最強の戦士が魔法学園に入学しました

I.G

4話

笑えない冗談だった。

高々学園。何も果たしていない子供の
集団のくせして、何が序列社会だ。

何故俺がそんな雑用をしなければ
いけないんだ。

「ジン君、色々大変だろうけど、
一緒に頑張ろうね」

そして、何故この女は俺に話しかける。
何故こんな奴隷のような扱いを受けて、
笑っているんだ。

「お前、恥はないのか」

いつしかそれは言葉となっていた。

「え?」

「こんな雑用を押し付けられたのに、
どうして笑っている。
悔しくはないのか。理不尽だと
思わないのか」

ジンはほうきを差し出すアルナに
そう吐き捨てて、横を通り過ぎた。

今日は清掃の日だったが、
そんな雑用を素直にする
つもりはない。
ジンはアルナを置いて、
寮へと戻った。

それからジンは全ての仕事を
することはなかった。
それなのに、アルナは何も言ってこない。
清掃も委員長の仕事も一人で
やっているのだろうか。

(知るか。こいつがそれを拒否する
ことがてきないからいけないんだ。
弱いからこうなる)





それから二週間後のことである。

放課後、一人で教室を掃除していた
アルナにクラスの女子が声をかけた。

「ちょっとアルナさん。
今日の昼休みの委員会、
出席しなかったでしょ」

どきりと胸が鳴った。

「ご、ごめんなさい! 
忘れちゃってて」

嘘だ。アルナは怖くて出席しなかった。
前回、一人で委員会に出席したあの日、
アルナは嘲笑された。
たった出身地と名前、そして
クラスを名乗っただけで。

よくそんな田舎から来たね。

誰かがそう馬鹿にした。

これも自分の成績が最下位なのが
原因だ。
だから、皆自分のことを馬鹿にするのだ。

また、あそこに行ったら馬鹿にされる。
嘲笑される。白い目で見られる。
アルナは会議室に入る直前で、
逃げてしまった。

「私さ、そのせいで部活の先輩に
叱られたんですけど」

「ご、ごめんなさい。私のミスで」

「どうしてくれんの? もう私、
あの部活に行けないかも
しれないじゃない。ただでさえ、
Fランクで行きずらかったのに」

アルナは何も言えず、
ただ下を向いていた。

「じゃあさ、お願いがあるんだけど」

「な、何?」

「魔法戦。私の代わりに出てよ」

「え!?」

魔法戦。それは学園祭に匹敵するほどの
人気イベントで、その名の通り、
学生が魔法で戦う大会だ。

「知ってるでしょ? クラスで
最低一組は出ないといけないの。
でも、立候補がいなかったら、
クラスで一番成績のいい生徒が
強制的に出場しなきゃいけないのよ。
だからさ、出てよ。アルナさんが
立候補してくれれば、私出る
必要ないもん」

「で、でも私なんて無理だよ。
成績最下位だし、そもそも組む
相手なんていないし」

「え? 逆らうの?」

恐ろしく低く冷たい声に、背筋が
凍った。

「自分の立場......わかってる?
まともに学園生活送れなく
なっちゃうよ」

彼女の視線が氷点下に迫った。

「じゃあ、お願いね」

アルナは震えた手でほうきを
握りしめたまま、ただ一人教室に
立ち尽くしていた。





翌日、ジンが教室に戻ると、
クラスの連中が黒板の前で
ざわついていた。

「嘘......アルナさん一人で出るの?」

「いくらなんでもこれってヤバくない?」

「下手したら大怪我しちゃうよ」

ジンは人の合間を縫ってそれを
見た。

『魔法戦   立候補者    エバ・アルナ』

魔法戦は知っている。

それにあの女は出るのか。
しかも一人で。

一体何が起こっている。

そう思った瞬間、クラスが
静まりかえった。

当の本人が教室に入ってきた。

ふらふらとした足取りで、
彼女は自分の席につこうとする。

「ね、ねえ! アルナさん。
魔法戦に出るって本当なの!?」

一人のクラスメイトがそう訊ねた瞬間、
彼女の表情は真っ青となり、
その場にばたりと倒れた。

悲鳴が上がる。

彼女は駆けつけた保健室の
先生に運ばれていった。

その昼のことである。

ジンはルビーに呼ばれた。

「貴方の師匠さんから電話よ」

ジンは嫌な予感を感じつつ、
恐る恐る受話器を手にした。

「はぁ......聞いたぞ、ジン」

師匠は呆れた声でため息をついていた。

「お前がとある女子生徒に
仕事を押し付けたせいで、
その子は倒れて
しまったようではないか」

どこでその情報を仕入れたのかは
分からない。だが、常に私はお前を
監視していると、出発するときに
師に言われていた。

「違う。あいつがそれを
拒否できなかったんだ。
あいつが弱いからいけない」

ジンはそう反抗した。

再び、師はため息を漏らす。

「あのな、ジン。強さとは何も
魔法とか武術に限った
話ではないんだよ。
どんな理不尽にも耐えようとする
精神的な強さも存在する」

「それは弱者の考えだ。
力がないから理不尽に抵抗できない」

「じゃあお前はその理不尽に
抵抗したのか? 違うだろ。
お前はその理不尽から
逃げただけだ」

それにジンは押し黙った。

「お前を入学させた学園が
序列社会で理不尽が横行しているのは
知っている。だから、お前をそこに
入学させたんだ。
この世にはどうすることもできない、
力だけでは解決できないことが
あると学んでほしかった」

「じゃ、じゃあ俺はどうすれば
よかったんだ。素直に押し付けられた
理不尽を受け入れればよかったのか」

「さぁな。その答えはお前が導き出せ。
だが、これだけは言うぞ?
理不尽から逃げたお前よりも、
理不尽に耐えようとしたその女子生徒の
方がよっぽど強い。
だから、せめてお前はこれから
その理不尽を一人に
押し付けようとせず、
共有しろ。そうすれば、
何か見えてくる」

そう師は言って、通話を切断した。

(理不尽を......共有?)

ジンは師の言っていることが
分からなかった。

だが、理不尽から逃げているという
師の表現が気に入らなかった。
自分は弱い人間ではない。
こんな雑用ぐらいやってみせると。

ジンはアルナが運ばれた
保健室へと入った。

「ああ、あの子ならここで寝てるよ」

保健室の先生に先導されて、
ジンは眠るアルナの前に立った。

気配に気がついたのか、
彼女は目を覚ます。

「......あれ......ここは......ああそっか......
倒れちゃったんだ......えへへ、ごめんね。
迷惑かけたね」

ジンは分からなかった。
どうしてこの女は笑っていられるんだ。
仕事を押し付けられたのに、
どうして俺に笑顔を向けられるんだと。

「アルナ」

「え?」

アルナは驚いた。

急に名前を呼ばれたことに。

「俺はこれからお前と理不尽を
共有していこうと思う」

「り、理不尽?」

「与えられた仕事を二人でやっていく
ということだ」

「ほ、ほんと......?」

彼女は安堵を表情に滲ませた。

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