夢で出逢う - meet in a dream -
第2章 第23話 フラグメント
船から美癒の部屋までは、ジンと琉緒が送ってくれた。
「ジン様。送って下さり有り難うございます。」
「んー・・・っと。少し上がらせてもらってもいいかな?個別で話をしようって終わらせてたからさ。」
「あ、ハイ。」
(琉緒もかな?)
そう思っているうちに琉緒が美癒の部屋の鍵を開ける。
その光景を見て思わずジンが吹き出す。
「ははは、結局鍵を渡したんだね。」
「いやー、あの、別に・・・琉緒に任せた方が楽だと思って・・・。」
「良いんじゃない?でも僕を仲間はずれにしないでね。」
悪戯っ子のように茶化すジン。
「そんなっ恐れ多いですよ!」
「うだうだ言ってねーで、早く入るぞ。」
「お邪魔します。」
「どうぞどうぞ!飲み物準備しますね。」
「気にしないでいいよ。」
「俺はいつものでー。」
「・・・変なマウント取らずに『いつもの』って何か教えなさいよ。」
3人でソファに座ると、当たり前のように話を聞こうとしている琉緒の姿を見てジンは笑う。
気持ちが不安定な美癒にとっては有難い存在だった。
「話って・・・?」
「僕は神使任務に就いて年数はまだ浅いんだけど、神様の側近第3位に昇進が決まったんだ。」
神使任務は、上位5名が神様の側近第1~5位に任命される。
ジンの場合は誰もが次期側近だと予想していただろう。
「思ったより早い任命だな。どこの所属になるんだ?」
「正式発表は後日だけどね。所属は【空の世界】だから最近は出入りも頻繁になっていたんだ。」
「権限が持てて良かったじゃねーか。お前の悪趣味に神様も興味津々だしな。」
(本当に琉緒はジン様を毛嫌いしてるよね~。すごく失礼。)
「その話は取り敢えず置かせてもらうよ。
そこで、丁度いいタイミングだし美癒ちゃんは神使任務に就いたら、僕の傍で補佐役を勤めてみないかい?
前に美癒ちゃんを神使任務に推薦するって言ったのも僕だしさ、僕の傍で学べた方が良いと思って。」
(・・・・・・。んんん?)
「ちょっと待って下さい。全然頭が付いていきません。」
「急で驚くよね。でも前向きに考えて欲しいんだ。」
ジンからの誘いは、またとないチャンスだった。
自分が役に立つならば喜んで受けたい、だがジンの補佐役を希望する者も多いだろう。
自分より実力の有る人が選ばれるべきではないかと考え込む。
「有り難いお話しです。でも、少し・・・考えさせてください。」
美癒なら絶対に引き受けてくれると思っていたジンは少し驚いた。
気付かぬうちに美癒の喜ぶ表情をも期待していたのだ。
「分かった。もし美癒ちゃんが引き受けてくれるなら、琉緒も補佐役にしてもいいと思ってる。」
「何だよそのオマケ扱いは。俺にだって選ぶ権利は有るだろうが。」
「辞めとくか?」
「美癒に先越されるのは癪だから、美癒が引き受けるなら俺もやってやるよ。」
「素直じゃないなぁ。」
ジンと琉緒の会話はあまり美癒の頭に入ってなかった。
今日は色々な事が起きた。
魂を操る事が出来るのだと初めて知って、カンナの父親を生き返らせる事が出来た。
そして予想外のジンからの勧誘。
実際、断る理由もない。
だが素直に喜べるような簡単な話でもない。
「長くは待てない、良い返事を期待してるよ。」
「・・・はい。所でカンナのお父さんの件なんですけどーーー。」
「その件はまた後日にしよう。」
美癒が聞こうとしたら、ジンは言葉を遮って話を避けた。
(改めて個別で話すって言ってたから、そのために来たのかと思ったのに・・・。)
ジンが帰ったあと、美癒は気になっていた事を琉緒に尋ねた。
「ジン様の事をすごく嫌ってるのに補佐役になりたい?」
「昇進したらいつかは就く任務なんだ。それが遅いか早いかってだけじゃねーか。それに実際はジンの方が俺を嫌ってるんだよ。」
(琉緒の実力なら、補佐役を飛ばして側近になりそうな気がするけど・・・。)
「ふふっまさか〜。ジン様からしたら琉緒なんて眼中にないよ。」
「あいつには気をつけろ。何を企んでるのか分からねぇ。」
「…具体的に言ってくれないと分からないよ。」
「そのうちな・・・。」
「昔から縁があったとは聞いたよ?」
「ジンからか?縁があったというか、もともと…」
モゴモゴしてきて何を言っているのか分からない。
「ちょっと!だんだん声が小さくなって分からない!」
再びゴニョゴニョと、とても言いにくそうにする琉緒。
話が進まないから聞くのを辞めて風呂に入った。
時間が経って風呂から上がると、琉緒は既に帰ったようだった。
美癒はベッドに横になって、何となく両手を上げて見つめていた。
(魂…。私が操れるのなら、異界の山に来た人たちをドンドン生き返らせてー…って、神様が許さないか。琉緒の魔法と違って魔力の消耗は途轍もないだろうし。きっと私は長く生きられないんだ。)
そう思っているうちに美癒は眠りについていた。
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