夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

第2章 第27話 美癒と菜都

菜都の反応に琉偉が驚く。
           
「あれ?知り合い?」

「んー?俺は初めましてだけど。」

「兄貴の話をしたことあったっけ?」

「っ・・・!?」

混乱して、琉偉の手を放し頭を押さえながら座り込む菜都。

「ちょっと、大丈夫?」

兄の琉緒が慌てて自転車から降り、菜都の頭をポンポンっと優しく包んだ。

その瞬間、菜都の全身にピリリッとまるで電気が走ったような感覚に陥った。

脳裏には、懐かしい琉緒の笑顔が一瞬だけ浮かんだ・・・気がした。

「気分悪くて保健室で休んでたから家まで送るんだよ。丁度いいから自転車貸して。美癒、後ろ乗れる?」

琉偉は動かない菜都の背中をさする。

「自転車に乗るの無理なんじゃない?おんぶして帰った方が良いと思うけど。」

「・・・うーん。」

そう言うと琉偉は菜都をお姫様抱っこして持ち上げた。

菜都の顔が見えて驚く。

「泣いてるの!?」

涙を流しながら首を横に振る。

「そっか・・・大丈夫だからね。家まで帰ろう。」

「琉偉のカバン持って帰っとくよ。」

「よろしく。」

「じゃあ気を付けて。」

そう言って、琉偉の兄は去って行った。

琉偉はお姫様抱っこのまま、歩き出す。

「兄貴が来てビックリしたよね?そのせいで余計に気分悪くなったならごめん。」

菜都は再び首を横に振る。

「何で琉緒って名前知ってたの?」

「・・・。」

黙る菜都に、琉偉はそれ以上聞かなかった。

家に着く前に落ち着いて、お姫様抱っこから降ろしてもらった。

「送ってくれてありがとう。また明日ね。」

「どういたしまして、ゆっくり休んで。また明日。」

笑顔で手を振ってくれる琉偉。

菜都が家に入るのを確認して帰って行った。


***


「琉緒。今の見た?」

モニターの映像は流れ続けている。

「・・・俺の担当は琉偉だからなぁ。」

「私の見間違いじゃないよね?」

「あー、天気も悪いし調子も悪そうだ。」

「・・・違う。」

「ーーーははっ、だよな。おかしい事が起きたよな。」

観念したように琉緒が答える。

「・・・意味分かんない。何で琉緒があそこにいるの!!?」

黙る琉緒。

琉偉の兄と紹介された人物は、名前だけでなく顔まで瓜二つだった。

「普通に琉緒だったよね?どういうこと?」

琉緒は険しい顔をしたまま目を瞑ってしまい、何も話さない。

美癒は琉緒のモニターを覗き込む。

琉偉は、雨が降り出してしまい、走って帰っている。

そこに、兄が傘を持ってやってくる。


「やっぱり・・・どこからどう見ても琉緒だよ。」

(でも話し方は全然違う。琉緒みたいに口が悪くなくて、どちらかと言うと・・・ジン様のような口調だ。)
 
「琉偉は何を知ってるの?何を隠してるの?説明・・・してくれるよね?」

「・・・ジンと一緒に話す。」

「それっていつ?」と美癒が聞こうとした途端、琉緒の魔法で2人は応接室の前に移動した。

コンコン・・・
「いるんだろ?入るぞ。」

そう言って琉緒は応接室の扉を開けると、ジンが一人で座っていた。

まるで、2人を待っていたかのように。

「よく分かったね。ここにいるって。」

「ふざけるな、わざとだろ?」

「ははは。僕も焦ってるんだよ。」

「看視実習はあと数回で終わる予定だった。実習中は近付けない約束だろ。」

(何のこと?話が読めない。)

「美癒ちゃんに説明してからここに来たのかい?」

「・・・これからだ。」

「そっか、美癒ちゃんも驚いたよね?まさか琉緒が生きているなんて。」

「え!!?確かに琉偉のお兄さんは琉緒に見えたけど・・・生きてる?」

「そうだよ、あれは琉緒本人だ。
まず僕と琉緒の関係だけど、前世よりずっと昔から縁があるって話したよね。
もともと僕達は1つの魂だったんだ。
2つの魂に分かれて別々の人生を歩むはずだったのに・・・。
僕は生まれる事が出来なかった。
悔しくて、琉緒の事も生まれる直前に魂を入れ替えてやったんだ。
僕お手製の作り物の魂とね。」

「つくりもの・・・?」

「そうだよ。だから【この世】にいる琉緒は、僕の操り人形みたいなものなんだ。」

急に色々な情報が入り頭が混乱してしまうが、それでも分かる。

それがひどいという事だけは。


「ひどい・・・。ひどいよ・・・。」

「うん僕も後悔してる。だから美癒ちゃんにお願いしたいんだ。魔法をうまくコントロールできるようになったら・・・琉緒の魂を戻してやって欲しい。」

「ハッ・・・。勝手な事を言うなよ。俺は【この世】の人間になんてなりたくないね。お前が今まで操って生きてきた人生だ、好きに使え。【この世】は魔法が使えないし不便じゃねーか。」

「そうだよね・・・。琉緒は私から離れていかないよね・・・?」

そう言って美癒は応接室から走り去る。

勝手な事を言ってしまった事は自覚していた。

琉緒が生きているなんて良い事だ。

だが、自分の目の前からいなくなるかもしれない少しの可能性に不安を感じた。

琉緒は美癒を追いかけなかった。

「お前は何を企んでる?琉緒の身体を欲しがってるのは、お前だろ。」

「何を言ってるの?僕は琉緒のためにしてるんだよ。それに君も昔の美癒ちゃん…今の菜都ちゃんに会いたいんじゃないの?」

「俺はーーー。」


---


(琉緒も何で今まで黙ってたのよ!それにジン様がそんなひどい人だったなんて!!)

美癒の怒りは収まらない。

教室に戻って、付けっ放しだったモニターに気付き消そうとした時、菜都が一生懸命勉強している姿が目に入った。

(なんだ・・・大丈夫そうだね。)

安心してモニターを消して学校を後にした。

だが、菜都は勉強していたわけではなかった。

記憶を整理するために、ノートに書き込んでいたのだった。

     
     

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