夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第4章 第98話 月明り


「どういうことかって聞かれても、あの日公園に向かってたらーーー」

近藤君の話はこうだった。

いつものように公園に向かってたら、珍しくざわめく住宅街。

いつもと様子が違い、何事かと思いながら歩き進めていると、美癒がいたのだ。

彼女は隠れてどこか一点を見つめていた。

その視線の先を追うと、琉緒と琉偉がいた。

琉緒は、既に騒ぎ立てている最中で驚いたが、
先に美癒のもとへ駆けつけた。

だが、近付いていく最中にスーーッと消えていったという。


「それだけか!?もっとこう・・・他にも何かなかったのか?!・・・いや、ちょっと待て・・・なんでお前が美癒の存在も知ってるんだ?」

もっと情報が欲しい、そう思いながら琉偉が尋ねる。

「俺、死にかけた時に会ってるんで。俺の命を助けてもらったから。」

琉緒は当時の状況・・・美癒が近藤君を【この世】に帰したところを実際に離れたところから見ていたが、琉偉と菜都は当然のことながら初耳だ。

琉偉は近藤君の両肩を掴んで前後に揺さぶる。

「ちょっと、ク!ワ!シ!ク!!!」

「えー・・・せっかく琉緒先輩が出てきたんだから、他の話をさせて下さいよ~。」

「そうだ、その話はあとで教えてもらえ。それより”他の話”ってやつを言ってくれ!」

「え・・・えぇー・・・このまま話が進むのか・・・。本当にあとで教えろよな。」

琉偉は不満げに口を尖らせつつも、近藤君が話し出すのを待った。


「はい、琉緒先輩に聞きたいことがあって。
この人が、土田先輩に身体を返したいって言ってる。方法は・・・ありますよね?」

「な・・・身体を返す!?」

琉緒が菜都に目をやると、菜都は優しく微笑んだ。

「琉緒、久しぶりだね。」

「お・・・おう、美癒・・・じゃなかった、菜都・・・折角ここで生きていけるのにお前はそれを手放すのか?」

「うん、だって”菜都”は本当の私じゃないもの。私は”美癒”・・・美癒としての人生を与えてもらえたんだから菜都の身体は持ち主に帰さなきゃ。はやく正すべきだよ・・・。」

琉緒が菜都を心配する気持ちは本物だ。

しながらも心の中は美癒でいっぱいだった。

もしかしたら美癒が菜都に戻れるかもしれないーーー
 そう思うと改めて自分の腹黒さに気付かされる。


「そうか・・・確かに方法はある。けどーーー」

「私が命を絶つことだよね?」

琉緒の言葉を遮って菜都が尋ねると、琉緒の眉がピクッと動いた。

「知ってたのか?」

「なんとなく。だからジン様に訊ねたの。でも・・・すごく怒られちゃった。」

「いつの間にジンと繋がってたんだ?でも方法はそれしか無いと思う。」

「やっぱりそうなんだ。私はまた入れ替われるならなんだってする!だけど命を落とすために菜都の身体に負担や傷をつけるのが怖くて・・・どうしたら良いんだろう?」

それこそが一番難しい問題だ。

美癒と菜都の問題であって、琉緒にはどうすることもできない。

2人が黙ってしまい気まずい空気が流れた。


そこで沈黙を破ったのは近藤君だった。

「命を落とすまでいかなくても、死にかけたら良いんスかね?」

「近藤・・・お前なぁ、簡単に言うなよ。」

「まあ、自殺する方法はいくらでもあるじゃないスか。一酸化炭素中毒とか睡眠薬の大量摂取とか・・・。」

淡々と話す近藤君を見ると、琉緒と琉偉は少し吐き気がしてきた。

仮にも”今の菜都”がいなくなるというのに、なんて冷酷なんだ、と・・・。

そこで菜都が思いついたかのように声を上げる。

「どうせ苦しい思いをするのなら、私達が入れ替わった場所・・・あの川でまた入れ替わりたい。あの場所から本物の菜都に再び人生をやり直して欲しい。」

「なんだそりゃ・・・別に場所にこだわらなくても・・・。」

「お願い!!」

「本人の好きにさせたらいいと思います!で、いつにする?」

「おい近藤・・・勝手に話を進めるなよ。菜都にだって心の準備が必要だろ?」

「琉緒、いいから。私は明日でも大丈夫。」

近藤君は携帯電話を開いて、明日の天気を確認した。

「明日は雨だから、川に来る人も少ないんじゃないか?」

「それなら明日で決定ね!」

菜都と近藤君だけで次々と決まっていく。

そんな中、琉偉だけが俯いて両手を握りしめていた。

今まで黙っていた琉偉が口を開く。

「俺・・・やっぱり最低だ・・・美癒も戻ってきて欲しい・・・でも菜都にも行ってほしくない・・・菜都・・・行くなよ・・・。」

床にポトッと涙が1滴・・・2滴と落ちていく。

菜都は琉偉の涙を見るのが初めてだった。

愛おしくてたまらなくなり、考えるより先に琉偉を抱きしめていた。

琉緒と近藤君は反射的にゆっくりと視線を違うところへと移す。


「せっかく”親友”になったのにごめんね。琉偉のこと大好きだよ、ありがとう。」

耳元で囁くと、そっと離れる。

琉偉はこれ以上なにも言えなかった。

”俺も大好き”

その一言すらもーーーー・・・


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