最強の戦士が魔法学園に入学しました

I.G

14話

ジンとレベッカがアルナの元を
訪れたことは、村中に知れ渡った。

あのフィルマ学園の生徒の姿を
人目見ようと、住民がアルナの
家の周りに殺到する。

「わぁ! すごい! これ何の生き物!?」

外で待機させていた小ドラゴンに、
村の子供達は興味津々だった。

「だ、ダメだよ! このドラゴンに
触ったら! このドラゴンはあの
レベッカ様の」

「いいのよ。アルナさん。
そんなやわじゃないから」

アルナに続いて家から出てきた
レベッカがそう許可を出すと、
村の子供達が

「わーい!! もふもふしてて気持ちい!」

と、ドラゴンと戯れ出す。

「す、すみません。レベッカ様」

アルナは背筋を凍らせた。

振り向けば、いつの間にか村の住民が
レベッカを物珍しそうに取り囲んでいる。

しかし、アルナの心配を余所に、
レベッカは住民の質問に応対していた。
それも楽しそうに。




アルナとレベッカが村の住民の
対応に追われていたころ、
ジンはパイを完食し終えて、
皿をキッチンに運んでいた。


ジンに気がついたアルナの母は、

「おや、もう食べ終わったのかい?
わざわざ持ってこなくても
よかったのに」

「食べ物を頂いたんだ。
皿くらい俺に洗わしてほしい」

「いいよいいよ、あんたは
客人なんだから、ゆっくりしときな」

そう言われて、ジンは困惑しつつも
皿を机に置いた。

「でも、よかったよ」

夕飯の支度をしながら、アルナの
母親は背中を向けたままぽつりと呟いた。

「アルナにちゃんと友達ができてて」

それに何故かジンは胸が苦しくなった。

この人は知らないのだ。
アルナが学園でどんな
生活を送っているのか。

「私はね、心配だったんだよ。
あの子はあまり人に強いことを
言えない子だから。一人で
我慢してしまうくせがある。
だから、田舎者のあの子が
いじめられてないか心配だった」

ジンは何も言えなかった。

ただ拳に力が入っていた。

「でも、あんたらみたいな
友達ができてて、安心したよ」

アルナの母親はこちらの方を振り返り、
笑みを浮かべた。
似ている。アルナが微笑んだときと。

「ジンっていったね。
ジン君、どうかあの子のことを
よろしく頼むよ。
あの子は弱い子だから」

「......弱くない」

「え?」

「アルナは弱くない。
どんな理不尽も耐えようとする
強い心を持っている。
けど、それでも耐えれないときが
あったら、そのときは俺がアルナを
守る。あいつと二人で理不尽を
共有すると決めたんだ」

ジンの言葉にアルナの母は
口をぽかんとしたが、再び表情が
笑みへと戻った。

「なるほどね、だからアルナは
あんたに」

「......?」

「いや、これ以上はあの子が
口にしないとね」

察しの悪いジンは
彼女のその言葉の意味が全く
理解できていなかった。





「アルナさん?」

一通り殺到していた住民の対応を
終えたレベッカが、疲れてへたりと
座り込んでいたアルナに話しかけた。

「はい?」

「少しいいかしら。貴方と二人で
話したいのだけど」

「も、もちろんですよ」

レベッカはここに来たとき貴方に
用事があると言っていた。

いよいよ、その用事が何なのか
明らかになる。

一体何を言われるのか、
アルナは身構えた。

「貴方......ジンのことが好き?」

一瞬、彼女の言っている意味が
分からなかった。

「え!? ど、ど、どうしてそんなこと」

「貴方にジンから離れてほしいからよ」

「......え?」

先程まで優しかった彼女はいなかった。
そこには、恐ろしく冷然とした
皇族の姿だった。

「私は、ジンがほしいの」

「......ほしい?」

「ええ、知ってるでしょ? 私が
皇族なの。それに一人娘だから、
いずれ私はこの国の王女になるわ。
だから、そのときのために、
信頼の置ける力の持った
従者がほしいの。その従者にジンに
なってもらいたい」

「で、でも......ジンがそれを拒めば」

「ええ、無理ね。今、彼にそれを
お願いしても、彼は間違いなく断ると
思うわ。だって......今、彼の頭の中は」

鋭い視線がアルナを射抜く。

「貴方のことで一杯だから」

アルナの体は震えていた。

「だから、ジンから離れてほしい。
距離を置いてほしいって、今日は
貴方にお願いしに来たの。
貴方から離れていけば、
彼は諦めると思うから」

「......」

アルナは怖くて声が出ない。
今、目の前にいる雲の上の存在に。
圧倒的な強者に。

「ジンのことが好きではないのでしょ?
なら、離れて。その方が貴方にとっても
良いことだと思うわ。周りから
冷たい目を向けられなくても済むから」

アルナは何も言えず、ただ
レベッカの赤く光る瞳を見つめていた。

「答えを聞かせてちょうだい」

「......わ、私は......」

答えは決まっていた。

そんなの嫌だ。

好きかどうかなんて分からない。
だけど、彼から離れないと
いけないのは嫌だ。

しかし、それをレベッカに言えない。
自分は弱い存在だから。

お前は弱くない。

そのとき、不意に甦ったジンからの言葉。

魔法戦の練習で弱音を吐いたあの日、
彼は言ってくれた。

『お前は弱くない。理不尽に耐えれる
強い精神を持っている』

そんなことない。
自分は弱くて、誰にも
反抗できないだけだった。

でも、そう言ってくれた彼に
自分はどれだけ救われたことか。

「私、無反応は肯定と捉えるの。
貴方はジンから離れてくれるって
ことでいいのね?」

やっぱり、それだけは嫌だった。

「......嫌です」

まずいだろうか。皇族相手に。
もうまともに学園生活を
送れなくなるかもしれない。

でも、それでも

「ジン君と離れるのは嫌です」

きっぱりと断った。

「......す、好きかどうかは
分かんないけど......でも、
彼から離れたくない......です」

言ってしまった。
もう取り返しがつかない。

アルナは恐怖で目を瞑った。

「そう。ならわざわざ
来たかいがあったわ」

しかし、レベッカの声は先程の
優しい声音に戻っていた。

「では、宣戦布告をします」

「え!? 宣戦布告?」

「ええ。私はどんな手を使っても、
貴方からジンを奪って見せる。
だから、貴方も奪われないように、
全力できなさい」

「全力で......」

「そうよ。奪われた後に、
返してって泣かれてもそれは
できないから。それだけは、
覚悟しておいて」

そう宣言して、レベッカは踵を返す。

「ま、待ってください! レベッカ様!
どうして、一々そんなことを
私なんかに聞いたんですか!?」

レベッカ程の権力者が田舎者の
自分にそんなことを聞きに来た
理由が分からない。
彼女の権力で欲しいが
ままにすればいいのに。

「私......同じものを奪い合うのが
好きなの。ライバル関係と表現すれば
いいのかしら。貴方はこれから
私のライバルよ、アルナさん。
よろしくね」

「ラ、ライバル......」
 
(あのレベッカ様と私が......)

体が震えてしまう。
と、同時に負けたくないと思った。
例えその相手がレベッカだとしても。

威風堂々としたレベッカの
背中を見つめて、アルナは
決心した。

戦って見せると。







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