才媛は一日にして成らず
第4章 婚約破棄裏工作本格始動:(1)新入生たち
クレランス学園に入学して二年目。めでたく官吏科初級学年に進級したシレイアは、気持ちも新たに勉学に励んでいた。
ある日、エセリアからカフェに呼び出されたシレイアは、婚約破棄を共に目指す新たな人員として、その年に入学したミランとカレナを紹介される。それに続いてサビーネやローダスと共に、お互いの自己紹介を済ませるまでは順調だったが、彼女が崇拝するエセリアの発言により、その学園生活がこれまで以上に波乱に満ちたものになることが確定した。
「グラディクト殿下との婚約を破棄したいという、私の意向は変わっておりません。昨年から少しずつ、殿下の劣等感を煽る様に工作してきましたが、それだけでは不足だと思いますので、新たな方策を追加しようと考えています」
(確かにそうなのよね。ちまちまと陰ながら嫌がらせ的な言動をして、殿下から険悪な顔で睨みつけられるようになっているけど、それだけと言えばそれだけだったもの。でも学園内で可能な裏工作だけで、婚約破棄に持ち込むのは至難の業なのではないかしら?)
考え込みながらも、シレイアはおとなしくエセリアの話に耳を傾けた。しかしいきなり、話の流れがとんでもない方向に突き進む。
「殿下に、私以外の想う女性を作って頂ければ宜しいかと」
「エセリア様、それは少々……、いえ、かなり無理があるかと思いますが……」
思わずシレイアは口を挟んでしまったが、エセリアは面白そうにその根拠を尋ねてくる。それでシレイアは分かり切っている事ながら、王太子の婚約者に相応しい家柄の令嬢達には既に殆ど婚約者がおり、万が一その女生徒と婚約する場合、彼女側の婚約破棄も必要となり外聞が悪すぎる事、既にエセリアの才色兼備ぶりは社交界内に知れ渡っており、彼女にとって代わろうとする気概のある女生徒はいないであろう事、仮に下級貴族の令嬢を恋人にするのであれば、エセリアを正妃にその彼女を側妃にすれば良いだけであって婚約破棄云々の話にはならない事を、理路整然と述べた。
「さすがはシレイアね。きちんと問題点を押さえているわ」
「エセリア様? 褒めるところでは無いと思うのですが」
「ごめんなさい、つい。だってこれ以上は無い位、簡潔に纏めてくれたから」
隣に座っているサビーネが、深く頷きながら自分の意見に同意しているのを横目で眺めつつ、シレイアはエセリアに訝しげな視線を向けた。すると全ての問題点を聞き終えたエセリアは、真顔で断言してくる。
「それらを踏まえて色々と検討してみた結果、グラディクト殿に下級貴族の令嬢を正妃に据えたいと考えて貰えれば良い、という結論に達したの」
(はい!? え? なんですって!? どうしてそうなるの? だってサビーネの話では、グラディクト殿下の立太子は、エセリア様と婚約した事でシェーグレン公爵家と王妃様が後ろ盾になったからではなかったの!? それなのにエセリア様を袖にして下級貴族の令嬢を正妃にしたりしたら、問題にならないの? というか、廃嫡になるんじゃない!?)
これまでの自分の認識が間違っていたのかと、シレイアは反射的にサビーネに目線で尋ねる。対するサビーネも同様の事を考えていたらしく、無言のまま慌ただしく首を横に振った。
「エセリア嬢、それは幾ら何でも不可能です。どうして殿下が、そんな事を考えるようになるのですか?」
動揺著しく、咄嗟に言葉が出なかったシレイアの代わりに、溜め息を吐いたローダスが半ば呆れ気味に問いかけた。しかしその訴えに、エセリアは冷静に答える。
「殿下と相手の女性が、私がとんでもなく底意地が悪くて嫉妬深くて悪の権化の《悪役令嬢》と思い込めば良いのではないかしら? そうすれば『そんな女性を未来の王妃の座に据えるなど、言語道断だ』と思って、色々と画策すると思われますが」
「はぁあ?」
「ちょっとローダス。幾ら何でも失礼よ?」
予想外の話を聞いてしまった故だとは分かっていたが、シレイアは咄嗟に失礼な声を上げたローダスを窘めた。しかしここで話に割り込んできたミランとカレナの発言によって、話が更に予想外の展開をみせる。
「入学前にエセリア様から依頼を受けていたので、この間教養科内の観察を続けていたのですが、妙にエセリア様に失礼……、と言うか、対抗意識らしきものを示す女生徒がいるんです」
「ミラン、それはひょっとして、アリステア・ヴァン・ミンティアの事を言っているの?」
「隣のクラスにも、噂が伝わっていたか……」
「詳しくは聞いていませんけど……」
「そのアリステア嬢ですが、女性徒達がエセリア様の好意的な話で盛り上がっていると、『見た目に騙されるなんて恥ずかしいと思わないの?』とか『あなた達の様な大勢に流される人間に、この国の将来を考えるなんて所詮無理な話ね』とか、一方的にまくし立てているんです」
「そうかと思えば、妙にグラディクト殿下押しで。『立っているだけで存在感が違う』とか『本当は優秀なのに、敢えてそれをひけらかさない謙虚な方だ』とか声高に主張して周囲に同意を求めては、あからさまに無視されて、一人で勝手に憤慨していました」
二人から、エセリアに敵意むき出しの上、グラディクト推しの新入生の話を聞いたシレイアとサビーネは、思わず遠慮の無い感想を口にしてしまった。
ある日、エセリアからカフェに呼び出されたシレイアは、婚約破棄を共に目指す新たな人員として、その年に入学したミランとカレナを紹介される。それに続いてサビーネやローダスと共に、お互いの自己紹介を済ませるまでは順調だったが、彼女が崇拝するエセリアの発言により、その学園生活がこれまで以上に波乱に満ちたものになることが確定した。
「グラディクト殿下との婚約を破棄したいという、私の意向は変わっておりません。昨年から少しずつ、殿下の劣等感を煽る様に工作してきましたが、それだけでは不足だと思いますので、新たな方策を追加しようと考えています」
(確かにそうなのよね。ちまちまと陰ながら嫌がらせ的な言動をして、殿下から険悪な顔で睨みつけられるようになっているけど、それだけと言えばそれだけだったもの。でも学園内で可能な裏工作だけで、婚約破棄に持ち込むのは至難の業なのではないかしら?)
考え込みながらも、シレイアはおとなしくエセリアの話に耳を傾けた。しかしいきなり、話の流れがとんでもない方向に突き進む。
「殿下に、私以外の想う女性を作って頂ければ宜しいかと」
「エセリア様、それは少々……、いえ、かなり無理があるかと思いますが……」
思わずシレイアは口を挟んでしまったが、エセリアは面白そうにその根拠を尋ねてくる。それでシレイアは分かり切っている事ながら、王太子の婚約者に相応しい家柄の令嬢達には既に殆ど婚約者がおり、万が一その女生徒と婚約する場合、彼女側の婚約破棄も必要となり外聞が悪すぎる事、既にエセリアの才色兼備ぶりは社交界内に知れ渡っており、彼女にとって代わろうとする気概のある女生徒はいないであろう事、仮に下級貴族の令嬢を恋人にするのであれば、エセリアを正妃にその彼女を側妃にすれば良いだけであって婚約破棄云々の話にはならない事を、理路整然と述べた。
「さすがはシレイアね。きちんと問題点を押さえているわ」
「エセリア様? 褒めるところでは無いと思うのですが」
「ごめんなさい、つい。だってこれ以上は無い位、簡潔に纏めてくれたから」
隣に座っているサビーネが、深く頷きながら自分の意見に同意しているのを横目で眺めつつ、シレイアはエセリアに訝しげな視線を向けた。すると全ての問題点を聞き終えたエセリアは、真顔で断言してくる。
「それらを踏まえて色々と検討してみた結果、グラディクト殿に下級貴族の令嬢を正妃に据えたいと考えて貰えれば良い、という結論に達したの」
(はい!? え? なんですって!? どうしてそうなるの? だってサビーネの話では、グラディクト殿下の立太子は、エセリア様と婚約した事でシェーグレン公爵家と王妃様が後ろ盾になったからではなかったの!? それなのにエセリア様を袖にして下級貴族の令嬢を正妃にしたりしたら、問題にならないの? というか、廃嫡になるんじゃない!?)
これまでの自分の認識が間違っていたのかと、シレイアは反射的にサビーネに目線で尋ねる。対するサビーネも同様の事を考えていたらしく、無言のまま慌ただしく首を横に振った。
「エセリア嬢、それは幾ら何でも不可能です。どうして殿下が、そんな事を考えるようになるのですか?」
動揺著しく、咄嗟に言葉が出なかったシレイアの代わりに、溜め息を吐いたローダスが半ば呆れ気味に問いかけた。しかしその訴えに、エセリアは冷静に答える。
「殿下と相手の女性が、私がとんでもなく底意地が悪くて嫉妬深くて悪の権化の《悪役令嬢》と思い込めば良いのではないかしら? そうすれば『そんな女性を未来の王妃の座に据えるなど、言語道断だ』と思って、色々と画策すると思われますが」
「はぁあ?」
「ちょっとローダス。幾ら何でも失礼よ?」
予想外の話を聞いてしまった故だとは分かっていたが、シレイアは咄嗟に失礼な声を上げたローダスを窘めた。しかしここで話に割り込んできたミランとカレナの発言によって、話が更に予想外の展開をみせる。
「入学前にエセリア様から依頼を受けていたので、この間教養科内の観察を続けていたのですが、妙にエセリア様に失礼……、と言うか、対抗意識らしきものを示す女生徒がいるんです」
「ミラン、それはひょっとして、アリステア・ヴァン・ミンティアの事を言っているの?」
「隣のクラスにも、噂が伝わっていたか……」
「詳しくは聞いていませんけど……」
「そのアリステア嬢ですが、女性徒達がエセリア様の好意的な話で盛り上がっていると、『見た目に騙されるなんて恥ずかしいと思わないの?』とか『あなた達の様な大勢に流される人間に、この国の将来を考えるなんて所詮無理な話ね』とか、一方的にまくし立てているんです」
「そうかと思えば、妙にグラディクト殿下押しで。『立っているだけで存在感が違う』とか『本当は優秀なのに、敢えてそれをひけらかさない謙虚な方だ』とか声高に主張して周囲に同意を求めては、あからさまに無視されて、一人で勝手に憤慨していました」
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