才媛は一日にして成らず
(16)意気軒高な私設応援団
剣術大会初日を三日後に控えた日の放課後。実行委員会が学園側から使用許可を得ている教室の一角に女生徒が二十人以上集まり、異様な雰囲気を醸し出していた。
「皆様。この間の奮闘、ご苦労様です。滞りなく準備は進み、明日は講堂で組み合わせ抽選会が開催されます。剣術大会初日がいよいよ三日後に迫っておりますが、ここで気を抜かず、無事に剣術大会が終了するように最後まで力を尽くしましょう」
実行委員会主要メンバーの一人であるマリーアが重々しく告げると、彼女を囲んでいる女生徒達が気迫のこもった頷きで応じる。
「勿論です、マリーア様!」
「最後の最後まで、全力で事に当たりますわ!」
「実行委員会としての活動もそうですが、数少ない参加女生徒の応援団として《剣術大会を成功に導く有志の会》を結成できたのも、ひとえに皆様の熱い想いがあってこそ。改めて、お礼申し上げます」
「水臭いですわ、マリーア様!」
「煌く女性を応援するのは、当然のことです!」
「自分にはできない偉業に挑む方を全力で応援するのを、誰にも止められませんわ!」
「ありがとうございます」
ここで穏やかに微笑みながら謝意を述べたマリーアだったが、すぐに顔つきを険しくして言葉を継いだ。
「ここからは少々不快で、不穏なことを口にさせていただきます。ナジェーク様やイズファイン様からの情報によると、剣術大会参加者の中で正々堂々と戦うのを良しとせず、策を弄して相手を負けに持ち込む、あるいは棄権させようと目論む不埒者が、複数人存在する可能性があるとのことです」
「許せませんね」
「そんな事を考えそうな人間に、幾らか心当たりもありますし」
「情けないにも程があります」
「勿論、お二方が手をこまねいている筈はございませんが、なにぶん参加者が多数です。そこである意味、標的になりやすい女生徒の保護と周囲の警戒を、私達が集中して行う事になりました」
その報告を聞いた周囲は、俄然やる気に満ちた表情と声で賛同する。
「お任せください、マリーア様!」
「既にエセリア様から同様の懸念を伝えられており、5人の周囲を固める人員のローテーションは作成済みです!」
「力尽くで襲撃を排除するのではなく、周囲を固めて目撃者を増やすだけで、立派な抑止力になりますもの」
「エセリア様から配布された防犯グッズの使い方も周知徹底していますし、絶対に変な手出しはさせませんわ」
周囲からの力強い声に、マリーアは表情を緩めながら話を続けた。
「ええ、皆様を信頼しております。念を押しますが、手を出してくるのは男子生徒とは限りません。性根の腐った者であれば、女性の親族や関係者に依頼したり、女生徒や実家の弱みを握って手先として使う場合も考えられます。それを考慮し今回の参加者本人達に、初対面でも私達真の味方と不審者の区別をつけて頂くために、合言葉を考えて貰いました。シレイア?」
「はい。それではこれが、これから各自警護する方に伝えていただく内容です。一枚ずつ取って、隣の方に回してください」
促されたシレイアは、説明しながら手に持っていた用紙を左右に回した。そしてその場の全員が用紙を手に取り、内容に目を通したのを確認してから、マリーアが声をかける。
「皆さん、確認できましたね? それでは私が問いを発するので、皆様はすかさずそれに対する台詞をご唱和ください。あなたの妹さんの髪の色は?」
「あなたと同じ緑色です!」
「昨日の月はどうだったかしら?」
「纏めて三本突き指しました!」
「最近美味しいと思った物は何ですか?」
「マール・ハナーの新作です!」
マリーアの台詞に、他の全員が声を揃えて応じる。合言葉の確認を終えたマリーアは、そこで満足そうに笑った。
「これなら不審者が適当に言葉を返しても、まぐれ当たりする事はないでしょう。それに緑の髪はソジェスタ・グレンの『呪いの姫』が元でしょうし、突き指云々は『時遅れの帰還』のクライマックスで的外れなやり取りをする笑いの場面から取っているし、マール・ハナーの新作に至っては言わずもがな。シレイアのセンスが光っているわね」
「ありがとうございます」
マリーアからの褒め言葉に、シレイアが殊勝に頭を下げた。そしてマリーアが、決意漲る表情で話を締めくくる。
「それでは皆様。剣術大会の完全な成功は、私達の双肩にかかっていると言っても過言ではございません。改めて、全力を尽くしましょう!」
「はい!」
「お任せください!」
「絶対に成功させましょうね!」
「成功か、より完全な成功かですわ!」
大盛り上がりで意気軒高な女生徒達の集団とは別に、同じ教室内には剣術大会の準備のために集まって来ていた男子生徒達も存在していた。
「……おい、今のマリーア様達が言っていた意味、お前には分かるか?」
「いや……、全然分からない」
「でも、女生徒達は全員、分かっているみたいなんだよな……」
「女にしか分からない、あれこれがあるんだろう、きっと」
「取り敢えず、明日の組み合わせ抽選会の進行と、備品の最終確認を進めよう」
「そうだな」
彼らは深く考えるのを止め、賑やかなマリーア達を意識的に見ないようにしながら、黙々と自分達が担当している仕事を進めていった。
「皆様。この間の奮闘、ご苦労様です。滞りなく準備は進み、明日は講堂で組み合わせ抽選会が開催されます。剣術大会初日がいよいよ三日後に迫っておりますが、ここで気を抜かず、無事に剣術大会が終了するように最後まで力を尽くしましょう」
実行委員会主要メンバーの一人であるマリーアが重々しく告げると、彼女を囲んでいる女生徒達が気迫のこもった頷きで応じる。
「勿論です、マリーア様!」
「最後の最後まで、全力で事に当たりますわ!」
「実行委員会としての活動もそうですが、数少ない参加女生徒の応援団として《剣術大会を成功に導く有志の会》を結成できたのも、ひとえに皆様の熱い想いがあってこそ。改めて、お礼申し上げます」
「水臭いですわ、マリーア様!」
「煌く女性を応援するのは、当然のことです!」
「自分にはできない偉業に挑む方を全力で応援するのを、誰にも止められませんわ!」
「ありがとうございます」
ここで穏やかに微笑みながら謝意を述べたマリーアだったが、すぐに顔つきを険しくして言葉を継いだ。
「ここからは少々不快で、不穏なことを口にさせていただきます。ナジェーク様やイズファイン様からの情報によると、剣術大会参加者の中で正々堂々と戦うのを良しとせず、策を弄して相手を負けに持ち込む、あるいは棄権させようと目論む不埒者が、複数人存在する可能性があるとのことです」
「許せませんね」
「そんな事を考えそうな人間に、幾らか心当たりもありますし」
「情けないにも程があります」
「勿論、お二方が手をこまねいている筈はございませんが、なにぶん参加者が多数です。そこである意味、標的になりやすい女生徒の保護と周囲の警戒を、私達が集中して行う事になりました」
その報告を聞いた周囲は、俄然やる気に満ちた表情と声で賛同する。
「お任せください、マリーア様!」
「既にエセリア様から同様の懸念を伝えられており、5人の周囲を固める人員のローテーションは作成済みです!」
「力尽くで襲撃を排除するのではなく、周囲を固めて目撃者を増やすだけで、立派な抑止力になりますもの」
「エセリア様から配布された防犯グッズの使い方も周知徹底していますし、絶対に変な手出しはさせませんわ」
周囲からの力強い声に、マリーアは表情を緩めながら話を続けた。
「ええ、皆様を信頼しております。念を押しますが、手を出してくるのは男子生徒とは限りません。性根の腐った者であれば、女性の親族や関係者に依頼したり、女生徒や実家の弱みを握って手先として使う場合も考えられます。それを考慮し今回の参加者本人達に、初対面でも私達真の味方と不審者の区別をつけて頂くために、合言葉を考えて貰いました。シレイア?」
「はい。それではこれが、これから各自警護する方に伝えていただく内容です。一枚ずつ取って、隣の方に回してください」
促されたシレイアは、説明しながら手に持っていた用紙を左右に回した。そしてその場の全員が用紙を手に取り、内容に目を通したのを確認してから、マリーアが声をかける。
「皆さん、確認できましたね? それでは私が問いを発するので、皆様はすかさずそれに対する台詞をご唱和ください。あなたの妹さんの髪の色は?」
「あなたと同じ緑色です!」
「昨日の月はどうだったかしら?」
「纏めて三本突き指しました!」
「最近美味しいと思った物は何ですか?」
「マール・ハナーの新作です!」
マリーアの台詞に、他の全員が声を揃えて応じる。合言葉の確認を終えたマリーアは、そこで満足そうに笑った。
「これなら不審者が適当に言葉を返しても、まぐれ当たりする事はないでしょう。それに緑の髪はソジェスタ・グレンの『呪いの姫』が元でしょうし、突き指云々は『時遅れの帰還』のクライマックスで的外れなやり取りをする笑いの場面から取っているし、マール・ハナーの新作に至っては言わずもがな。シレイアのセンスが光っているわね」
「ありがとうございます」
マリーアからの褒め言葉に、シレイアが殊勝に頭を下げた。そしてマリーアが、決意漲る表情で話を締めくくる。
「それでは皆様。剣術大会の完全な成功は、私達の双肩にかかっていると言っても過言ではございません。改めて、全力を尽くしましょう!」
「はい!」
「お任せください!」
「絶対に成功させましょうね!」
「成功か、より完全な成功かですわ!」
大盛り上がりで意気軒高な女生徒達の集団とは別に、同じ教室内には剣術大会の準備のために集まって来ていた男子生徒達も存在していた。
「……おい、今のマリーア様達が言っていた意味、お前には分かるか?」
「いや……、全然分からない」
「でも、女生徒達は全員、分かっているみたいなんだよな……」
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