才媛は一日にして成らず
(7)確固たる誓い
「あのですね……。実は例の小テストで、不甲斐ない点数を取ってしまったれっきとした理由があるのですが、それを聞いても笑ったり呆れたりしませんか?」
その問いかけに、エセリアとサビーネが困惑しながら頷く。
「ええ、勿論笑ったりしないわよ?」
「どうして呆れるのよ。シレイアが何事にも真剣に取り組むタイプだっていうのは、前から知っているわ」
「そうね……。今回は、それが裏目に出たというのが、真相だったりするのだけど」
「え? どういう事?」
首を傾げたサビーネに向き直り、シレイアは溜め息を吐いてから説明を始めた。
「実は……、王太子殿下と例の女生徒をこちらの思う方向に誘導するために、変装して接触する事を考えていたでしょう? それで少し前にワーレス商会に出向いて、ミランが色々用意してくれていた中から、使えそうな物を幾つか貰ってきたの」
「そうだったわね。それで?」
「私はサビーネと同様、エセリア様の近くにいる所を散々殿下に見られているから、変装するにしても印象をガラリと変える必要があると考えたのよ」
「確かに、変装して殿下と直接顔を合わせた場合に、厳しいものがあるかもね」
「それで、普段私は髪を一つに束ねているじゃない? だから上からウィッグでを被ってロングボブにすれば、随分印象が変わりそうだと思ったの」
そこまで話を聞いたサビーネは、シレイアの束ねている髪を見て怪訝な顔になった。
「ええ? 確かに印象はガラッと変わりそうだけど、その髪を纏めてウィッグの中に押し込むのは、かなり難しくない?」
「確かに、方法とコツを掴むまでは難しかったわね。でも最短時間で装着するやり方を会得したから大丈夫よ。現にこの前、グラディクト殿下がエセリア様に音楽祭開催を丸投げしようと押しかけて来た時、ものの2、3分で装着を終えてアリステアの所に出向いたわ」
「そんな短時間で? 凄いわね」
「特訓の成果よ。その方法を確立したときには、達成感に身震いしたわ」
胸を張って得意げに語るシレイアと、本気で感心しているサビーネを眺めたエセリアは、ここで控え目に会話に割り込んだ。
「あの……シレイア? 素早く変装できるようになったのは分かったけど、結局、例の小テストで成績が振るわなかった理由は何なの?」
その問いかけにシレイアはぴくっと反応し、エセリアの方に向き直りながら、もの凄く言いにくそうに告げる。
「その……、変装の特訓をした時期が、その小テストの直前の時期だったもので……。要するに、時間配分を間違えたというか、なんといいますか……」
「…………」
そこでエセリアとサビーネはキョトンとした顔を見合わせ、次いでどちらからともなく片手で口を押さえながら、くぐもった笑いを漏らした。
「な、なるほど……。本来勉強する時間帯に、髪の毛をいかに短時間でウィッグ内に収納するかの、特訓を行なっていたわけね……」
「それは……、確かに他の人に成績不振の理由を聞かれても、正直に話したくはないわよね。というか、話せない……」
「二人とも……。笑ったりしないって、言ったじゃないですか……」
シレイアが拗ねたように愚痴を零したことで、二人の笑いの衝動が増してしまったらしく、なかなか笑いが収まらなかった。
「ご、ごめんなさいっ……。でも、あまりにも予想外の話で……」
「深刻な話でなくて良かったけど、想像の斜め上方向に真剣な話だったから、意外性で笑いが込み上げてきて……」
(だから言いたくなかったのに……。でも曖昧にしたら、余計に心配をかけてしまうものね)
多少笑われてしまうのは仕方がないと観念したシレイアは、肩を竦めてからサビーネに頼み込む。
「サビーネ。取り敢えず正直に話したんだから、なんとか上手く皆を納得させて貰えない? 私が何を言っても、信用して貰えないかもしれないし」
そこでサビーネは漸く笑いを抑え、シレイアに対して力強く請け負う。
「分かったわ。取り敢えず深刻な問題ではなかったし、エセリア様にお願いして無事に解決して貰ったと言えば、深くは突っ込んで聞いてこないでしょうしね。エセリア様、口裏合わせをお願いします」
ここでサビーネから要請されたエセリアは、真顔で頷きながら提案した。
「それなら寧ろ、私が皆に説明に回ろうかしら。そうすれば遠慮もあって、簡単な説明でもすんなり受け入れて貰えそうじゃない? その方が早そうだわ」
「確かにそうですね。そうしていただけますか?」
「ええ、構わないわよ」
予想外にエセリアの手を煩わせる事態にまで発展してしまったことで、シレイアは恐縮して頭を下げる。
「申し訳ありません。エセリア様が直々に対処される事態になるなんて」
「良いのよ。シレイアにはいつもお世話になっているし。こんな時くらい手伝わせて」
「ありがとうございます」
(その言葉は本当に嬉しいですけど、申し訳なさすぎる……。今後はどんなに忙しくても、勉強は手を抜かないようにしよう。皆に変な心配をかけるわけにはいかないわ)
苦笑しながら頷いてくれた二人に心底感謝しつつ、シレイアは今後いかなる時も勉学に関して手を抜かないようにすることを、自分自身に誓った。するとここでサビーネが、真剣な表情になって話題を変えてきた。
その問いかけに、エセリアとサビーネが困惑しながら頷く。
「ええ、勿論笑ったりしないわよ?」
「どうして呆れるのよ。シレイアが何事にも真剣に取り組むタイプだっていうのは、前から知っているわ」
「そうね……。今回は、それが裏目に出たというのが、真相だったりするのだけど」
「え? どういう事?」
首を傾げたサビーネに向き直り、シレイアは溜め息を吐いてから説明を始めた。
「実は……、王太子殿下と例の女生徒をこちらの思う方向に誘導するために、変装して接触する事を考えていたでしょう? それで少し前にワーレス商会に出向いて、ミランが色々用意してくれていた中から、使えそうな物を幾つか貰ってきたの」
「そうだったわね。それで?」
「私はサビーネと同様、エセリア様の近くにいる所を散々殿下に見られているから、変装するにしても印象をガラリと変える必要があると考えたのよ」
「確かに、変装して殿下と直接顔を合わせた場合に、厳しいものがあるかもね」
「それで、普段私は髪を一つに束ねているじゃない? だから上からウィッグでを被ってロングボブにすれば、随分印象が変わりそうだと思ったの」
そこまで話を聞いたサビーネは、シレイアの束ねている髪を見て怪訝な顔になった。
「ええ? 確かに印象はガラッと変わりそうだけど、その髪を纏めてウィッグの中に押し込むのは、かなり難しくない?」
「確かに、方法とコツを掴むまでは難しかったわね。でも最短時間で装着するやり方を会得したから大丈夫よ。現にこの前、グラディクト殿下がエセリア様に音楽祭開催を丸投げしようと押しかけて来た時、ものの2、3分で装着を終えてアリステアの所に出向いたわ」
「そんな短時間で? 凄いわね」
「特訓の成果よ。その方法を確立したときには、達成感に身震いしたわ」
胸を張って得意げに語るシレイアと、本気で感心しているサビーネを眺めたエセリアは、ここで控え目に会話に割り込んだ。
「あの……シレイア? 素早く変装できるようになったのは分かったけど、結局、例の小テストで成績が振るわなかった理由は何なの?」
その問いかけにシレイアはぴくっと反応し、エセリアの方に向き直りながら、もの凄く言いにくそうに告げる。
「その……、変装の特訓をした時期が、その小テストの直前の時期だったもので……。要するに、時間配分を間違えたというか、なんといいますか……」
「…………」
そこでエセリアとサビーネはキョトンとした顔を見合わせ、次いでどちらからともなく片手で口を押さえながら、くぐもった笑いを漏らした。
「な、なるほど……。本来勉強する時間帯に、髪の毛をいかに短時間でウィッグ内に収納するかの、特訓を行なっていたわけね……」
「それは……、確かに他の人に成績不振の理由を聞かれても、正直に話したくはないわよね。というか、話せない……」
「二人とも……。笑ったりしないって、言ったじゃないですか……」
シレイアが拗ねたように愚痴を零したことで、二人の笑いの衝動が増してしまったらしく、なかなか笑いが収まらなかった。
「ご、ごめんなさいっ……。でも、あまりにも予想外の話で……」
「深刻な話でなくて良かったけど、想像の斜め上方向に真剣な話だったから、意外性で笑いが込み上げてきて……」
(だから言いたくなかったのに……。でも曖昧にしたら、余計に心配をかけてしまうものね)
多少笑われてしまうのは仕方がないと観念したシレイアは、肩を竦めてからサビーネに頼み込む。
「サビーネ。取り敢えず正直に話したんだから、なんとか上手く皆を納得させて貰えない? 私が何を言っても、信用して貰えないかもしれないし」
そこでサビーネは漸く笑いを抑え、シレイアに対して力強く請け負う。
「分かったわ。取り敢えず深刻な問題ではなかったし、エセリア様にお願いして無事に解決して貰ったと言えば、深くは突っ込んで聞いてこないでしょうしね。エセリア様、口裏合わせをお願いします」
ここでサビーネから要請されたエセリアは、真顔で頷きながら提案した。
「それなら寧ろ、私が皆に説明に回ろうかしら。そうすれば遠慮もあって、簡単な説明でもすんなり受け入れて貰えそうじゃない? その方が早そうだわ」
「確かにそうですね。そうしていただけますか?」
「ええ、構わないわよ」
予想外にエセリアの手を煩わせる事態にまで発展してしまったことで、シレイアは恐縮して頭を下げる。
「申し訳ありません。エセリア様が直々に対処される事態になるなんて」
「良いのよ。シレイアにはいつもお世話になっているし。こんな時くらい手伝わせて」
「ありがとうございます」
(その言葉は本当に嬉しいですけど、申し訳なさすぎる……。今後はどんなに忙しくても、勉強は手を抜かないようにしよう。皆に変な心配をかけるわけにはいかないわ)
苦笑しながら頷いてくれた二人に心底感謝しつつ、シレイアは今後いかなる時も勉学に関して手を抜かないようにすることを、自分自身に誓った。するとここでサビーネが、真剣な表情になって話題を変えてきた。
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