夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第4章 第96話 月明り


琉偉には菜都を引き留める権利がないことは分かっている。

むしろ、美癒と菜都のどちらが本物の菜都なのか?

それを決められる立場でもない。

それでも”2人とも”を望んでしまう。

ズルい男だ。

出せない答えから逃げることしかできなかった。

「とにかく身体を返す方法が分からないから、どうすることもできないだろ。」

分かり切っていたことを再び言われた菜都は、悔しそうに唇を噛みしめる。

先が見えないもどかしさ。


「私も琉緒に会いに行ってもいいかな?」

「え?近藤がいるのに大丈夫か?」

「大丈夫。記憶を取り戻した琉緒に早く会いたいし・・・ううん、本当はすぐに会いに行くべきだった・・・。」

それから2人は黙り込んでしまい、暫く経つと遠目から近藤君達の食事が終えていることを確認してから声をかけた。

「俺等そろそろ帰るけど、そっちはどう?」

「あ、じゃあ俺も。」

近藤君はカバンを持ち、友人達に別れの挨拶をして立ち上がる。

友人達の中にいる女の子が、菜都のことを睨んでいることは誰の目から見ても丸わかりだ。

菜都は突き刺さる視線に、恐る恐る頭を下げながらその場を後にした。

店から出ると外は暗くなり少し冷え込んでいた。

「菜都も一緒に行くから、喧嘩はナシな。」

「え、あー・・・ハイ。」

一瞬嫌な顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻して返事をした。

3人はそれぞれ自転車に跨り、大通りから細い道へと入っていく。

琉偉の家に向かう道中では、確かに喧嘩はしなかった。

というより、お互いが直接話しかけることはなかった。

そこで近藤君は琉偉からの質問責めに合う。

それに対して近藤君は隠すことなく答え続けていた。


「さっき言ってたやつ、えーっと・・・”菜都を守るって約束した”って。いつそんな約束をしたんだ?」

「土田先輩がオッサンに誘拐されそうになった時に。励ますために何か言わなきゃって咄嗟に出た言葉なんスけど、本心でした。」

菜都は自分が経験したわけではないが、当時のことは記憶の中に残っていた。

「あぁ・・・あの時か。」

琉偉は少し悔しそうに顔を歪めた。

琉偉と菜都が付き合い始めたのはこの出来事がきっかけだったかもしれない。

だが本来であれば近藤君ではなく自分が助けたかった。

・・・いや、そもそもあの時 菜都と香織が2人で公園にいたのは自分たちのせいだ。

「琉偉先輩、顔怖いっす。勘違いしないでくださいね。土田先輩のことは本当に好きだけど、恋愛の好きじゃないから。」

「それは分かってる。助けてくれてサンキューな。
それと、菜都が”別人だって気付いてた”って本当なのか?」

「本当っスよー。水上バイクで事故したって聞いて、そのあとに会ったら別人だった。」

「す・・・すごい。なんで気付いたんだ?」

琉偉は自分が気付けなかったことを後悔している。

「”なんで”って言われても・・・見た目は同じですけど雰囲気?とにかく見た瞬間から一目で分かったし。それで言えば・・・琉緒先輩も別人になってますよね?でも今の琉緒先輩が本物だ。」

琉緒の入れ替わりについても気付いていたとは、菜都も琉偉も驚きを隠せなかった。

(琉緒は”本物”。私は・・・”ニセモノ”って言いたいのね。その通りだけど・・・。)


「雰囲気って・・・本当にそんな理由で?俺なんて兄貴も菜都も側にいたのに全然気付けなかった。」

「仕方ないっスよ。誰も気付いてないし。」

「そ、そうだよ仕方ないよ!私だって最初は自分のことなのに気付いてなかったし。」

悲しそうにする琉偉を励まそうとしたが、琉偉は悲しそうに「ハハッ」と笑った。

「兄貴が知ってることを話してくれたら良いんだけどなー。俺も避けられてるから近藤達も無駄足になったらゴメンな。」

それでもいつかは琉緒と話さなければいけない。

いつかは通る道だろう。

「・・・大丈夫。琉緒先輩は会ってくれると思います。」

近藤君は他の2人とは違い、少し余裕を見せた表情で胸をパンパンと叩いた。


琉偉の家に着くと、琉偉がカバンの中から鍵を探しだす。

「おうち真っ暗だね・・・本当に琉緒はいるの?」

外から見ると、どの窓も真っ暗で電気が点いていなかった。

「親はまだ帰ってきてないけど、兄貴どこにも行っていないはず。」

鍵を取り出しながら琉偉が答える。

玄関が開くと、琉偉と近藤君が先に入っていく。

「お邪魔しまーす。」

菜都は控えめな声で挨拶しながら最後に入った。

カチッ
琉偉が電気をつけて明るくなったが、家の中は静まり返っていた。

「2階、上がるよ。」

あまりに静かすぎて、物音を立てたらいけないように感じてしまい足音を立てないよう階段を上がっていく。

琉緒の部屋の前につくと、琉偉が扉を叩く。

コンコンッ・・・
「兄貴、起きてるか?」

返事はない。

琉偉にとっては、引きこもって以来”いつものこと”だった。



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