才媛は一日にして成らず
(13)思わぬ提案
レオノーラがエセリアに接触してから幾日か経過した頃、エセリアは《チーム・エセリア》の面々を招集した。その時に当然と言えば当然だが、接待係のお茶会の場でグラディクト達がレオノーラを抱き込もうとして、あっさり失敗した件が話題に上がる。その事自体は、全員がさもありなんとの感想しか持たなかったが、そこで少し考え込んだエセリアが、カレナに問いを発した。
「カレナ。以前聞いたけれど、アリステアはまだ礼儀作法の授業は個別授業で、皆とは別の教室を使っているのかしら?」
「はい、相変わらずです……。その教室は元々使われてはおりませんし、もう彼女専用みたいですね。いっそのこと、全ての授業をそこで一人で受ければ良いのにと、周囲から陰口を叩かれております」
「そう。それならそこで起こったようにすれば、自然でしょうね」
「え? 何がですか?」
不思議そうに彼女が問い返すと、エセリアは皆を見回しながら問いかけた。
「《クリスタル・ラビリンス~暁の王子編》では、時期的に考えると、そろそろヒロインに直接的な嫌がらせが起こる頃ではない? 持ち物が無くなったり、壊されたりとか」
「確かにそうですが……」
「エセリア様。このクレランス学園では、席は固定ではありませんから、それは不可能かと。皆、私物を鞄に入れて移動して……」
以前クリスタルラビリンスの事が話題に上った時、今後の参考の為にと、シレイアから本を借りて読破していたローダスが、そう反論しかけて思い付いたように口を閉ざす。そんな彼に向かって、エセリアが微笑みかけた。
「そうなの。だから私物が紛失したり破損するなら、個人授業を受けているその教室が、現場になるのが自然ではないかしら」
「……筋は通っていますね」
「ですがまさかエセリア様が、そんな事は致しませんし、周りにさせもしませんよね?」
一応ミランが確認を入れると、エセリアは気分を害したように彼を軽く睨んだ。
「勿論よ。何を言っているの」
「失礼しました」
「でも、あの方ならどうかしら? 私がそういう事をしそうだと言う噂を耳にしたら、これ幸いと自作自演して、殿下に泣きつくとは考えられない?」
エセリアのその問いかけに、他の者は揃って困惑する。
「それは……」
「いくら何でも……」
「そこまで愚かでは……」
「それだったら賭けてみましょうか?」
「…………」
しかし全員やらない方に賭ける気は全く起きず、見事に押し黙った。それを見たエセリアが苦笑してから、ある事を申し出る。
「それでちょっとあの二人に、吹き込んでおいて欲しいの。それで実際に事が起こった場合の対処も、周知徹底して欲しいのだけど」
「分かりました。お伺いします」
「私物の紛失や破損の現場を、出入りが限定されている教室にするのには、他の方を騒動に巻き込まない意図もあるの。私が疑われるのは構わないけど、間違っても他の方が疑われないようにしたいわ」
それを聞いたシレイアは、それはそうだと内心で納得しつつも、無念そうに口にする。
「……エセリア様が疑われるのは噴飯ものですが、仕方がありませんね」
「だから、あくまでも殿下とアリステアだけが疑うように持っていくのが、俺達の腕の見せ所ってことだろう」
「その通りよ、ローダス。シレイアもお願いね」
「お任せください」
「分かりました」
ローダスが宥めてきた上にエセリアからも頼まれて、シレイアは気持ちを切り替えつつ頷いた。
「まずは私の周囲で不穏な噂が流れていて、今後アリステアの周囲で不穏な事態が起こりそうだと伝えて欲しいの。あくまで噂としてね」
「決して具体的な人物名や行為を挙げずに、ですね」
「そうよ。ただここで殿下が激高して学園側に訴えたりすると騒ぎになるから、ある程度は宥めておいて欲しいわ。人目もあるから滅多に騒ぎになる可能性は少ないこと、考えられる対策を講じておくこと、諸条件から考えると個人授業を受けている教室での危険性が高いことを説明して欲しいの」
「確かにあの西棟は、放課後だと更に出入りが少なくて、人目にはつきにくいですね」
シレイアが考え込みながら同意を示すと、エセリアが更なる提案を繰り出す。
「駄目押しに……、そうね。いっそのこと私もその西棟で、特別講義を受けている設定にしたらどうかしら」
「はぁ? どうして優秀なエセリア様が、放課後に特別講義を受ける必要があるんですか!?」
「そうですよ! 無理があり過ぎます!」
即座にローダスとシレイアが真顔で言い返すと、エセリアは一瞬キョトンとした顔になってから、笑いを堪える表情になって告げた。
「二人とも誤解しないで。私の成績が落ちて、補講を受けるとかの話ではないから安心して頂戴。ほら、西棟には歴史学のイドニス教授の研究室があるでしょう? そこで王妃様からの指示で、王国と周辺国の歴史について特別講義を受けていると説明すれば、あの二人に納得してもらえないかしら?」
そう説明された二人は、瞬時に納得して安堵の溜め息を漏らした。
「あ、ああ……。なるほど。確かにそれなら、さほど無理なく信じて貰えそうですね」
「先程は、大変失礼いたしました」
「良いのよ。話の持っていきかたと詳細については、全面的にあなた達に任せるわ。そうはいってもアリステアが自作自演に持ち込まなかったら、あなた達の裏工作が無駄になってしまうのだけど。そうなったらごめんなさいね。先に謝っておくわ」
エセリアは苦笑の表情で、シレイアとローダスに軽く頭を下げた。対する二人も笑顔で応じる。
「無駄になったらなったで、別に構いませんよ」
「少々脅かして、少しは殊勝な気持ちになってくれれば、それで良しとしましょう」
そこでその場は解散となり、シレイアとローダスは近日中にグラディクト達の所に出向く際にどのような内容の話をどう進めていくか、慎重に打ち合わせた。
「カレナ。以前聞いたけれど、アリステアはまだ礼儀作法の授業は個別授業で、皆とは別の教室を使っているのかしら?」
「はい、相変わらずです……。その教室は元々使われてはおりませんし、もう彼女専用みたいですね。いっそのこと、全ての授業をそこで一人で受ければ良いのにと、周囲から陰口を叩かれております」
「そう。それならそこで起こったようにすれば、自然でしょうね」
「え? 何がですか?」
不思議そうに彼女が問い返すと、エセリアは皆を見回しながら問いかけた。
「《クリスタル・ラビリンス~暁の王子編》では、時期的に考えると、そろそろヒロインに直接的な嫌がらせが起こる頃ではない? 持ち物が無くなったり、壊されたりとか」
「確かにそうですが……」
「エセリア様。このクレランス学園では、席は固定ではありませんから、それは不可能かと。皆、私物を鞄に入れて移動して……」
以前クリスタルラビリンスの事が話題に上った時、今後の参考の為にと、シレイアから本を借りて読破していたローダスが、そう反論しかけて思い付いたように口を閉ざす。そんな彼に向かって、エセリアが微笑みかけた。
「そうなの。だから私物が紛失したり破損するなら、個人授業を受けているその教室が、現場になるのが自然ではないかしら」
「……筋は通っていますね」
「ですがまさかエセリア様が、そんな事は致しませんし、周りにさせもしませんよね?」
一応ミランが確認を入れると、エセリアは気分を害したように彼を軽く睨んだ。
「勿論よ。何を言っているの」
「失礼しました」
「でも、あの方ならどうかしら? 私がそういう事をしそうだと言う噂を耳にしたら、これ幸いと自作自演して、殿下に泣きつくとは考えられない?」
エセリアのその問いかけに、他の者は揃って困惑する。
「それは……」
「いくら何でも……」
「そこまで愚かでは……」
「それだったら賭けてみましょうか?」
「…………」
しかし全員やらない方に賭ける気は全く起きず、見事に押し黙った。それを見たエセリアが苦笑してから、ある事を申し出る。
「それでちょっとあの二人に、吹き込んでおいて欲しいの。それで実際に事が起こった場合の対処も、周知徹底して欲しいのだけど」
「分かりました。お伺いします」
「私物の紛失や破損の現場を、出入りが限定されている教室にするのには、他の方を騒動に巻き込まない意図もあるの。私が疑われるのは構わないけど、間違っても他の方が疑われないようにしたいわ」
それを聞いたシレイアは、それはそうだと内心で納得しつつも、無念そうに口にする。
「……エセリア様が疑われるのは噴飯ものですが、仕方がありませんね」
「だから、あくまでも殿下とアリステアだけが疑うように持っていくのが、俺達の腕の見せ所ってことだろう」
「その通りよ、ローダス。シレイアもお願いね」
「お任せください」
「分かりました」
ローダスが宥めてきた上にエセリアからも頼まれて、シレイアは気持ちを切り替えつつ頷いた。
「まずは私の周囲で不穏な噂が流れていて、今後アリステアの周囲で不穏な事態が起こりそうだと伝えて欲しいの。あくまで噂としてね」
「決して具体的な人物名や行為を挙げずに、ですね」
「そうよ。ただここで殿下が激高して学園側に訴えたりすると騒ぎになるから、ある程度は宥めておいて欲しいわ。人目もあるから滅多に騒ぎになる可能性は少ないこと、考えられる対策を講じておくこと、諸条件から考えると個人授業を受けている教室での危険性が高いことを説明して欲しいの」
「確かにあの西棟は、放課後だと更に出入りが少なくて、人目にはつきにくいですね」
シレイアが考え込みながら同意を示すと、エセリアが更なる提案を繰り出す。
「駄目押しに……、そうね。いっそのこと私もその西棟で、特別講義を受けている設定にしたらどうかしら」
「はぁ? どうして優秀なエセリア様が、放課後に特別講義を受ける必要があるんですか!?」
「そうですよ! 無理があり過ぎます!」
即座にローダスとシレイアが真顔で言い返すと、エセリアは一瞬キョトンとした顔になってから、笑いを堪える表情になって告げた。
「二人とも誤解しないで。私の成績が落ちて、補講を受けるとかの話ではないから安心して頂戴。ほら、西棟には歴史学のイドニス教授の研究室があるでしょう? そこで王妃様からの指示で、王国と周辺国の歴史について特別講義を受けていると説明すれば、あの二人に納得してもらえないかしら?」
そう説明された二人は、瞬時に納得して安堵の溜め息を漏らした。
「あ、ああ……。なるほど。確かにそれなら、さほど無理なく信じて貰えそうですね」
「先程は、大変失礼いたしました」
「良いのよ。話の持っていきかたと詳細については、全面的にあなた達に任せるわ。そうはいってもアリステアが自作自演に持ち込まなかったら、あなた達の裏工作が無駄になってしまうのだけど。そうなったらごめんなさいね。先に謝っておくわ」
エセリアは苦笑の表情で、シレイアとローダスに軽く頭を下げた。対する二人も笑顔で応じる。
「無駄になったらなったで、別に構いませんよ」
「少々脅かして、少しは殊勝な気持ちになってくれれば、それで良しとしましょう」
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