最強の戦士が魔法学園に入学しました

I.G

8話

一回戦と二回戦ともレベッカとは
試合時間が被っていた。
だから、戦略が露見する恐れは
ないと踏んでいたが。
予め仲間にこちらの試合を
偵察させていたのだろう。

「どうしたの? 来ないのであれば、
私から行くけど」

確実に勝ちに来ている。

だが、あくまで師からは
過度な魔法は使うなと言われただけ。
初級魔法のダスト・ブレスは
こちらも使っていいはずだ。

「ダスト・ブレス」

ジンは己の体を煙の中に身を包んだ。

これなら、いくらでも攻撃できる。

そう思った直後、

「ウィンド」

レベッカは杖を使わずに、
右手から風を放出させた。

「煙が無ければ何も
できないのかしら?」

レベッカの発生させた強風は
ジンの纏った煙を後方へと
吹き飛ばした。

レベッカは余裕そうな笑みを浮かべて、
ジンの姿が露になるのを待つ。

しかし、いくら煙を飛ばしても
ジンは現れない。

その時レベッカは気がついた。

自分が風を吹かせたことによって、
ジンの後方にいた仲間を煙で
隠してしまっていることを。

「これでお相子だな」

完全に彼の策にはまった。

煙が消え、姿を現したのは、
倒れた仲間の前で立つジンだった。

初めて、レベッカの余裕そうな
笑みが引っ込んだ。

会場の雰囲気が驚きを帯始める。

Fランクの生徒がSSランクの生徒を倒した。

本来あってはならない事態である。

「......壇上から貴方が
そちらの女性を床に
叩きつけるのを見てたわ。
武術の心得があるようね?
どこかで習っていたの?」

「生きるために、敵から見て盗んだ」

レベッカはジンの言葉の
意味が理解できていないようだった。

ジンは再び疾駆した。

「ダスト・ブレス」

「無駄よ!」

レベッカも本気だった。

両手のひらを前に突き出して、

「エアーインパクト!」

空気の塊を放った。

しかし、それでも煙は晴れない。
放出量が多すぎる。

レベッカは接近戦を余儀なくされた。

死角だらけの煙の中で
ジンの拳が飛んでくる。

レベッカはぎりぎり
それを回避した。

未だ煙は晴れてない。
寧ろ濃くなっている。
あの男はまだダスト・ブレスを
出し続けているのか。

(あの男......なんて魔力の量なの!?)

いくら初級魔法とはいえ、
一年生で、しかもFランクの生徒が
魔法を持続できる時間は過ぎていた。

しかし、こちらにだって
首席のプライドがある。
敵を視認できないのであれば、
拡散系の魔法を使えばいい。

「ジェットストーム!」

レベッカは自分の周囲を
全て吹き飛ばす上級風魔法を
使った。
これで煙も相手も全て、

レベッカは何かが首に
触れたのを感じた。
そのまま何も抵抗できぬまま、
床へと押し倒される。

「嘘......」

ジンは無傷だった。
彼は握りこぶしを振り上げて、
降参しろと目で言っている。

レベッカは思い出した。

今年試験を合格した生徒の数は320人。
しかし、入学式に出席したのは
321人だった。

つまり、入学試験を受けずに
この難関学園に入学した者がいる。

試験を受けていないのであれば、
おそらくその者はFランクと
判定されるだろう。

「なるほど......貴方が......」

レベッカは負けを認めた。
だが、一方で嬉しかった。
自分よりも上が存在して。
これで高め合えるライバルが
できた。

レベッカは両手を上げて、口を開く。

「負けたわ。降参よ」

しかし、ジンは全く
動こうとしなかった。

「き、聞いてた? 私の負けよ。
だから、そこを退いてちょうだい」

ジンは動かない。

レベッカは眉を曲げて、
この男を観察した。

こちらの顔をじーっと見詰めている。

そして、今はこの煙で全く
周りが見えない。
となると、外からも自分達の状況は
確認できないだろう。

つまり、今ここは二人だけの
密閉された空間に違いない。

そして、男と女でこの体勢。

(ま、まさかっ!?)

「ちょ、ちょっと!
何考えてるの!?
いくら煙で隠されてるとはいえ、
そんな不純な行為私は」

「やばい......もう我慢......できない......」

ジンはようやく声を発した。

「待ちなさい!
ダメよ! ダメに決まって」

レベッカは気づいた。
ジンの真っ直ぐな視線に。
これまでこんな真剣な視線で
自分を見てくれる相手がいただろうか。

近寄ってくる相手は、皆金と権力目当て。
こちらの顔など全く見なかった。

しかし、彼は真っ直ぐと偽りのない
視線でこちらを見ている。

(彼......もしかして本当に
私のことを......)

レベッカはジンの肩に手を置いた。

「い、今の貴方はとてもじゃないけど、
冷静には見えない。
けど、そういう気持ちを
持ってくれたのは、嬉しいわ。
だから、ここは一旦落ち着いて。
また後日、ゆっくりと話をしましょ。
大丈夫、私は逃げないから」

しかし、それでもジンは退かなかった。
 
「すまん......もう無理だ。
許してくれ」

ジンはゆっくりと
レベッカに顔を近づけた。

「ま、待ってよ、ジン君。
私、まだ貴方のこと何も」

だが、次の瞬間、ジンの口から出たのは
愛の言葉でもなく、口付けでもなかった。

出たのは、

オロロロロロロロロロロ!!!

という嘔吐だった。



ジンはずっと耐えていた。
喉を這い上がってくるこの
感覚に。
だが、何とか動くこともできたし、
魔法も使えた。

しかし、煙の中でこの女の放った
突風が胃に直撃した。

途轍もない勢いで、胃から
それが這い上がって来る。
もうダメだった。

そんなときに、不運にも
この女と一緒に倒れてしまった。

動けない。
少しでも動いたら出てしまう。

だが、今出せばどうなるかくらい
ジンは分かっていた。

だがら、耐えていた。

なのに、この女は訳のわからないことを
喋って、一向に退こうとしなかった。

ジンはもう諦めたのだ。




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