夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第3章 第73話 気概


(遠くから声がする・・・すごく眠たいし、身体が重たい。)

「美癒ちゃん!しっかり!!」

「な・・・に・・・?」

「良かった、美癒ちゃん早く起きて!」

「え?」

ゆっくり瞼を開くと、目の前にはジンの顔があった。

気を失って地べたに倒れた美癒の身体を支えてくれていたのだ。

(私ったら、こんな時に気絶してたなんて・・・!)

ズキンッ!ズキンッ!
慌てて起き上がろうと動くと、波打つような激しい頭痛に襲われた。

「痛ッ・・・。」

咄嗟に頭を押さえる。

「大丈夫?ごめんね、時間がなかったから・・・。」

「る・・・お、は?」

辺りを見渡すと、琉緒の姿はなかった。

頭痛は少しずつ治まっていく。

「琉緒は無事に”帰った”よ。今まで琉緒として生きてくれたもう一人の彼も扉の向こうへ導かれて行った・・・ありがとう、成功だ!」

美癒は安心したように大きく息を吐いた。

目を閉じて、琉緒の感触が残る両手を握りしめる。

もう二度と琉緒に会えることはない・・・けど、既に会いたかった。


「美癒ちゃんばかりに負担をかけて申し訳ないけど・・・次は琉偉を頼むよ。」

ここでやっとある疑問に気付く。

やはり最初に依頼された時には気付いてなかったようだ。

「そういえば、まだ入れ替えたことのない琉偉なら・・・ジン様でも戻せるのでは・・・?」

「僕が出来るのは1度きりの入れ替えのみ・・・身体から出てきた魂を戻すなんてことは出来ないんだよ。」

だからこそ、美癒の魔法は優れていた。

そのおかげで、この通り美癒にはまだ一仕事残っている。

支えられていた美癒は自分の力で立ち上がり、琉偉に近付いた。

久しぶりに琉偉を見て、一緒に過ごした過去の日々が頭に浮かんできた。

【この世】で当たり前に生きていた時が最後の会話になるとは思わなかったから・・・本当は最後に”菜都”として話がしたかった。

美癒の姿である以上、勿論それは叶わないが・・・。

魂を帰すために、琉偉に向かって両手を伸ばす。

琉偉の魂が元の身体に帰るように願った。


ーーーだが、何の手ごたえもなく辺りが静まり返る。

美癒もジンも目を見合わせて首を傾げる。

「あれ?おかしいな・・・1日1回限定とか・・・?そんな、まさかね・・・。」

手を握って開いて繰り返したあと、再度試みるがやはり何も起こらない。

「まさか、私が琉偉に対して”最後に話せたら”って惜しむ気持ちが邪魔してる・・・?」

そこへトオルが現れて、ジンに耳打ちして再び去っていく。

「ごめん、琉偉の動きを止めているけど・・・それを解除しないと魂も移動できないみたいだ。」

珍しいジンのうっかりが原因だった。

「・・・ジン様・・・そのこと知らなかったんですか?」

隙の無いジンが初めて見せるうっかりを目のあたりにして唖然とする。

「ははは、僕だって今日はずっと動揺してるからね・・・それにこんなケースに遭遇することの方が珍しいから。
それでだ・・・解除されるということは、琉偉と対面することになるけど大丈夫?」

「あー・・・はい、大丈夫です。」

”大丈夫か?”という質問には全く意味がなかった。

例え”大丈夫じゃない”と言ったとしてもどうすることも出来ないのだから。

ジンは美癒の頭をポンッと撫でて頷いたあと、そっと琉偉に触れた。

ーーーその瞬間、止まっていた琉偉の瞳が動き出す。

「え・・・?」

琉偉は、目の前にいるジンには目を向けず、真っすぐに美癒を見つめて何度か瞬きをした。

”昔の菜都だと気付くはずがない”そう思いながら、美癒は琉偉を帰すために再び手を伸ばそうとする。

ーーーすると、
琉偉の背後で何者かが動く気配がして、美癒とジンは慌てて視線を移した。

「「ゼロ!?」」

なんと、ゼロの動きまで解除されてしまっていたのだ。

「へへへ、お前の声・・・分かるぞ。俺を作って操っていたジンだな?」

ジンを見て不気味に笑いだす。

「お前とは後でゆっくり話がしたかったんだが・・・そうか、お前は琉偉の魂を道ずれにしたから・・・琉偉の解除にも連動して一緒に解除されたんだな・・・。」

琉偉は、背後に誰がいるのか気になってゆっくりと振り向き驚く。

「お、おまえ!菜都のストーカーだろ!それにさっきは・・・菜都を刺そうとして・・・!」

「菜都のストーカー?菜都は今日初めて襲われたんじゃなくて、ずっと狙われていたの!?」

「そうだ、前に菜都が変なこと言っていたから、気になって様子を見ていたらコイツがストーカーしてた。でも見つけた時は逃げられて・・・それ以来は見かけなかった。だから念のために菜都が一人にならないよう気を付けてたんだ。」

(近藤君を刺した犯人はゼロ。菜都もずっと前から狙われてた。・・・2人を襲ったのは偶然ではない・・・?)

ジンも美癒と同じことを思った。


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