夢で出逢う - meet in a dream -
第3章 第61話 境界線
深緑色の魂が間髪入れずに答える。
「私が入れ替わります!主人のためなら・・・!」
一方でジンは書類に目を通しながら頭を抱えていた。
「うーん・・・元ご主人はオス・・・男を希望しているようだ。それに心配しなくても・・・まあいい、取り敢えず行ってみよう。」
深緑色の魂は川の向こうに行くことはできないため、ジンが1人で行って元ご主人の魂と会う事になった。
「私達も行っちゃ駄目なの?」
「待機だろ。」
行きたくてウズウズする美癒とは正反対に少し安堵した表情をみせる琉緒。
しかしジンが行って戻ってくるまで時間はかからなかった。
「お待たせ。」
「はやっ・・・いですね。」
「主人の様子はどうでしたか?」
「明日には【この世】へ行くことになっている。」
思いのほか早く、深緑色の魂の表情が暗くなる。
「それなら急がないと・・・っ!」
「いや、その必要はないよ。」
「え?」
「元ご主人からの伝言だ。」
『自分の妻だったと聞いて最初は信じられないし驚いたが、何度も話しかけてくる姿を見てとても愛してくれていた事がよく分かった。でも人間を選ばなかったのは自分の意志であり変更するつもりもない。心配してくれてありがとう。愛してくれてありがとう。君が生まれてくるのを待っているからね。』
美癒達が想像していた答えとは違ったが、深緑色の魂は涙を流す。
「そんなっ・・・そんなの信じられない!最後に一目会いたい・・・っどうしても会いたい・・・直接聞かないと納得できない・・・。」
「申し訳ないが、川の向こうにいるから、ここで会えることは無い。」
美癒は疑問に思った事を尋ねる。
「”生まれてくるのを待ってる”ってどういう意味ですか?ただの挨拶言葉?」
「いや、心配しなくても2人は【この世】で出会えるようになってる。彼は猫になることを選んだんだ。」
深緑色の魂はハッとする。
「まさか・・・!私の家で飼うあの猫ですか!?」
”自宅で猫を飼ってる”未来の映像を見た記憶を思い出し訊ねる。
「そうだよ。君が生まれる前から【この世】で待っていてくれるんだ。人間に比べると寿命は短いが、長生きして見守ってくれるだろう。」
「うぅ・・・主人は猫が好きでした。本人はそんな事も忘れてるくせに・・・結局猫を選んだんですね・・・。」
「そういうこと。だから君は何も気にすることはない。」
「・・・ありがとうございます。私のせいだと心配してたので、知ることができて良かったです。」
「むしろ君とつながりのある未来を望んでたんだ。それが分かって良かったじゃないか。じゃあ僕は仕事に戻らせてもらうよ。」
美癒も御礼を伝えると、ジンは急いで去って行った。
(忙しいって言ってたもんね・・・。とはいえ、こんなに早く解決するなんてすごいなぁ。)
「俺らもそろそろ帰ろうぜ。」
「あ、うん。そうだね。」
帰ろうとしたところで深紅色の魂が引き留める。
「相談したいのは”妹たち”って言いましたよね?もう1人いますよ。」
「げっ!」
琉緒が心底嫌そうな顔をする。
「三姉妹なの?」
「そうです。ただ・・・どこに行ったんだろう?」
深紅色の魂が辺りを見渡す。
「あ!いた・・・!もう、そんなところに座ってないでこっちにおいで。」
木陰に隠れて花を眺めている黄色い魂が、立ち上がってゆっくりと近付いてくる。
「この子、人見知りが激しくて。もともと口数は少ないんですけど・・・。」
黄色い魂が一礼したようにみえたため、美癒もペコリと頭を下げた。
「何か悩みがあるの?話聞くよ?」
「・・・いえ、別に。」
(ん?)
声のトーンからは何も読み取れないくらい落ち着いた様子だった。
「この前呟いてたじゃないの。戸惑った様子で”私達とは聞こえ方が違う”って。」
「聞こえ方??」
「何を言ってるの?まさか本気にしてるなんて・・・冗談に決まってるじゃない。」
相変わらず一定のトーンで淡々と言い返すと、黄色い魂は挨拶せずにその場から離れていく。
「はぁー・・・、せっかく何か分かるかもと思ったのに・・・美癒さん、琉緒さん、ごめんなさい。あの子、これ以上は何も話しそうにないです・・・。」
「・・・?私達は別にいいけど・・・いいのかな、あの子。」
「いいっつってんだから帰るぞ。」
何か厄介ごとに巻き込まれる前にと琉緒はいち早く帰りを促す。
「本人が言いたがらないから仕方ないです・・・。ありがとうございました。」
「分かった。因みに私達も近々こっち側の任務に就く事になるから、何かあったら気軽に声かけてね。」
「またお会いできるんですね。嬉しいです・・・また何かあったらよろしくおねがいします。」
美癒達は挨拶をして、琉緒に連れて帰ってもらった。
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