才媛は一日にして成らず
(24)裏事情
「ソラテイア子爵家がお咎めなしなのは良かったけど、実際に悪事に関わった人達はどうなったの? さすがに無罪放免というわけにはいかなかったでしょう?」
それにカレナが憤然として答える。
「勿論です! 地元の商会は、代々我が家との取り引きをしていた所だったのですが、これをきっかけに一切の取り引きを止めました。それ以後は、領内の収穫物や特産品などの集約と販売などの作業も全て、ワーレス商会が取り仕切ってくれています」
予想外の話の流れに、サビーネは再び困惑しながら尋ねた。
「え? 元々ワーレス商会が、ソラティア子爵領内に支店を出していたの?」
「いいえ。ありませんでした。ですがワーレス商会に謝罪に出向いた時、『せめてもの償いに、今後例の商会との取り引きを全て停止する予定です』と父が申し出たら、『それでは領内の作物の流通や販売にも不都合が出るでしょう。ご縁があればそちらの領地に支店を出したいと思っておりましたので、もし宜しければ私どもに後を任せてはいただけませんか?』と言われたそうです」
「そうだったの……」
「でも一から販売拠点を築いて、人員も配置してとなると、軌道に乗るまで半年とか一年くらいはかかりそうで大変よね」
「それが、話を聞いた父が快諾して領地でも好立地を提供したら、瞬く間に大きな店舗が建って、大量に物品と人員が送り込まれて、五ヶ月ほどでワーレス商会の支店が本格稼働しました。さすがは王都でも勢いのある商会だと、両親を初め領地の皆が心底感心しました」
「そう……」
「本当に凄いわね……」
(ちょっと待って。幾らなんでも素早すぎない? 予め新店舗を出すと決めて、事前に入念に計画を立てていたとしか思えない……。そうなると地元の商会と栽培農家が魔が差すのを予測していたとか、想像するのが怖いんだけど魔が差すようにワーレス商会が裏で唆したとかの、怖い話じゃないでしょうね ︎)
にこやかに詳細を語ったカレナだったが、その話の裏に隠された可能性に思い立ったシレイアの顔色が、若干悪くなった。さり気なく隣を見ると、サビーネの顔も微妙に引き攣っており、恐らく自分と同じ可能性に思い至っているのだろうとシレイアは想像する。
「それに『出来心で信用を失って商会を潰してしまったり、領内の耕作権を取り上げられるなんて不憫すぎる。領主様の判断に異を唱えるわけにはいかないが、最低限生活ができるようにしてあげよう』と言って、その不心得者の商会と栽培農家の一家を、その支店で雇ったんです。ワーレス商会の温情に、周囲の皆が揃って心打たれました」
「…………」
(良い話のように聞こえるけど、不正を働いた地元でそのまま生活するなんて、とんだ恥晒しで周囲の視線が厳しいのではないかしら? 引っ越す費用や旅費もないくらいに、賠償金を搾り取られたのかもしれないわ)
しみじみと状況を説明するカレナだったが、サビーネとシレイアは思わず無言になってしまった。しかしサビーネがなんとか気を取り直し、気になったことを尋ねてみる。
「因みに、王都で茶葉を売っていた商会って、どこの商会なの? 栽培に難しい茶葉というのは知っていたのだから、本来の取引とは逸脱したソラテイア子爵家には無許可の取引と知った上で、堂々と売っていたのよね? そんな所と取り引きしたくないわ」
「安心してください、サビーネさん。ワーレス商会と比較もできない、グレナダ商会という三流商会でしたが、その騒ぎの後に突然廃業したそうです」
予想外の展開に、サビーネとシレイアは本気で驚いた。
「廃業?」
「どうして?」
「父がワーレス商会から聞いた話では、店員に大金を持ち逃げされた上、店舗に暴走馬車が突っ込んで大破したり、商品の中身に大量のカビが発生していたり、商品棚が一斉に崩れて店員と客が何人も怪我をしたりとかの不幸が、立て続けに起こったそうです。横流し品と分かって平気で売り捌いていたのですから、自業自得ですよね!」
「そうかもね……」
「悪い事ってできないわね……」
「それにそこの商会の会頭は根性が悪いだけではなくて、超絶に頭も悪かったみたいです。父に厳罰を下された地元の商会に泣きつかれたそうで、シェーグレン公爵邸に出向いて『これでソラテイア子爵を宥めていただけませんか』と懇願しながら、お金を渡そうとしたそうです。信じられません」
「本当に底抜けのお馬鹿さんだったのね……」
「今をときめくシェーグレン公爵家相手に、なんて暴挙……」
あまりと言えばあまりの内容に、二人は呆れ果てて項垂れた。その様子を見て、カレナが深く頷く。
「お二人もそう思いますよね? 対応したナジェーク様は『貴族のプライドがこんなはした金で買えると、本気で思っているのか。こんな愚か者を応接室に通した者を、叱責しないといけないな』と冷笑して、その人を敷地外に叩き出したそうです。偶々商談で居合わせて一部始終を目撃したワーレス商会の会頭が『肝を潰した』と笑って教えてくれたそうですが、それを聞いた父は胃が痛くなって、暫く胃薬を常用していました」
「子爵様も災難だったわね……」
「今は胃薬を飲んでおられないのよね?」
「はい、完治しました」
「それなら良かったわ」
(相当ナジェーク様を怒らせたわね。そのグレナダ商会の廃業って、十中八九ナジェーク様の意向が働いているんじゃないかしら?)
カレナが苦笑しながら語ったことで、二人も自然と笑いを誘われた。
「本当に、不幸中の幸いでした。本格的に売り出される前にワーレス商会に発見されて。第一、その商品はまだ質の悪い状態の物でしたから、あんな物が流通していたらジューディ茶の名前にも傷がついていました。改めて品質管理を徹底して栽培量を増やして、今年中か来年には改めて大々的にワーレス商会から売り出す予定になっています」
「そうなの? それなら購入してみたいわね」
「それならお近づきの印に、正式に発売開始が決まりましたら進呈します。是非、飲んでみてください」
「ありがとう。嬉しいわ」
そこで和やかに会話してから、カレナは顔つきを改めて申し出た。
それにカレナが憤然として答える。
「勿論です! 地元の商会は、代々我が家との取り引きをしていた所だったのですが、これをきっかけに一切の取り引きを止めました。それ以後は、領内の収穫物や特産品などの集約と販売などの作業も全て、ワーレス商会が取り仕切ってくれています」
予想外の話の流れに、サビーネは再び困惑しながら尋ねた。
「え? 元々ワーレス商会が、ソラティア子爵領内に支店を出していたの?」
「いいえ。ありませんでした。ですがワーレス商会に謝罪に出向いた時、『せめてもの償いに、今後例の商会との取り引きを全て停止する予定です』と父が申し出たら、『それでは領内の作物の流通や販売にも不都合が出るでしょう。ご縁があればそちらの領地に支店を出したいと思っておりましたので、もし宜しければ私どもに後を任せてはいただけませんか?』と言われたそうです」
「そうだったの……」
「でも一から販売拠点を築いて、人員も配置してとなると、軌道に乗るまで半年とか一年くらいはかかりそうで大変よね」
「それが、話を聞いた父が快諾して領地でも好立地を提供したら、瞬く間に大きな店舗が建って、大量に物品と人員が送り込まれて、五ヶ月ほどでワーレス商会の支店が本格稼働しました。さすがは王都でも勢いのある商会だと、両親を初め領地の皆が心底感心しました」
「そう……」
「本当に凄いわね……」
(ちょっと待って。幾らなんでも素早すぎない? 予め新店舗を出すと決めて、事前に入念に計画を立てていたとしか思えない……。そうなると地元の商会と栽培農家が魔が差すのを予測していたとか、想像するのが怖いんだけど魔が差すようにワーレス商会が裏で唆したとかの、怖い話じゃないでしょうね ︎)
にこやかに詳細を語ったカレナだったが、その話の裏に隠された可能性に思い立ったシレイアの顔色が、若干悪くなった。さり気なく隣を見ると、サビーネの顔も微妙に引き攣っており、恐らく自分と同じ可能性に思い至っているのだろうとシレイアは想像する。
「それに『出来心で信用を失って商会を潰してしまったり、領内の耕作権を取り上げられるなんて不憫すぎる。領主様の判断に異を唱えるわけにはいかないが、最低限生活ができるようにしてあげよう』と言って、その不心得者の商会と栽培農家の一家を、その支店で雇ったんです。ワーレス商会の温情に、周囲の皆が揃って心打たれました」
「…………」
(良い話のように聞こえるけど、不正を働いた地元でそのまま生活するなんて、とんだ恥晒しで周囲の視線が厳しいのではないかしら? 引っ越す費用や旅費もないくらいに、賠償金を搾り取られたのかもしれないわ)
しみじみと状況を説明するカレナだったが、サビーネとシレイアは思わず無言になってしまった。しかしサビーネがなんとか気を取り直し、気になったことを尋ねてみる。
「因みに、王都で茶葉を売っていた商会って、どこの商会なの? 栽培に難しい茶葉というのは知っていたのだから、本来の取引とは逸脱したソラテイア子爵家には無許可の取引と知った上で、堂々と売っていたのよね? そんな所と取り引きしたくないわ」
「安心してください、サビーネさん。ワーレス商会と比較もできない、グレナダ商会という三流商会でしたが、その騒ぎの後に突然廃業したそうです」
予想外の展開に、サビーネとシレイアは本気で驚いた。
「廃業?」
「どうして?」
「父がワーレス商会から聞いた話では、店員に大金を持ち逃げされた上、店舗に暴走馬車が突っ込んで大破したり、商品の中身に大量のカビが発生していたり、商品棚が一斉に崩れて店員と客が何人も怪我をしたりとかの不幸が、立て続けに起こったそうです。横流し品と分かって平気で売り捌いていたのですから、自業自得ですよね!」
「そうかもね……」
「悪い事ってできないわね……」
「それにそこの商会の会頭は根性が悪いだけではなくて、超絶に頭も悪かったみたいです。父に厳罰を下された地元の商会に泣きつかれたそうで、シェーグレン公爵邸に出向いて『これでソラテイア子爵を宥めていただけませんか』と懇願しながら、お金を渡そうとしたそうです。信じられません」
「本当に底抜けのお馬鹿さんだったのね……」
「今をときめくシェーグレン公爵家相手に、なんて暴挙……」
あまりと言えばあまりの内容に、二人は呆れ果てて項垂れた。その様子を見て、カレナが深く頷く。
「お二人もそう思いますよね? 対応したナジェーク様は『貴族のプライドがこんなはした金で買えると、本気で思っているのか。こんな愚か者を応接室に通した者を、叱責しないといけないな』と冷笑して、その人を敷地外に叩き出したそうです。偶々商談で居合わせて一部始終を目撃したワーレス商会の会頭が『肝を潰した』と笑って教えてくれたそうですが、それを聞いた父は胃が痛くなって、暫く胃薬を常用していました」
「子爵様も災難だったわね……」
「今は胃薬を飲んでおられないのよね?」
「はい、完治しました」
「それなら良かったわ」
(相当ナジェーク様を怒らせたわね。そのグレナダ商会の廃業って、十中八九ナジェーク様の意向が働いているんじゃないかしら?)
カレナが苦笑しながら語ったことで、二人も自然と笑いを誘われた。
「本当に、不幸中の幸いでした。本格的に売り出される前にワーレス商会に発見されて。第一、その商品はまだ質の悪い状態の物でしたから、あんな物が流通していたらジューディ茶の名前にも傷がついていました。改めて品質管理を徹底して栽培量を増やして、今年中か来年には改めて大々的にワーレス商会から売り出す予定になっています」
「そうなの? それなら購入してみたいわね」
「それならお近づきの印に、正式に発売開始が決まりましたら進呈します。是非、飲んでみてください」
「ありがとう。嬉しいわ」
そこで和やかに会話してから、カレナは顔つきを改めて申し出た。
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