才媛は一日にして成らず
(11)新たなトラブルの種
オリエンテーションが微妙な形で終了し、一部の不満をため込んでいる某殿下達を尻目に、シレイアは気分よく学業と剣術大会に向けての準備に邁進していた。そんなある朝、シレイアが寮から校舎に向かう途中でエセリアやサビーネ達と合流し、談笑しながら歩いていると、優雅な所作で進行方向に立ち塞がった人物がいた。
「ご機嫌よう、エセリア様」
「ご機嫌よう、レオノーラ様」
「少々お尋ねしたい事があるのですが、宜しいですか?」
「はい、何でしょうか?」
(レオノーラ様? 今年の接待係の責任者を引き受けていただいてから何度か顔を合わせた事はあるけど、何のご用かしら? エセリア様とは同じ貴族科上級学年のクラスなのに、教室では話せない事なの?)
ここで呼び止められた理由が分からず、シレイアは疑問に思った。それは同行しているエセリアも同様だったらしく、不思議そうな顔になりながらも詳細について問い返す。するとレオノーラは、予想外の事を告げた。
「昨日グラディクト殿下から、あのアリステア嬢を接待係に入れろと命じられたのですが、エセリア様はこの事はご存知でしょうか?」
「……いいえ、全く。初耳ですわ」
(冗談でしょう!? だって接待係はこの二年間、全員貴族科上級学年の生徒の中でも上級貴族のお嬢様だけが所属してきたのに!! 強制してきたわけではないけれど、他の係に参加できない方が自然に集まっていたのよ。だけど皆さんマナーも会話も完璧で、スムーズに現場を回してくださっていたのに。そんな人達の中にマナーがからきしで補講を受けている人間が入って、どう考えても上手くいくわけないじゃない!!)
シレイアは最初自分の耳を疑い、次いで心の中で悲鳴を上げた。しかし残念な事に、レオノーラの話は更に続いた。
「しかも、かのご令嬢が接待係の殆どと面識が無いので、私に顔合わせの席を設けろと仰いましたのよ? 挙げ句の果てに、何をどう勘違いされたのか、私を『エセリア様の走狗』とまで仰られて、意味不明な罵倒をされておられました」
「それは……、レオノーラ様にご不快な思いをさせた上、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
(本当に何を考えているの、あの迂闊粗忽恥知らず王子!! レオノーラ様を怒らせるだけではなくて、婚約者であるエセリア様の立場まで悪くするなんて!!)
そこまで話を聞いたエセリアは唖然とした表情になり、次いで面目なさげに頭を下げた。それを見たシレイアの怒りも頂点に達する。
しかしレオノーラは少々おかしそうに笑ってから、急に顔つきを改めて申し出た。
「一つ確認なのですが。恐らく殿下が顔合わせの席を設けて、接待係全員を招く事になると思います。その場で何があっても、エセリア様の関知するところではございませんわね?」
「勿論です。私もシェーグレン公爵家も、そんな些細な事に煩わされず、これからもレオノーラ様とラグノース公爵家との友好関係を保ちたいと考えております」
「それを伺って、安心いたしました。それでは私の好きにさせて頂きます」
「ええ、どうぞご存分に」
互いに真顔で頷いた後はいつもの笑みに戻り、双方は離れて歩き出した。面倒な事になったと思っているのが丸わかりのエセリアの様子を、サビーネとシレイアは心配そうに窺う。
「取り敢えず、当面の方向性としてはどうしましょうか? 放置というわけにもいかないと思いますが……」
「そうよね……。剣術大会の成功のためにも、ここでレオノーラ様を本気で怒らせて、接待係の責任者を降りるとか言い出されたら困るわ。そんな事になったら他の人達が遠慮して、誰も引き受けてくれなくなるわよ」
控え目にシレイアがお伺いを立てると、サビーネも難しい顔になりながら相槌を打つ。それを受けて、エセリアが二人に指示を出した。
「取り敢えず、必要最低限の情報を彼女の頭に叩き込んでおく必要があるわね。サビーネ。大至急、接待係所属の生徒名簿から彼女達の家や領地の話題、今現在社交界で話題になっている事柄をリスト化して頂戴。かなりの量になるから絶対に完璧に覚えられないとは思うけれど、全く予備知識がないよりはマシだと思うから」
「分かりました。早速取りかかります」
「シレイアは殿下とアリステアに、他の接待係の方達に対して礼を逸しないためと、話題に繋げて円滑な会話できるように事前に情報収集をしておいた方が良いと吹き込んでおいて頂戴」
「それでは今日の放課後、二人を説得してきます」
(全く次から次へと、どれだけ他人《ひと》の仕事を増やす気なのかしら!?)
サビーネは諦め顔で、シレイアは憤然としながらエセリアの言葉に頷いたのだった。
「ご機嫌よう、エセリア様」
「ご機嫌よう、レオノーラ様」
「少々お尋ねしたい事があるのですが、宜しいですか?」
「はい、何でしょうか?」
(レオノーラ様? 今年の接待係の責任者を引き受けていただいてから何度か顔を合わせた事はあるけど、何のご用かしら? エセリア様とは同じ貴族科上級学年のクラスなのに、教室では話せない事なの?)
ここで呼び止められた理由が分からず、シレイアは疑問に思った。それは同行しているエセリアも同様だったらしく、不思議そうな顔になりながらも詳細について問い返す。するとレオノーラは、予想外の事を告げた。
「昨日グラディクト殿下から、あのアリステア嬢を接待係に入れろと命じられたのですが、エセリア様はこの事はご存知でしょうか?」
「……いいえ、全く。初耳ですわ」
(冗談でしょう!? だって接待係はこの二年間、全員貴族科上級学年の生徒の中でも上級貴族のお嬢様だけが所属してきたのに!! 強制してきたわけではないけれど、他の係に参加できない方が自然に集まっていたのよ。だけど皆さんマナーも会話も完璧で、スムーズに現場を回してくださっていたのに。そんな人達の中にマナーがからきしで補講を受けている人間が入って、どう考えても上手くいくわけないじゃない!!)
シレイアは最初自分の耳を疑い、次いで心の中で悲鳴を上げた。しかし残念な事に、レオノーラの話は更に続いた。
「しかも、かのご令嬢が接待係の殆どと面識が無いので、私に顔合わせの席を設けろと仰いましたのよ? 挙げ句の果てに、何をどう勘違いされたのか、私を『エセリア様の走狗』とまで仰られて、意味不明な罵倒をされておられました」
「それは……、レオノーラ様にご不快な思いをさせた上、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
(本当に何を考えているの、あの迂闊粗忽恥知らず王子!! レオノーラ様を怒らせるだけではなくて、婚約者であるエセリア様の立場まで悪くするなんて!!)
そこまで話を聞いたエセリアは唖然とした表情になり、次いで面目なさげに頭を下げた。それを見たシレイアの怒りも頂点に達する。
しかしレオノーラは少々おかしそうに笑ってから、急に顔つきを改めて申し出た。
「一つ確認なのですが。恐らく殿下が顔合わせの席を設けて、接待係全員を招く事になると思います。その場で何があっても、エセリア様の関知するところではございませんわね?」
「勿論です。私もシェーグレン公爵家も、そんな些細な事に煩わされず、これからもレオノーラ様とラグノース公爵家との友好関係を保ちたいと考えております」
「それを伺って、安心いたしました。それでは私の好きにさせて頂きます」
「ええ、どうぞご存分に」
互いに真顔で頷いた後はいつもの笑みに戻り、双方は離れて歩き出した。面倒な事になったと思っているのが丸わかりのエセリアの様子を、サビーネとシレイアは心配そうに窺う。
「取り敢えず、当面の方向性としてはどうしましょうか? 放置というわけにもいかないと思いますが……」
「そうよね……。剣術大会の成功のためにも、ここでレオノーラ様を本気で怒らせて、接待係の責任者を降りるとか言い出されたら困るわ。そんな事になったら他の人達が遠慮して、誰も引き受けてくれなくなるわよ」
控え目にシレイアがお伺いを立てると、サビーネも難しい顔になりながら相槌を打つ。それを受けて、エセリアが二人に指示を出した。
「取り敢えず、必要最低限の情報を彼女の頭に叩き込んでおく必要があるわね。サビーネ。大至急、接待係所属の生徒名簿から彼女達の家や領地の話題、今現在社交界で話題になっている事柄をリスト化して頂戴。かなりの量になるから絶対に完璧に覚えられないとは思うけれど、全く予備知識がないよりはマシだと思うから」
「分かりました。早速取りかかります」
「シレイアは殿下とアリステアに、他の接待係の方達に対して礼を逸しないためと、話題に繋げて円滑な会話できるように事前に情報収集をしておいた方が良いと吹き込んでおいて頂戴」
「それでは今日の放課後、二人を説得してきます」
(全く次から次へと、どれだけ他人《ひと》の仕事を増やす気なのかしら!?)
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