夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第2章 第47話 プリムラ


真冬のとても寒いある日、美癒と琉緒はジンと会っていた。

場所は近くの公園。

少し離れた所では子供たちが遊んでいる姿があった。

雪は卒業式の日以来、全く降っていない。

「寒いのに外に呼び出してごめんね。」

「いえ、ずっと部屋にこもっていたので久しぶりに外に出れて気持ちいいです。」

3人は日向になっているベンチに腰を掛けた。

ジンは持っていた鞄から古びた薄い本を取り出す。

「これは【この世】へ行く者に渡される冊子だよ。規則などが書かれている。使いまわしだから大事に使って。」

「旅のしおり・・・的なものですね・・・?」

「美癒ちゃんの思っている通りだと思うよ。ただ、読むのは大変だから皆簡単に説明だけ聞いて、この冊子はもしものために持って行くだけだ。だから簡単に説明するねーーー・・・。」

ジンの説明はこうだ。

●12時間までの滞在
●容姿はそのままだが、幽霊と同じで 【この世】の人間には見えない・聞こえない
 運悪くたまに、見える・聞こえる人間と遭遇することがある
 幽霊だと思われスルーされるケースが多いが、見つかった場合は時間が残っていても即退場
●透き通った身体だが、力を入れれば物に触れることはできる
●【この世】の食べ物・飲み物を口にしてはいけない
●【この世】のものを持ち帰ることはできない
●身内の様子を見に行く者が多いが、自らの痕跡を残して帰ってはならない


「大まかに説明するとこんな感じかな。そんなに難しいこともないと思うし、これらを気を付けてたら大丈夫。」

(なぁんだ。家族・・・香織や琉偉たちと話せないのかぁ・・・。)

「今まで【この世】にいった人たちは、12時間どんなことをしたんですか?」

「報告義務がないから詳細は分からないけど、話を聞く限り家族と過ごしてるよ。神使任務に就くなら今後家族に会える機会はなかなか無いからね。最後の12時間、何をするわけでもなく見ているだけであっという間だったと口を揃えて言う。」

「そっか・・・最後の12時間ですもんね・・・。」

「看視任務に仲の良い人がいれば、その人の所へ足を運んで家族の様子を見る人はたまにいるけどね。・・・ところで琉緒はずっと黙ってるけど何なんだ?」

ジンの視線が琉緒に移り、美癒は慌てて止めに入る。

「あっ!琉緒の事は気にしないで下さい。」

「ふんっ。俺は行くつもりないけど、美癒に無理やりつれて来られたんだよ。」

琉緒は膝の上で肘をつき顎を乗せたまま呟く。

【この世】に行きたくないと言い続ける琉緒を説得して連れてきたのだ。

なかなか首を縦に振らない琉緒に『ジン様と2人きりで話して良いの?』と言ったら渋々着いて来た。

「美癒ちゃん、【この世】に行くことについて強制はできないんだよ。行く権利は与えられるけど、どうするかは本人が選択できる。」

「そ、そんなぁ・・・。」

琉緒と一緒に行けると思っていた美癒は1人で行くことが想像できなかった。

「親に会いたくないのか?・・・まあ任務就任まで日にちはまだまだあるから、それまでに考えておくといい。」

琉緒はジンに返事をせず立ち上がり、子供たちの方に進んで行った。

その様子を黙って見る美癒とジン。

子供たちは近付いてくる琉緒に気付くと動きを止め、琉緒の方に向かって走り出す。

あっという間に琉緒は子供たちの中心にいた。

琉緒は子供と同じ高さにしゃがむと何かを話し、その後順番に子供たちを空に飛ばして遊び出した。

子供たちは大喜びだ。

「ははっ、琉緒って子供と遊べるんだな。」

「あ~・・・保育科実習について来てくれた事があって、それ以来子供と遊ぶのが楽しいみたいです。」

「僕は琉緒に嫌われてるからね・・・嫌われて当然なんだけど。あんな琉緒はじめて見る・・・。」

少し嬉しそうに琉緒を見るジンは、何だかんだ兄の顔だった。

「私達は【この世】の状況が見えないのに、ジン様はどうやって【この世】の状況を知って琉緒を操ってるんですか?」

「僕の意思通りに動いてるけど、全てを僕が操っているわけではない。【この世】の琉緒の魂が学習して成長して生活している。僕には琉緒の視界が見えるし心の中も繋がっている。もちろん本物の琉緒の魂が戻ったら僕には全く見えなくなるけどね。」

ジンのなかに、2人(ジンと琉緒)の視界・心・・・感情が存在している。

一体どんな頭の中をしているのか、美癒には全く想像が出来なかった。

「私なら頭の中が整理できない・・・ジン様って本当すごい・・・。」

「ははっ、琉緒は琉緒できちんと生活してるから手はかからないし・・・本物の魂がいつ戻っても大丈夫だよ・・・。」



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