最強の戦士が魔法学園に入学しました

I.G

2話

入学式の後、ジンが指導を受けたのは
もはや言うまでもない。
しかし、ジンは教師に手を出さなかった。
それは師から誰にも手を出しては
いけないと念を押されていたから。

確かに今回は寝ぼけて知らぬ女子生徒を
床に叩きつけてしまった自分が悪いと、
そう結論に至って怒りを抑えた。

「え、嘘......」

指定された教室に行くと、
生徒の視線が集まった。

皆がジンと同じクラスなのを
嘆いていた。
別に構わない。
この類いの反応には慣れている。
ジンは黒板を見て、自分の席を確認して
腰を下ろす。

ここに来る前に、師から学園の
生活方法とやらを伝授されている。
抜かりはない。

「はい、初めまして私の名前は
ルビーっていいます」

これが教師らしい。
興味はないが、必ず先生の
名前は覚えろと師に言われている。

「それでは、早速ですが皆さんには
実力テストを受けてもらいます」

これも......いや、これは師に言われてない。

(な、なんだその実力テストって。
模擬戦闘か何かか?)

「はい、じゃあ筆箱以外机にしまってね」

辺りの状況を確認すると、
皆が小さな箱を取り出し、そこから
鉛筆と消しゴムを取り出した。

ジンはようやく気がついた。
そういえば、師は言っていた。
学園の授業ではそれを使うから
買っておけと。

自分のミスにあたふたしていると、
一枚の紙が机の上に配られた。

『底辺10cm 高さ5cmの三角形の
面積を求めよ』

一番最初のその問題に、どちらにせよ
筆箱など必要ないと結論に至った。

これなら先ほどみたいに睡眠を取るかと、
腕を組んで背もたれに体重を預ける。

その時だった。誰かが右肩に触れた。

危うく、また手が出そうになった。

それを察知したのか、こちらの
右肩に触れたその相手はひっと
のけぞる。

その相手には見覚えがあった。

先ほど床に叩きつけてしまった
ピンク髪の女子生徒だった。

「ふ、筆箱忘れたんでしょ?
貸してあげるよ」

彼女は左手に一本の鉛筆と消しゴムを
握っていた。

それを受け取ると、相手はほっと
胸を撫で下ろして、自分の紙に
目を戻した。

(ついさっき俺に
あんな目に遭わされたのに......
何か狙いがあるのか?)

そんなジンの警戒を余所に、
彼女は鉛筆を走らせる。
対して、ジンは紙をじっと50分の間、
眺めたままだった。




テストが終わると、ジン達は学園を
案内された。

ジンの前でピンク髪の女子生徒は
目を輝かせる。

確かに豪華な造りで、見た目も派手だ。
しかし、悪く言えば贅沢になる。

これを建築する費用を少しでも
戦地や貧困地に回せばどれくらいの
命が救われただろうか。
 
(こんなところに俺を送って、
師匠は何がしたかったんだ)

そんな疑問を抱いたまま、ジンの
初日は幕を閉じた。





授業が本格的に始まったのは、
翌日からだった。

昨日受けたテストはどうやら
教科ごとにクラスを分けるため
だったらしい。

たとえば、数学ができる生徒と
できない生徒。

ちなみにジンは成績最下位で、
全ての教科ができない方のクラスだった。

「あ......一緒なんだ。よろしくね」

またあのピンク髪の女子生徒だった。
自分と同じということは、
このピンク髪も
頭が悪いのだろう。

ジンは誰とも馴れ合うつもりは
なかった。

彼女を無視して席へとつく。

1限目は数学、2限目は歴史。

どれも退屈だった。
師は体を動かす授業もあると
言っていたが、本当だろうか。

3限目は魔法。

場所は元いた教室だった。

何故こんなにも科目ごとに
移動をしなければ
ならないんだと胸中で愚痴を漏らす。

どうやら一番最初に割り振られた
クラスは、入学試験の魔法テストを
参考にしているらしい。
だから、魔法の授業は教室で受ける。
ちなみに、ジンは魔法成績最下位の
クラスに配属されていた。
そもそもジンは入学試験を受けていなし、
成績が存在しない。
このクラスになるのは当然だった。

「それでは、今日は皆さんに
この杖をお配りします。
三年間使うことになるので、
大切にしてください」

ルビーはクラス全員に
魔法の杖を配った。

ジンは呆れていた。
魔法の杖など戦場で使う者はいない。
こんな物が無くてもイメージだけで
十分だ。

「今日は魔法の初歩中の初歩、
火属性のファイヤーボールを練習します」

それにクラスが

おー!

とざわめく。

再び呆れてしまったが、考えみれば、
このクラスの連中は魔法の成績が
悪いはず。
もしかしたら、初めて魔法を
使う者もいるのだろう。

実はその者がジンの隣にいた。

ジンは三度呆れてしまった。
なんとそのピンク髪は
魔法の杖を逆さに
持っているではないか。

あれでは顔が火だるまと化してしまう。

「では、先生の後に続いてください。
炎の精霊よ。我に力を与えたまえ!
ファイヤーボール!!」

ボン! と先生の杖の先に
球体の炎が出現した。

それに目をキラキラさせて、
ピンク髪が続く。

「炎の精霊よ。我に力を与えたまえ!
ファイヤーボ」

「ば、馬鹿!よせ!」

「え?」

遅かった。
詠唱は完了していた。
ゆっくりと杖が熱を帯始める。

ジンは体を投げ出して杖を
奪い取ろうとした。

(間に合わない!)

咄嗟の行動だった。

目の前に銃弾が迫ったとき、
ジンはいつもこうしていた。

右手の手のひらを突き出して、
風で飛ばすイメージを抱く。

そうすると、

ピンク髪の右手から
杖が吹き飛んだ。

教室中に嵐が吹き荒れる。

バリン、バリンと次々に窓ガラスが
割れた。

(し、しまった......)

師に言われていた。

過度な魔法は使うなと。
お前が学びに行くのは、
魔法ではなく社会性なのだから。

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