夢で出逢う - meet in a dream -
第2章 第19話 フラグメント
次の日の朝、寝坊した美癒は慌てて支度をして玄関へ向かう。
(あれ?鍵がかかってる。鍵をかけた覚えもないし。)
相変わらず鍵をかけていない様子だが、わざとではなかった。
昨日は必ず鍵をかけようと思っていたのに癖で忘れていたのだ。
(玄関に置いているはずの鍵も見当たらない・・・。)
キツネにつままれたような不思議な気持ちのままドアを開けると、琉緒が立っていた。
琉緒は人差し指を立ててクルクル回していた。
指の先でクルクル回っているのは鍵だった。
「琉緒・・・まさかその鍵、私のじゃないわよね?」
「あれー?俺と絶交中だから話さないんじゃなかったっけ?」
「絶交おしまい!で、その持っている鍵は誰の?」
「美癒のに決まってんじゃん。」
(またこいつは・・・犯罪だ!!!)
「はぁ・・・もういいわよ。私の鍵は琉緒が持ってて。」
「え!?いいのか!?」
わざと不貞腐れた顔をしていた琉緒は、パァッと明るい表情に変わる。
「最初から琉緒が入れるように鍵を開けっぱなしにしてただけだし。」
「そおーかー・・・って、え!?なんで!?どういう事だ!?」
「いいから、はい。渡すのは本意ではないけど・・・持ってて。」
「お、おう!」
琉緒は「それなら最初から渡してくれれば良かったのにー。」とブツブツ言いながらも満足そうな顔をしている。
そんな琉緒を横目に、無駄に喧嘩した事を少し後悔していた。
「それより、昨日は何で【空の世界】に行ってるって分かったの?」
「ジンの使いが言いに来たんだよ。俺が向かうのを分かってて、律儀に言ってきやがった。」
「・・・琉緒って本当に何でもできるよね。あんなに遠い所、行こうとも思わないよ。そもそも私はいけないけど。」
「まぁな。俺の寿命も縮んだだろうな。」
「縁起でもないこと言わないでー。」
琉緒が許可なく【空の世界】に行った件は、ジンが何とかすると言っていた。
でも何か処罰があるのではないかと心配していた美癒は、ジンが自ら琉緒を呼んだようなものだと知って安心する。
学校に到着すると、慎先生が
「来た人から船に乗るように。」
と順次声掛けをしていた。
”船”と言っても、飛ぶ乗り物だ。
これから誘導実習のために、みんなは異界の山へ向かうのだ。
美癒と琉緒は一緒に船に入り外が見える窓側の席に座ると、クラスの女の子達がやって来た。
「ねぇねぇ美癒ちゃん知ってる?実は今日の誘導実習でやってくる【この世】の人がね、カンナちゃんのお父さんなんだって!身内が亡くなって来てしまうのはよくある事だから仕方ないけど、タイミングがねぇ・・・本当に可哀そう。
慎先生に『心の準備をしておきなさい』って言われてるのを見ちゃったの。カンナちゃん、トイレにこもってずっと泣いてる。どうしよう・・・。」
同じクラスのカンナは、成績が良く大人しい子だ。
父は大手企業の社長で、母はハンドメイドが趣味の専業主婦だと嬉しそうに話していたことがある。
「あーアイツ。元々泣き虫だからな。」
「ちょっと、琉緒!!そんな事いわないの!
でも、よりによって実習の日に身内が来るなんて・・・。」
「でも身内が来る場合、普通は日にちを変えるだろ。」
「だよね・・・。ちょっと私、カンナの様子見てくる!」
身内がやって来る場合、実習の日程を遅らせる事が多い。
冷静に実習を受けられない可能性を考慮しての事だ。
美癒がカンナのいるトイレに入ろうとすると、後ろから気配がして振り返る。
ついて来ていた琉緒までトイレに入りそうだったから、流石に止めた。
そしてトイレの個室からは、カンナの必死に抑えようとしている泣き声が聞こえて、とても辛くなった。
(何でカンナがこんな目に・・・。)
コン、コン
「カンナ?入ってるよね・・・?ごめん、本当は何を言えばいいのか分からないけど・・・お父さんが亡くなるなんて本当に悲しいよね。
・・・でもね、私は父親の最後に会えるって、それはそれですごい事だと思うの。
だって【この世】では会う事が出来なかったんだよ。」
自分に出来る事をしたいと思い、必死に伝える。
「・・・・・ヒック・・・ヒック・・・
美癒ちゃんは自分の事じゃないから言えるんだよ・・・簡単に言わないで。
お願いだから今だけは放っておいて。」
「そうだよね、そう思われても本当に仕方ないよね。
これから慎先生に抗議しに行くつもりだから、ちょっと待っててくれる?」
「・・・違う。慎先生は延期にするか聞いてくれたの・・・だけど私が必要ないって答えたんだよ。」
「なんで!?」
「パパが死んでしまう・・・それは変わらない事実だから受け入れる・・・。
でも大丈夫、泣くのは今だけだから・・・実習はきちんと受けるから。
だから今だけは放っておいて欲しい・・・。」
最初から放っておいて欲しいと訴えていたカンナ。
必死に父親の死を受け入れようとしているカンナ。
本当に何も知らずに励まそうとしていた自分を恥じた。
(カンナの背中を押すつもりが邪魔してた。私が思っていたよりもカンナは強かったんだ・・・私ってば何を思いあがっていたんだろう。失礼な事しちゃった・・・。)
「余計な事を言ってごめん。」
謝る以外に何も言えなかった美癒は、トイレから出て行こうとする。
その時、とても小さな声で
「八つ当たりしてごめんなさい」と聞こえてきたので、
美癒も涙が込み上げてきたが必死に堪えてトイレを後にした。
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