癒に戻るだけよ。何も心配されることは無いわ。」


ーーー本当に?

本当に”菜都”を望んで良いの?

美癒は葛藤しつつも、早まる鼓動に嘘はつけなかった。

「あ、りがとう・・・。」

深々と頭を下げる。

震える声で言葉に詰まりながら御礼を言った。

「良かった、”ごめん”とか言われたら私の頭から湯気が出てたわ。」

安心したように笑う彼女は、ここに来て初めての笑顔だった。

美癒は菜都の笑顔に釘付けになる。

「ねえ、もっと笑った顔見せて!
やっと会話ができてるのにずっと怒ってるなんて嫌だよ。」

やっといつもの美癒に戻った。

「ちょっと、辞めてよ恥ずかしいから。それにこれはあなたの顔でしょ!」

「私って・・・可愛いのね。」

「ふふふ、久しぶりにイラッと来たわ。それより私達、何度も夢の中で話しはしてるでしょ?」

「えええー?そ、そうなの!?」

「気付いてなかったの?信じられない・・・。」

「ただの夢だと思うもん、普通気付けないって。ねえ・・・また夢で会える?」

菜都は少し寂しそうに笑うだけで返事をしなかった。

「さぁ、もう時間がないから早く戻って。」

もう一度”本当にいいの?”と聞きたかったが、グッと堪えた。

ここで”やっぱり辞めた”なんて言う子じゃないから。

本当は分かっていた。

確かに予定通り入れ替わらずに生まれていたら、菜都はとっくに命を落としていた。

でも・・・

菜都も水上バイクの事故で一度命を落としている。

そのとき美癒が異界の山に会いに来てくれなかったら・・・

美癒と菜都が入れ替わらなかったら・・・

菜都の人生は終わっていた。

これは避けては通れない道だったのかもしれない。

やはり2人の入れ替わりはあのとき必要で、なにもかも助けられていたのだ。



「菜都・・・じゃないね、美癒。本当にありがとう。」

「何度も言わなくていいから早く早く!」

「う、うん。」

差し出された手を取り、視線が合った2人はお互いに笑いあった。

そこへ輝く光が美癒と菜都を覆う。

その光は今まで見たことのない虹色でとてもきれいな色だった。

「死と隣り合わせなのはみんな同じだから。だから・・・菜都として精一杯生きて。」

「だ、大好きだよお姉ちゃん!!ずっと姉妹でいようね!!!」

「・・・必ず、必ずまた会いましょう!」


もっと話したかった。

別れるのが名残惜しかった。

本来であれば触れ合えるはずのない2人。

入れ替わりにより、今まではお互いの記憶が共有されていた。

でも、これからは・・・

これからはお互いの道を進んで行く。

それぞれの記憶を、人生を作っていくーーー・・・。




***


気が付くと、菜都は川の側で倒れていた。

身体中がずぶ濡れだ。

意識はあるのに目が開かない、声が出ない、重くて身体も動かない。

近くで苦しそうに息切れしながら咳き込んでる誰かがいる。

一体何をしていたのだろうか?

菜都はそのまま、その”誰か”に抱きかかえられて自宅へと連れて帰られた。

遠くで母の驚く声が聞こえてくる。

救急車を呼ぼうとしているようだ。

救急車なんて呼ばないで欲しい。

身体中にタオルが巻かれて暖かさを感じながら漸く目を開けた。

「だ・・・大丈夫だから。シャワー浴びてくる・・・。」



ーーー次の日

目を覚ますとひどい頭痛に襲われた。

「お母さーん、38度超えてる。今日休む~。」

「え!?」

驚く母に返事をせず、2階へ上がり再び布団に入った。

あとを追ってきた母が体温計を持って部屋へとやって来る。

「大雨の中、川遊びしてただなんて信じられないわ!風邪引くに決まってるじゃないの!大人しく寝ていなさい!!」

母が鬼のように怒っている。

言い返す気力もなく、目を瞑っていた。

母はアクエリアスと熱さまシートも持って上がってくれていたようだ。

「全く・・・今日はあなたのためにオムライスを作ろうと思ったけどナシね。お粥だからね。」

(オムライス・・・私のために?なんでだっけ?お願いしたっけ?)

思い出そうとすると、昨日溺れたときの苦しみを思い出させた。

(く・・・苦しいよ・・・。)

そのまま眠りにつき、川に溺れる夢を見ていた。

さっき昨日のことを思い出したせいかもしれない。

かなり時間は経ったが、自分の唸り声で長い眠りから解放された。

怖い夢を見たせいか、身体中が汗びっしょりだ。

汗のおかげで熱も引いているようだ。

身体も軽い。

時計を見ると16時を過ぎていた。

菜都は空腹で気持ち悪くなり、シャワーを浴びてからお粥を食べた。

母は1日で元気になった菜都を見て関心していた。

「あまり風邪ひいたことがないから、たまに風邪ひくと逆に怖いのよね~。長引かなくて良かったわ。」


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