夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第2章 第39話 暁闇


本格的に寒くなってきたある日、ジンの側近第3位昇進の正式発表が行われた。

その補佐役の中には、美癒と琉緒の名前も記載されている。

みんなが驚きとともに祝福するなか、ご機嫌斜めで祝福を受け入れられない琉緒。

「まだ納得できねぇ!美癒はジンに怒って断ってたくせに。」

補佐役を引き受けた事を最後まで言いだせなかった美癒は、機嫌の悪い琉緒の肩を揉んで必死に言い訳をする。

引き受けた事を知らなかった琉緒は、もちろんこの正式発表が初見だった。

「そ、そうだったんだけどさ。私って意外と有能で、カンナのお父さんに引き続き、近藤君の魂も戻す事が出来たでしょ。ジン様に協力して結果的に神様の力になれるならそれで良いと思ったの。言い出せなくてごめんね。」

ゼロの事を黙っておくために、セリフは何日も前から決めていた。

「まだコントロールできてねぇのに?」

「ふん、例えコントロール出来てなくても私には魔法が使えるの。」

「そんなん俺は認めないね。」

「何回だって言ってやるわよ。」

「・・・ったく、言って欲しいのはそっちじゃねぇんだよ。」

琉緒は呟きながら呆れた顔をし、美癒と共に次の授業の遂行室まで向かった。

卒業前の最後の遂行実習だった。

看視報告内容を見て、良い行いをした者と悪い行いをした者の記録を仕分けをしていく。

(ジン様に深くは聞けなかったけど、何で遂行任務からゼロは罰せられないんだろう?手に負えないってどういうこと?)

「先生、悪い事をしても罰を受けない人がいるのは何故ですか?」

気になってたまらなくなった美癒は先生が近付いてきた時を狙い、こっそり耳打ちする。

「そうですね、長い年月が経っても罰は必ず受けます。ただ遂行任務で罰を与える事が出来ない人というのはいないでしょう。神様から命を授かり、神様と繋がっている。みんな神様の子であるのだから。」

先生は顔色を変える事なくあっさりと答えた。

(なーんだ、そういうことか。ゼロはジン様が作った魂で、自我を持って支配から離れてしまったから管轄外っていう事なのね。)

「ありがとうございます。勉強になりました。」

「・・・美癒さん、これは小学生で習う基礎なのですが・・・。」

「あれ?・・・え、えへへっ・・。」

「あなたは卒業後にジン様の元で任務に就くのですから、しっかりして下さいね。
全く・・・優秀な琉緒君がいるから心配はないでしょうけど。」

「はぁい。すみません。」

斜め前にいた琉緒の背中に目を向けると、肩を少し丸めて震わせていた。

(琉緒め、絶対盗み聞きして笑いを堪えてる。地獄耳め!)

「美癒ちゃん、顔怖いよー。」

琉緒を睨んでいた美癒を見て、隣に座っていたカンナが真っ青になる。

(隣にいるカンナには聞かれてないのに、なんで琉緒には聞こえてるのよ!)

「あ、カンナ。へへへっ。そんな事ないよー。さっ!早く終わらせよう!」

カンナは卒業後、保育任務に進む事が決まっている。

両親の愛を知っているカンナは、きっと良い保育士になるだろう。

この時期になると、みんな進路が決まってくる。

そして、それぞれの道に進んで行くのだ。


美癒は仕分けが終わると、最後に遂行実習の報告書をまとめた。

(色々あったなぁ。同じ人間なのに『良い行いをする人』と『悪い行いをする人』、全然違うんだもんな。因果応報って本当にその通りだから遂行任務の大切さが良く分かった。菜都の周りは良い人ばかりで本当に良かったなぁ。そして私の周りも・・・良い人ばかりだ。)

そう思いながら美癒は自然と琉緒の方に目をやった。

琉緒は真剣にパソコンを見つめていた。

コツンッ
なんとなく、琉緒に向かって消しゴムの欠片を投げると、琉緒は目を細めて振り返る。

「な・に・し・て・る・の?」

美癒が口パクで話しかけると、琉緒は「ちょいちょい!」と手招きをした。

そっと琉緒に近付き、隣にしゃがみこんで小声で話す。

「琉緒、もう終わったんでしょ?何してるの?」

「終わってるけどちょっと気になっててさ、お前と最後にした遂行実習の対象者・・・あの誘拐未遂野郎だけど、息子の情報が全くなかっただろ?暇だから調べてみてたら・・・ほら、見てみろよ。」

指差された画面に目を向けると沢山の名前が表示されているなか、息子に限っては『ワダ アキラの長男』と表示されていて、赤い鍵マークがついていた。

「なにこの画面?初めて見た。」

「慎先生のIDで入った。名前まで隠されて、お偉方にしか見えないように鍵までされてるんだぜ?」

「あ・・・怪しい、けど慎先生のIDを使いこなしてる琉緒の方が怪しいよ!!」

「ふっ、これくらいなら簡単だ。」

「・・・あっ!でも他にも鍵マークがついてる人がいる。」

「そうなんだよ、だからコイツだけじゃないんだけどさ。」

「あんな人の息子なんてどうでも良いけど、こんな画面見たら少し気になるね・・・。」

「結局何者か分からなかった・・・残念だったなー。ま、遂行実習もこれで・・・タイムリミットだ。」

終わりを知らせるチャイムが鳴った。

「一介の教師達には見えない情報の方が多い、だから鍵がついてるからってそんなに気にするな。」

そう言って琉緒は笑った。

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