夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第3章 第70話 直面


そのころ琉偉は、真っ暗になった自分の部屋にいた。

布団の中で携帯電話を開くと、画面の明るさが眩しくて目を細める。

画面には見知らぬ番号からの着信履歴。

携帯電話を買いに行った菜都からだ、とすぐに分かった。

ミシシッとベッドの軋む音が響く。

琉偉はベッドから起きて立ち上がり、部屋の明かりをつけた。

机の上にはお粥が置いてあったが、食欲は無く 食べずに部屋を後にした。

向かった先は兄である琉緒の部屋。

コンコン
「入るぞ。」

琉緒の返事を待つことなくドアを開ける。

「琉偉!やっと元気になったのか?部屋から出てこないから心配したよ。」

勉強をしていた琉緒はシャーペンを置き、立ち上がる。

「って、お前・・・まだ調子が悪いんじゃないか?」

琉偉の目は充血し、顔色も悪く呼吸が乱れていた。

「分からないんだ・・・。」

消え入りそうな声だったが、必死に訴えるように琉偉は言った。

琉緒は、体調に対する答えかと思い、慌てて琉偉の身体を支える。

「”分からない”って・・・フラフラじゃないか。早く部屋に戻ろう。」

「ーーーそうじゃない。俺・・・トイレで兄貴と菜都が話してるの立ち聞きしてしまって・・・。」

琉緒は驚き目を見開いた。

不味い話を聞かれてしまった、と考え込む。

一体どこから聞かれていたのか・・・?
どこまで知っているのか・・・?

(真実と嘘を半分ずつ混ぜてもっともらしいことを言うか・・・?いや、俺が思った以上に琉偉は鋭い。今は下手に話さない方が良いだろう。)

「お前が話せる状態になってからにしよう。」

そう言って琉偉に身体を休めるように促す。

と、その時。

机に置いてある琉緒の携帯電話が鳴った。

~~~♪♪♪~

タイミング良く話を遮ってくれて安心したのも束の間。

2人の視線は、琉緒が手に取った携帯電話に向かった。

「菜都か?」
「菜都ちゃんかな?」

登録されていない番号を見て、2人の声は重なった。


***


菜都は携帯電話を握りしめ、帰り道を急いだ。

香織が心配してるからこそ早く帰って”無事に着いたからね”と連絡をしたかった。

それに、もし何かあっても自分の取柄である足が速さですぐに逃げれる自信があったから、あまり不安はなかった。

少しでも早く香織を安心させたかっただけ。

(それにしても何で琉偉は”一人で帰すな”って言ってたんだろう?単に彼氏として心配してるだけ・・・?)

琉偉の行動を少し疑問に思い、改めて聞いてみようと思った。

だが思い返してみると、ここのところ菜都は必ず誰かと一緒に家まで帰っていた。

ほとんどが琉偉だったが、別に不自然でもなかったから何とも思わなかった。

そう考えながら歩いていると、菜都はあることに気付く。

(後ろを歩いている人・・・まだいる・・・。自意識過剰かな?香織の心配そうな顔を見たからか、皆が怪しく思えちゃう。)

菜都は念のため周囲を確認するために、何度も後ろを振り返っていた。

なので後ろを歩いている男性がずっと同じ行き先であることが気になった。

少し距離はあるが、まるで後を付けられているように感じてしまう。

(もうすぐ細い路地に入って人通りがなくなる・・・念のため走ろう・・・!!)

自分の思い過ごしであることを願い、菜都は走り出した。

駆け出してすぐに後ろを振り向くと、なんと男性も走って追いかけてきていたのだ。

菜都は全身に鳥肌が立った。

(まさか、本当に!?走ってよかった・・・っ!)

と思ったのも束の間。

走りに自信があった菜都に異変が起こった。

手足がガクガクと震えだし、思うように進めなくなったのだ。

震える手足に力を入れながら携帯電話を操作する。

(電話を・・・っ!香織・・・には心配させるからかけれない・・・琉偉も出ない・・・ジン様にかけるしかない・・・!)

琉緒が電話に出ることを願って発信ボタンを押す。

携帯電話を落とさないように両手で強く持ち、左耳に押し当てると呼び出し音が聞こえた。

(お願い!早く出て!!!)

走り続けながら再び後ろを振り向くと、男性との距離が少し縮んでいた。

男性はそれほど走るのが早くなかった。

菜都は自宅へ続く道から逸れて、隠れることが出来る場所を探した。


「ーーーもしもし?」

アパートの駐輪場と駐車場へ入り物陰に隠れようとしたとき、琉緒が電話に出た。

「ジン様!助けて!!!」

咄嗟に大声を出してしまったため、慌てて隠れ場所を変える。

公会堂の影に隠れ直して、菜都は小声で話す。

「男の人に追われてます。近所の公会堂に隠れてるんですけど、男の人はすぐ近くまで来てます。」

「・・・分かった、すぐに向かう。返事はしなくて良いから電話は切らずにこのまま繋いでて。」

足音が近づいてきたため、声も物音も立てず息を潜めた。

電話で返答はしなかったが、ジンは定期的に声をかけてくれていた。

「家を出た。自転車だからすぐ着く。」

(自転車だと・・・すぐ着くよね?)

「もう公会堂近くの細い路地に入ったから。」

(良かった・・・あとすこし・・・。)

「琉偉と陽太が”菜都のストーカーがいる”って心配してたけど本当だったんだね。」

(え!?ーーーまさか、それで一人で帰さないようにしてくれていたの?)

「・・・琉偉も自転車で追ってきてるから。」

(ーーー琉偉も!?)

すると自転車を漕ぐ音が近付いてきた。

・・・それと同時に背後から足音がする。


「見つけた。」


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