才媛は一日にして成らず
(9)思わぬ親孝行
まず挨拶と見学のつもりでクレランス学園を訪ねたノランは、予想外に初対面のハーバル教授と意気投合した。図書室の蔵書は勿論、資料室の充実ぶりや繊細な保管管理状況、更には歴史科や国文科合同での研究成果などを懇切丁寧に説明してもらい、すっかりその現状に感心した彼は、ハーバル教授に心酔してしまったのだった。
「今日は貴重なお時間を割いていただき、誠にありがとうございました。こちらの現状を確認させていただきましたが、やはりあの本はこちらにお譲りするのが適切でしょう。すぐにで総主教会内で譲渡の手続きを取りますので、少々お待ちください」
「それは誠に嬉しいお申し出ですが、そんなにお急ぎにならなくても結構ですよ? ご都合の良い時にお手続きください」
ノランの決意漲る別れの挨拶に、ハーバルは若干心配そうに言葉を返した。しかしノランはものの十日で総主教会内で話を纏め、正式にクレランス学園に本を寄贈する為、再び学園に出向いた。
「カルバム大司教様。本日は足をお運びいただき、ありがとうございます」
「ハーバル教授。こちらこそ長年保管されるだけになっていた資料を有効活用していただけることになり、大変感謝しております。しかも国教会設立初期の教本をこちらに寄贈していただけるとあっては、むしろこちらが深く感謝しなければならない立場です」
「学術研究と後世の教育の資料を得たということで、お互いに喜び合う場面ですね」
「まさにその通りです。今後とも宜しくお付き合いください」
(なんとか間に合えば良いなとは思ったけど、まさかこの短期間で話を纏めてしまうなんて……。確かにお父さんは、有言実行の人だけどね)
今回も父親を案内して寄贈の場に居合わせたシレイアだったが、満面の笑みで固い握手を交わしつつ挨拶している父親達を眺め、半ば感心し半ば呆れた。
「実は前々から、国教会の歴史について執筆している原稿がありまして。今回寄贈して頂いた資料を基に、大幅に加筆しようと思っているのです。厚かましいお願いですが、ある程度書きあがったら総主教会に内容の監修をお願いしたいのですが」
「それは光栄です。総主教会はいつでもご協力致します。ご遠慮なさらず」
「誠にありがとうございます。本が完成した暁にはご協力への感謝の意を込めて、総主教会に纏まった冊数を寄贈させてください」
「それは願ってもない事。ありがたく頂戴いたします」
(なんかもう……、とんとん拍子に話が纏まって、怖いくらいだわ。最初に引き合わせた時から、お父さんとハーバル教授が妙に意気投合しちゃって、もう今では昔からの親友みたいな雰囲気を醸し出しているし)
この二人がここまで懇意になるとは予想外だったとシレイアがしみじみと考えていると、ハーバルが視線を向けてくる。
「しかし本当に、ご息女がこの学園に入学してくださらなかったら、こんな縁には恵まれませんでしたな」
それに深く頷きながら、ノランが温かい視線を娘に向ける。
「それは同感です。娘には変に制限はつけず、広い世界を知って数多くの人と接して学んでほしいと思っていましたが、まさかこんな形で教授と繋がりができるとは、夢にも思っておりませんでした。本当に親孝行な、自慢の娘です」
「私にとっても誇れる生徒ですよ。成績優秀な上、御父上の悩みを忘れずに、その解決策を自分なりに考えるなど、なかなかできる事ではありません」
「あ、いえ……、その、ありがとうございます。恐縮です」
目の前の二人から手放で褒められたシレイアは、さすがに照れくさくなりながら感謝の言葉を口にした。
(エセリア様の望み通りの展開にするためにどうすればよいか、必死に考えた結果だったんだけど……。お父さんは長年の懸念が解消され、教授は以前から欲しかった資料が手に入り、私はエセリア様からの依頼を遂行する事ができて三方丸く納まったわね)
それからも和やかな空気のまま会話が続けられてから、名残惜しそうにノランが別れを告げた。そして来た時と同様に、シレイアが本棟の正面玄関まで父親を見送る。
「それじゃあお父さん、また休みには帰るから」
「ああ、身体に気をつけて元気でな」
(お父さんに余計な仕事をさせてしまったけど、結果的にすごく喜んで貰えて良かった)
待たせていた総主教会の馬車にノランが乗り込み、走り去るそれをシレイアは心底満足しながら見送ったのだった。
「今日は貴重なお時間を割いていただき、誠にありがとうございました。こちらの現状を確認させていただきましたが、やはりあの本はこちらにお譲りするのが適切でしょう。すぐにで総主教会内で譲渡の手続きを取りますので、少々お待ちください」
「それは誠に嬉しいお申し出ですが、そんなにお急ぎにならなくても結構ですよ? ご都合の良い時にお手続きください」
ノランの決意漲る別れの挨拶に、ハーバルは若干心配そうに言葉を返した。しかしノランはものの十日で総主教会内で話を纏め、正式にクレランス学園に本を寄贈する為、再び学園に出向いた。
「カルバム大司教様。本日は足をお運びいただき、ありがとうございます」
「ハーバル教授。こちらこそ長年保管されるだけになっていた資料を有効活用していただけることになり、大変感謝しております。しかも国教会設立初期の教本をこちらに寄贈していただけるとあっては、むしろこちらが深く感謝しなければならない立場です」
「学術研究と後世の教育の資料を得たということで、お互いに喜び合う場面ですね」
「まさにその通りです。今後とも宜しくお付き合いください」
(なんとか間に合えば良いなとは思ったけど、まさかこの短期間で話を纏めてしまうなんて……。確かにお父さんは、有言実行の人だけどね)
今回も父親を案内して寄贈の場に居合わせたシレイアだったが、満面の笑みで固い握手を交わしつつ挨拶している父親達を眺め、半ば感心し半ば呆れた。
「実は前々から、国教会の歴史について執筆している原稿がありまして。今回寄贈して頂いた資料を基に、大幅に加筆しようと思っているのです。厚かましいお願いですが、ある程度書きあがったら総主教会に内容の監修をお願いしたいのですが」
「それは光栄です。総主教会はいつでもご協力致します。ご遠慮なさらず」
「誠にありがとうございます。本が完成した暁にはご協力への感謝の意を込めて、総主教会に纏まった冊数を寄贈させてください」
「それは願ってもない事。ありがたく頂戴いたします」
(なんかもう……、とんとん拍子に話が纏まって、怖いくらいだわ。最初に引き合わせた時から、お父さんとハーバル教授が妙に意気投合しちゃって、もう今では昔からの親友みたいな雰囲気を醸し出しているし)
この二人がここまで懇意になるとは予想外だったとシレイアがしみじみと考えていると、ハーバルが視線を向けてくる。
「しかし本当に、ご息女がこの学園に入学してくださらなかったら、こんな縁には恵まれませんでしたな」
それに深く頷きながら、ノランが温かい視線を娘に向ける。
「それは同感です。娘には変に制限はつけず、広い世界を知って数多くの人と接して学んでほしいと思っていましたが、まさかこんな形で教授と繋がりができるとは、夢にも思っておりませんでした。本当に親孝行な、自慢の娘です」
「私にとっても誇れる生徒ですよ。成績優秀な上、御父上の悩みを忘れずに、その解決策を自分なりに考えるなど、なかなかできる事ではありません」
「あ、いえ……、その、ありがとうございます。恐縮です」
目の前の二人から手放で褒められたシレイアは、さすがに照れくさくなりながら感謝の言葉を口にした。
(エセリア様の望み通りの展開にするためにどうすればよいか、必死に考えた結果だったんだけど……。お父さんは長年の懸念が解消され、教授は以前から欲しかった資料が手に入り、私はエセリア様からの依頼を遂行する事ができて三方丸く納まったわね)
それからも和やかな空気のまま会話が続けられてから、名残惜しそうにノランが別れを告げた。そして来た時と同様に、シレイアが本棟の正面玄関まで父親を見送る。
「それじゃあお父さん、また休みには帰るから」
「ああ、身体に気をつけて元気でな」
(お父さんに余計な仕事をさせてしまったけど、結果的にすごく喜んで貰えて良かった)
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