夢で出逢う - meet in a dream -
第1章 第13話 乾き
美癒が久しぶりに学校へ行くと、神使任務に推薦されたことが既に公式発表された後だった。
何も知らない美癒が教室に入ると沢山の人から祝福されて戸惑った。
しかしその中には、”なぜ美癒が推薦されたのか”と不思議がる人もいた。
美癒は祝福に対してお礼を言いながらも、何も取り柄が無い自分に恥ずかしくなると
同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
そんな時、琉緒が人混みに紛れて近付いて来ていつも通り話かけてくる。
「おはよ、今日は来るの早かったな~。」
美癒は横目で琉緒を見る。
(・・・何よ。琉緒とは絶交中なんだから。)
頑固さが災いし、不安な気持ちの時に上手く甘えることが出来ないのが美癒である。
「・・・つーん。」
美癒の態度を見て、琉緒の眉がピクッと動いた。
「はぁ?まだ怒ってんのかよ。」
「・・・・・・」
そっぽを向いて何も答えない美癒に、ハァ・・・とため息をつきながら琉緒は美癒の頭にポンと手を置いて通り過ぎ、そのまま自分の席についた。
(折角いつも通りに接してくれたのに、私ったらちょっと子供っぽい事しちゃったかな・・・?でも私怒ってるし・・・絶交中だし!)
一方的に絶交宣言をして、後に引けない様子だ。
そのまま時間はあっという間に過ぎ、授業が始まる。
本日のメイン授業は看視実習。
1年間の授業のうち、半分以上は看視実習であるが、長く休んでいた美癒にとっては異界の山に行った日以来・・・入れ替わって以来、初めての看視実習である。
早速、席についてモニターの電源を入れる。
(最近見る夢は、何故かほとんどが【この世】の夢だったけど・・・やっと本物の菜都に会える!久しぶりだなぁ~。水上バイクで事故をしてたはずだから…あぁー、予想はしていたけどやっぱり痛々しいな。)
菜都の姿が映し出されると、左手は再びギブス、顎にはガーゼを貼られている。
だが既に数週間が経ち、ケガはほとんど治っていた。
そして今、菜都は左腕のギブスを外すため
父親と一緒に病院の待ち合いにいるところだった。
***
「今回はヒビだったのに、骨折した時より長引いたね。」
「前回の骨折は、綺麗に折れてたからだろう。」
「そっか・・・。顎も見た目では治ってるけど、笑った時の口角の上がり具合が左右歪んでるんだよね。気にしすぎかなぁ。」
「菜都・・・本当にごめんな。女の子なのに・・・。会社の集まりに行かなければ・・・水上バイクに乗るのを止めていれば・・・。」
悔しそうに顔を歪める父は、座ったまま膝の上で両手を握りしめて地面を見つめた。
「そんなっ!お父さんは何も悪くないよ。私がしたいことをして、その代償を払っただけ。お父さんを責めるつもりで言ったんじゃないの。それに、私は小さい頃からケガが多かったしね。これくらい何てことないよ。」
慌てる菜都に、黙り込む父。
本来父は励ます立場でありたかったが、逆に励まされてしまい返す言葉が無かったし、謝る以外にかけてあげる言葉も見つけられなかった。
暫く無言が続き、看護師に名前を呼ばれた時
菜都はこの場から・・・父から離れられることに安堵して診察室へ入って行った。
ギブスを外す作業をしている間、他の看護師が話しかけてくる。
「事故の時に言っていた『自分の記憶が現実味が無くて不思議な感覚』っていうの・・・どう?変わらない?」
菜都は目を丸くして看護師を見つめた。
率直な感想としては、”よく覚えていたなぁ~”だった。
「あー・・・はい。気にしないようにしてたんで何ともないですけど、その感覚は変わらないです。」
「そっか。人の細胞ってどんどん入れ替わっていくし、自分が自分ではないような感覚を持ってても不思議じゃないかもね。・・・って看護師の私がこんな出鱈目いったらダメだけど・・・忘れてちょうだい。
そうだ、知り合いに心理の先生もいるから、必要なら紹介するから言ってね。」
そう言って看護師はギブスの切断を続けた。
無言が続くことに耐えられなくなった菜都は、看護師に悩みを打ち明ける。
「最近は変な夢ばかり見るんです。それがちょっと気になってて・・・。あ、でも心理の紹介は必要無いです。こんな事で専門家に相談するのは馬鹿らしくて。」
「相談に行く人なんて、そんなものよ。恥ずかしがらないで。」
左腕のギブスが外れる。
「くっさ・・・。」
鼻の奥がツーンとして、恥ずかしくなった。
「ふふふ、ちょっと前もギブスしてたじゃないの。」
「あ、そうですよね・・・本当お世話になりました。ありがとうございます。」
「はーい。じゃあ、待ち合いで待っててね。」
***
美癒はモニターを見ながら愕然とする。
(どういうこと?菜都も自分自身への違和感があるの?私と同じ?)
今日の看視実習はまだ始まったばかり。
しかし冷静でいられなくなった美癒は途中で中断した。
モニターの電源を切り、周りは看視実習中のため
音を立てないよう静かに教室を出て行く。
(琉緒に相談・・・ダメだ、私が一方的に絶交宣言してるのに。あーどうしよう・・・よく分かんない!それに菜都の様子がずっと気になってたのに看視実習を中断しちゃうなんて。なんて馬鹿なんだろう!)
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