夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第4章 第93話 アイリス


その瞬間、琉緒の頭の中に多くの映像が流れ込んでくる。

何本もの映画を同時に流されているような気分に陥った。

それはすべて、琉緒が【空の世界】で過ごした記憶だった・・・。

琉緒の心臓がざわめく。

「み・・・ゆ・・・?」

ツーーッと瞳から涙が零れ落ちた。

(こんなに大切なことを・・・
なんで今まで思い出せなかったんだーーー?

目の前がクラクラする・・・。

上手く息が吸えない・・・。

今までどうやって普通に呼吸をしていたんだろうか・・・。

俺は・・・、俺は・・・




美癒のいないこの世界で生き続けなければいけないのか?)




目の前が真っ暗になった。

鈍器で頭を殴られた気分だ。

立っていられなくなり膝がガクンと落ちる・・・が、そこでハッと意識を取り戻した。

「大丈夫か!?」

異変に気付いた琉偉が咄嗟に自転車を乗り捨てて兄の腕を掴み支える。

琉緒の視線が、少しの間 弟に向けられた。

「まだ・・・まだいるはずだ。」

「は?」

「美癒だよ!まだこの辺にいるはずだ!!!」

琉緒は声を荒げて掴まれていた腕を払いのける。

一目でいい・・・ほんの少しで良いから美癒に会いたい、という気持ちが膨れ上がっていく。

「美癒!!!美癒ーーー!!!!!!」

琉緒の声は、静かな住宅街に響きわたっていた。

我を忘れたかのように一心不乱に叫び、辺りを探し回る。

「ちょ、兄貴やめろって!!」

琉偉はそんな兄の姿を見ていられなくなって必死に止めに入った。

「何言ってンだよ。美癒がいるはずなんだ・・・一緒に探してくれよ・・・。」

「美癒がこんなところにいるわけないだろ!?急にどうしたんだ?」

琉偉は兄の行動に説明を求めた。

「さっきの花は美癒が持ってきたんだ、それは間違いねえ。
摘んだら30分で枯れる・・・だからこの30分以内に美癒が来てたってことなんだ!」

「30分前って・・・俺らがここから離れてすぐくらいじゃないのか?」

その通り、と言わんばかりに琉緒は頷く。

(あの箱、壊れてなかったんだな・・・。)

美癒は、自分が使わなかった箱を使って来たのだとすぐに分かった。

12時間はこっち側にいられるはずなのになぜ美癒の姿が見当たらないのか?

「もしかして俺も美癒の姿が見えなくなってるのか・・・?」

自分は既に【この世】の人間となった。

だから美癒の姿が見えなくなっていてもおかしくはない。

疑問に思いながらも兎に角探し回った。

だが見つけることはできず、悔しさは増す一方。

琉緒の希望が少しずつ消えかけていく。

絶望の重みに耐えられなくなり、ついにその場に崩れ落ちた。

悔しさで両手を握りしめる。

瞳からはどんどん涙が溢れて、琉緒の視界を邪魔する。

「美癒・・・元気なのか・・・?笑ってるか・・・?俺がいなくても・・・大丈夫なのか・・・?」

涙なんていつ振りだろうか。

(美癒の笑った顔が見てぇ・・・別に怒った顔でもいい、不貞腐れた顔でもいい・・・俺を瞳に映したお前の顔が見たいだけなんだ。)

悔しさや絶望感、様々な思いに押しつぶされそうになり頭を地面に叩きつける。

この騒ぎに近隣の住民が様子を伺いにくるほどだった。

冷静さを保つ琉偉は、驚く人々に頭を下げて回っていた。

そんなことにも目もくれず琉緒の頭の中は美癒でいっぱいだ。

「12時間しかねぇ・・・俺が見えてないだけで側にいるのか?俺の声は聞こえてるのか・・・?俺だって美癒の声 聞きてぇよ・・・。」

「兄貴、まじでその辺にしとけ。どこにも美癒はいない・・・。」

「・・・会いてぇ・・・ーーーー。」


結局最後まで美癒の姿は見つけられなかった。

姿を現さなかったのか、もしくは見えなかっただけなのか琉緒と琉偉には知ることすらできない。

どのくらい時間が経っていたのか、途中から近藤君がやってきたが彼は顔色一つかえることなく、口を開いた。

「無駄っすよ・・・琉偉先輩、連れて帰るの手伝いますよ。」

琉緒は、弟と近藤君によって連れて帰られたのだが、まるで抜け殻のようになってしまった。


それからは自分の部屋にこもって出てこない日々が続いた。

琉緒はベッドに横になったまま、ひたすら美癒のことだけを考えていた。



ーーーー もし・・・もし美癒が”菜都”として【この世】にいてくれたら俺たちはどう過ごしていたのかな?

一緒に高校に通って

学年が違うから靴箱でバイバイって言って

食堂で待ち合わせて一緒にご飯を食べて

ははっ

そうだな・・・

目立ちたがりなあいつのことだから
きっと校則違反で先生に追い掛け回されているだろうな

俺たちはそれを見て笑ってるんだ

そして休み時間や放課後にまた会って

帰り道は寄り道

たまには2人きりになりたいな

みんながいる時は公園で鬼ごっこしたがるんだろうなぁ

高校生にもなって鬼ごっこをしたがるんだぜ

笑えるな

真っ暗になるまで遊んで、遊んで、遊び足りなくて、話が止まらなくて

惜しみながら今日もバイバイするんだろう

”また明日”って言いながらな

きっと

きっとそんな日常だっただろうーーーーー




琉緒は現実逃避することで自分を守っていた。

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