夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第3章 第59話 境界線


紅藤色の魂は、近付いてくる美癒と琉緒に気付くと一礼したように見えた。

「こんにちは、何してるんですか?」

「どうも。俺は母親のことを見てたんだ・・・ほら、あなたたちにも見せてあげる。」

(男の人なんだ・・・!)

紅藤色の魂は、美癒と琉緒の目の前にも映像を浮かべた。

「うっわぁ〜・・・すごく綺麗な人だね。」

「だろ?でも交際相手が最低で、母親は俺を妊娠してることを告げたら捨てられてシングルマザーになる予定なんだ・・・だから俺が早く大きくなって母親を助けてやる!そう思いながら見てると、早く生まれたくてウズウズするよ。」

紅藤色の魂は「自慢の母親だ」と語り続ける。

美癒は自然と微笑みながら話を聞いていた。

「あなたは優しいね。お母さんは幸せ者だ。」

「そ、そうか!?俺は男だし、母親を守ろうとするのは普通のことなんじゃないのか!?」

「うん、素敵だよ。そしてあなたの心は綺麗だね・・・だからあなたの周りも心の綺麗な人が集まるわ。必ず幸せになるのよ。」

「あぁ、約束する。母親を守れるのは俺だけだからな!」

(なんて良い子なの!ゴ●ブリになる魂達も見習ってほしいわ!!)

「いつお母さんのお腹へ行くの?」

「3日後に行くんだ。ここに来てからも結構経つしね、本当に待ち遠しいよ。お腹の中から直接母親の声を聞けるのがすごく楽しみなんだ。」

「ふふっ3日なんてあっという間だよ。だから今のうちにお母さんをしっかり見て、大きくなったら何をしたいか色々と想像してみて。残り3日間が100倍楽しくなるから。」

美癒は、自分で言いながらハッと昔の事を思い出す。

(”したいこと”と言えば、お父さんはよく『菜都が大きくなったら一緒にお酒を飲みたい。楽しみだな。』って言ってたなぁ。お酒を飲んだことのない私には分からないけど、何回も言ってたくらいだし楽しいのかな?・・・どちらにしてもお父さんの夢を叶える相手になれなくて残念だわ。)

紅藤色の魂は美癒に元気よく返事をして、再び母親のことを眺め続けた。

邪魔しないでおこうと思った美癒は、「じゃあね」と小さく声をかけてその場を離れる。

すると、今まで黙っていた琉緒が美癒に話しかけた。

「どうせ生まれたら、ここでの記憶はなくなるんだ。なのに将来したいことなんか考えて何になる?」

「冷めてるねぇ~。例え忘れたって生まれた後も同じことを考えてるのよ。さ、琉緒が担当した子にも会いに行こう!」

(私の担当は全員ゴ●ブリだし。)

そう思いながら琉緒に案内を頼むが、琉緒は歩くのを止めた。

「特に誰かと話すようなことも思いつかねぇし・・・。」

本当に困った顔をする琉緒を見て、美癒は余った時間をどう過ごそうか考えた。

「どこかに悩んでたり困ってたりする魂がいたらなぁ・・・。」

ボソッと呟くと、琉緒が目を見開いた。

「おい、ちょっと待て。何で”悩んでる魂”と”困ってる魂”を探してるんだ!?また余計な事をしようとしてねぇか?」

琉緒の顔が一気に青ざめる一方で、美癒はごまかすように笑った。

「え・・・えへっ?別にそんなつもりはないけど、することないから何か自分に出来ることがないかなー・・・な~んて・・・?」

ヤバいと思いながら、ひきつった笑顔を向けたがすぐにいつもの表情を取り戻した。

「ジンから『あくまで交流だけ』って言われてるだろ?それを忘れるなよ!全く・・・俺がお世話役につけられるわけだ・・・。」

「ん-もう、まだ何もしてないのに勝手に言いがかりつけないでよ!」

「いーや、放っておくと何するか分からねぇ!」

「あのー・・・。」

美癒と琉緒が言い合いになっていると、深紅色の魂が話しかけてきた。

(全然気付かなかった!びっくりしたぁ。)

「さっき『悩んでたり困ってたりする魂がいないか?』って聞こえたんですけど・・・。」

琉緒は嫌な予感がした。

「いや、言ってねぇ。他を当たってくれ。」

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