夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第3章 第68話 直面


「はははっ、美癒ちゃんなら【水の世界】で琉緒と慕い合ってるから心配しなくて良いよ。」

「え・・・?琉偉じゃなくて琉緒を・・・?そっか・・・琉緒の恋は実ったんだ。
そもそもジン様と琉緒は一体どんな関係なんですか?」

「琉緒は僕の弟みたいなものかな。
因みに少し前、美癒ちゃんが【この世】に来てたんだ。その話はまた今度教えてあげるよ。」

「【この世】に来てた・・・?私が琉偉を好きになったって気付いたかな・・・怒って・・・ないのかな・・・?」

「今まで見てきてた君が、彼女の事を一番よく知ってるでしょ?
美癒ちゃんが菜都ちゃんに怒ってるなんて有り得ない。」

「で・・・でも・・・。」

「どっちにしても琉偉への気持ちは抑えられないでしょ?気にしなくて良いんじゃない。」

少しだけ重い沈黙が流れた。

菜都がどれだけ気にしても、美癒は手出しも口出しもできない。


「ジン様に聞きたいことはまだ色々あるけど・・・でも・・・やっぱり身体は返さないと・・・。私がもう一度死んだら再び入れ替わる事ができるんじゃないですか?もうそれしか方法は無いんじゃないですか?」

菜都の言う通り、確かに命を落とせば異界の山へ行くことはできる。

だがジンとしては万一を考えると簡単に肯定はできない。

命を落とすということは菜都の身体にも負担がかかる。

もし間に合わずに【あの世】に行ってしまったら?

もし何らかの理由で魔法が使えず入れ替わりに失敗したら?

そもそも美癒と菜都、本当はどちらが菜都の身体に入るのが正しいのか?

ジンは菜都を見つめたまま、考えを巡らせた。


「美癒ちゃん と 菜都ちゃん、2人にとって・・・2人分の大切な身体なんだ。簡単に”死ぬ”なんて言ったらいけない。そもそも入れ替わりの保証だってない。美癒ちゃんの魔法だって不安定だ。」

ジンは菜都から目を逸らさず、強い口調で言った。

普段穏やかな人が強い口調で言うと余計に心に突き刺さる。

「す、すみません・・・。」

”でも身体を返す方法は他にないの?”と続けたかったが、ジンの表情を見ると何も言えなかった。

ジンは、あまり納得していない菜都を見て、なんて頑固なんだろうと思った。

そして一呼吸おくと再び優しい口調に戻り話しかける。

「僕こそ冷たい言い方をしてごめんね。・・・流石に教室戻らないと怪しまれるよ・・・って言ってもこんなに目が腫れてたら皆に会えないよね。家まで送るよ、カバンは後で琉偉に任せるからさ。」

パンパンに腫れ上がったこの顔で琉偉に会いたくなかったので、ジンの提案にのりそのまま帰る事にした。

ジンが先にトイレから出て、周囲に誰もいないことを確認して菜都もトイレから出た。

「男子トイレにいるの見つからなくて良かったねぇ~。」

「・・・部活動をしてる人達が来る可能性はありましたけど、琉偉達はバイト探しに夢中になってたから大丈夫かなと・・・。まさかこんなに話せるとは思いませんでしたけど。」

思ったより話は出来たが、疑問も山ほど残っていた。

「はははっだよね~。せっかくだから帰りながら”琉緒の今後”について説明しとくよ---ーーー。」


ジンは、この琉緒の魂がゼロのように暴走する危険性を考慮して、本物の琉緒の魂を戻す予定である事を説明した。

このような話をしたら、菜都が余計に自分の入れ替わりに期待を持ってしまうと分かりつつも話したのだった。

「さあ、家まで着いちゃったし、美癒ちゃんが【この世】に来てた話はまた今度。確か、菜都ちゃんは明後日の土曜日にお父さんと携帯を買いに行くんだよね?僕の携帯番号とアドレスを教えておくからいつでも連絡してよ。琉偉の邪魔も入らないし。」

子供のようにニヤリと笑ってポケットから取り出したティッシュの広告用紙に連絡先を記入する。

「ありがとうございます・・・携帯電話を買ったら、必ず連絡します。」

「じゃあ、また琉偉がカバンを持ってくるから。お腹が痛くて帰ったってことで話を合わせておいてね。あ!それと、くれぐれも皆の前で”ジン”って呼ばないで。」

そう言ってジンは学校へと戻って行った。


その後、菜都のカバンを持ってきてくれたのは琉偉ではなく、陽太と香織だった。

2人から聞いた話では、琉偉も調子が悪くなったようで先に帰ってしまったそうだ。

琉偉の具合が気になって家に電話してみたがタイミングが合わなかった。

次の日も学校を休んでいたし、兄の琉緒ともタイミングが合わず、琉偉の様子を聞くことができなかった。

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