夢で出逢う - meet in a dream -
第2章 第51話 プリムラ
「そんな事だと思った。」
呆れた口調で琉緒がポケットから箱を取り出す。
「私の箱?何で琉緒が・・・?」
「バカ、俺の箱だよ。まさかと思って持って来たけど正解だったな。」
ほらよ、と言いながら箱を美癒に渡す。
「そうだよね、びっくりした・・・準備良すぎだよ。ありがとう!」
安心と喜びから無邪気な笑顔で琉緒に抱きつく。
「おっと、あぶねぇ。」
美癒の勢いで琉緒は後ろに後ずさりした。
そして美癒の背中に軽く手を回してポンポンと優しく叩く。
「流石だね、琉緒。美癒ちゃんのことに関しては先見の明に長けている。」
2人の様子を見て、思わず拍手をしてしまうジン。
「ふんっ、俺は何に関しても先を考えて動いてるんだよ。」
少し照れくさそうだ。
美癒は琉緒から離れて改めてお礼を言う。
「本当にありがとう、助かった~。帰ってきたら私の箱を返すからね。」
「俺は使わねぇから返さなくていい。」
「いやいや、いつか使えるかもしれないでしょ。」
琉緒からもらった箱をジンの前に差し出す。
「はい、確かに受け取ったよ。」
ジンは箱を持ち、両手に乗せて顔の高さまで持ち上げた。
「美癒ちゃん、準備はいい?」
「はい、お願いします。」
ジンの合図に美癒は気を引き締めて真剣な表情で答える。
「じゃあ・・・。」
ジンが目を瞑ると箱が輝き出して宙に浮く。
「琉緒、いってくるね。」
「あぁ行ってこい。」
半日離れるだけなのに、まるで永遠の別れのような表情をしており、琉緒は苦笑いしながら手を振った。
ーーー箱の蓋が開く。
(この箱から、一体どうやって【この世】に行くんだろう・・・?)
美癒が箱を見つめていると視界がグルりと反転した。
身体が、あの小さい箱の中に吸い込まれていったのだ。
「キャーーーーーッッ!!!!」
美癒が驚いて叫び声をあげる。
どんどん声が遠くなり、美癒の姿が見えなくなると箱の蓋がパタンと音を鳴らして閉じた。
浮いていた箱はゆっくりと下がっていき、ジンの手のひらに戻ってきた。
「箱を使ったらこんなふうになるのか・・・まるで幽霊みたいに消えていったな。」
琉緒は目を見開き、驚きながら固まっていた。
「はははっ僕達はもともと幽霊みたいなもんじゃないか。」
「・・・それより、お前に聞きたい事がある。」
正気を取り戻した琉緒は、ジンの胸倉を掴んで睨みつけていた。
***
「キャアーーーーーーー!!!」
相変わらず美癒は叫び続けている。
箱の中は真っ暗で、バンジージャンプをしているかのように身体が落ちていく。
あまりの恐怖に美癒はとうとう気絶してしまった。
ーーー草木が揺れる音で目が覚め、辺りを見渡す。
(な、懐かしい・・・近所の広場だ。良かった、無事に【この世】に着いたのね。)
ほっと一息つくと左腕に違和感があり視線を移す。
(なんで時計が?それに針が反対に動いてる・・・これ制限時間みたい。残り10時間40分・・・?私1時間以上も気を失ってたの!?)
一瞬意識をなくしただけだと思っていたが、1時間20分間も広場に寝そべっていたのだ。
思わず頭を抱える。
(・・・もう!!こうしている場合じゃない!とりあえず家に帰ろう。)
本日は日曜日。
家族はみんな休日だ。
広場から自宅までは3分もかからない距離にある。
(幽霊のように足が無くて空に浮いているのかと思ったけど・・・普通に自分の足で歩かないといけないのね・・・。)
ジンからは「行けば分かる」と言われて大した説明を受けていなかった美癒は、まるで初めて挑戦するゲームの中にいる気分だった。
自分の家の前まで着くと立ち止まる。
ジッと家を見つめていると、あまりの懐かしさに涙が溢れてきた。
「うっ・・・。私の家だ・・・っ・・・。」
胸が熱くなり、嬉しさと悲しさが同時に押し寄せてきた。
涙を拭って一歩一歩を嚙みしめながら玄関ドアに近付いていく。
そのまま透き通って家の中に入ることは出来るが、あえてドアノブを力強く握りゆっくりとドアを開けた。
(開いた・・・。)
音を立てないように、ゆっくり、ゆっくりと開いて中に入り、扉を閉めた。
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