夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第3章 第55話 境界線


次の日。

布団に潜り込んで出てこない美癒を見て、琉緒が魔法でペイッと布団をはがす。

「うぅー、辞めてよ。今日は起きたくないの。」

「”今は”じゃなくて”今日は”起きたくないのかよ・・・。」

昨日【この世】から強制送還されたショックで寝込んでいた美癒は、浮いている布団を引っ張り再び潜り込んだ。

「そんなに落ち込むなよ。」

「・・・」

強制送還によりジンの部屋に舞い戻った瞬間から、美癒は放心状態だった。



***


昨日、ジンの部屋にて。

「おーい、美癒ちゃーん?」

「・・・」

「また目を開けたまま寝てるのかな?」

「・・・」

「だめだこりゃ、琉緒を呼ぶか。」

【この世】から突如帰り反応のない美癒を見て、ジンは琉緒を呼ぶように使いを送って命じていた。

「美癒ちゃん、駐輪場では助けが遅くなってごめんね。
【この世】に行ってすぐ、琉緒と話しててさ・・・って、聞こえてないみたいだからこの話はまた今度しよう。」

「あ・・・琉緒にバレたんですか?」

ジンが喋り続けている間に美癒は正気を取り戻していた。

「起きたの?」

「別に寝てたわけではないんですが。」

「琉緒には色々聞かれたけどシラを切り通したよ。それで納得はしてないみたいだけどね。」

「良かった・・・じゃあ私も知らないフリを続けます。」

「頼むよ。・・・それより何でこんなに早く帰ってきたの?時間より早く帰って来る人もいるけど美癒ちゃんのことだからそんな感じじゃなさそうだし。」

美癒の目の前には、使用済みで壊れた箱が転がっていた。

「・・・近藤君が私に気付いて、、、強制送還されたんですぅー!!!」

美癒はジンに泣きついた。

「なに!?彼は霊感とかないって資料に書かれてたんだけど・・・。」

「うえーーーん!!!」


そのあとすぐに琉緒が来て、泣いてる美癒を連れて帰ってくれたのだった。



***



「そうだ、琉緒。」

美癒は布団にもぐったまま琉緒に声をかける。

「なんだよ、布団のせいで声が籠って聞こえねぇよ。」

布団から顔だけヒョッコリ出して言う。

「箱、ありがとう。私の返すよ・・・そこの引き出しに入ってる。」

「・・・いらねぇって。」

「忘れないうちに返しときたいの。」

琉緒が動かないから、美癒はしぶしぶと布団から出てベッドから降り、箱を取りに行った。

「はい、どうぞ。」

「いらない。」

「・・・借りたんだから返させて。使わなくても持っておくべきだよ。」

受け取らない琉緒に無理やり箱を押し付ける。

「いらないって言ってるだろ。」

琉緒が手で振り払うと、箱が飛んでいき 棚にぶつかってフローリングに転がった。

「ちょっと!何するのよ!!!」

慌てて箱を拾い上げてビックリ。

「壊れ・・・てる?」

完全には壊れていないが、ヒビが入ってしまった。

「これ、どうなるんだろう?もう使えないの?」

「知らねぇし、使わないんだからいいだろ。」

頑なに拒否を続ける琉緒に呆れて”あっかんべー”した後、美癒は箱を再び引き出しにしまった。

「とりあえず私が持っておくから、気が変わったら教えて。」

琉緒は何も答えなかった。

美癒は「もう知らない!」と言い捨てて、再び布団に潜り込み目を閉じた。

その姿を見つめて、琉緒はため息をつく。

「【この世】で何があったのか・・・言いたくなったら言えよ。聞いてやるから。」

”知らない”だなんて前言撤回。

琉緒の心配そうな声を聞くと、何から話そうかと考えた。

頭を整理しないと、知られたくない事まで口が滑りそうだ。

昨日琉緒が迎えに来る前に、自分の醜態をジンに口止めはした。

ジンは笑いながら「どうしよっかなー?」と言っていたが、きっと黙っていてくれるだろう。

「近藤君が私に気付いたから、まだ時間余ってたけど帰らされたの。」

「はぁ!?何でアイツが?」

「分かんない・・・ジン様が調べるって言ってたけど。」

「1回死にかけたからとか、関係あるのか?」

「その可能性もありそうだね。
・・・ねぇ、琉緒・・・。好きだよ。」

突然の告白に、琉緒の顔は真っ赤になった。

「は!?・・・し、し、し、知ってるし!」

いつもは大人ぶってる琉緒が、どもってしまっていた。

【この世】に行った時は付き合っていた琉偉への感情が溢れてきたが、やはり今はなんともない。

自分の好きな人は琉緒だ。

それを再認識したため、美癒は今の気持ちを真っすぐ伝えたくなったのだ。

「チューしてよ。」

美癒は布団から顔だけを出した。

「はぁ!?」

「しないの?」

「なんで急に?」

「”また今度”って言ってくれてたじゃん。」

「いつのことだよ?」

「ユースケと異界の山に行く前。」

もちろん琉緒も自分が言ったことを覚えていたが、咄嗟に惚けてしまっていた。

「あ、あのなぁ。”して”って言われたら逆にしにくくなるんだよ。」

「ふーん・・・じゃあしなくていいよ。」

美癒は再び顔を布団で覆う。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品