才媛は一日にして成らず
(13)実行委員会での一幕
長期休暇が終了し、学園での生活が再開してからも、シレイアは充実した日々を過ごしていた。
「シレイア、実行委員会に行くところだよな」
「三人もそうよね。一緒に行きましょう」
「ああ」
放課後に廊下でエリム、ギャレット、ジャンと遭遇したシレイアは、笑顔で並んで歩き出した。すると3人が、しみじみとした口調で言い出す。
「シレイアに実行委員会に誘って貰って、本当に良かったよ」
「それに入寮した日、サビーネさんに、相手が貴族だろうと臆せず交流すべきと言って貰って良かったよな」
「本当に、剣術大会の実行委員会に参加してから、すごく交流範囲が広がって価値観が変わった気がする」
そんな事を口にする友人達に、シレイアは呆れ顔になりながら告げる。
「実行委員会への参加希望者だと言って、エセリア様とナジェーク様の前に連れて行った時、参加理由を聞かれて『将来、官吏となった暁には、敏腕の名を欲しいままにするであろうナジェーク様との面識を得るためです』なんて堂々と異口同音に言い放たれた時には、心底後悔したわよ。ナジェーク様が爆笑して『伝手狙いとは、正直で良いな。顔も名前も覚えてこき使うから、遠慮なく参加してくれ』と仰られて快諾してくれたから、結果的には良かったけど」
「ああ……、あの時は驚かせて悪かった」
「シレイア、顔から血の気が引いてたもんな」
「実はあれ、サビーネさんから助言されていたんだ。『いかにももっともらしいつまらない理由より、コネ目当てですって正直に言った方が、ナジェーク様は気に入ってくれますから』って」
「私もなんとなく、そんな気がしてたわ……。やっぱりサビーネが裏で糸を引いていたのね」
もう苦笑いしかできないシレイアは、そのままの表情で話を続けた。
「だけど発足直後に皆が入ってくれて、本当に助かったわ。どうしても女生徒から男子生徒に言い聞かせるのが難しい場合があるし。3人が率先して入ってくれたから、圧倒的に女生徒が多い実行委員会にも他の男子生徒が入ってくれたもの」
「役に立てて良かったよ。それにしてもローダスも誘われたのに、どうして断固として断ったんだろうな?」
「そういえばそうだな。俺達に『くれぐれもシレイアの事を頼む』なんて言うくらいなら、自分も参加すれば良いのに」
「あいつ『一応中立で、第三者的な立ち位置を保持する必要がある』とかなんとか、訳がわからない事を言っていたが」
「本当に、なんなんだろうな?」
「まあ、ローダスにはローダスの考えがあるし、他に色々とやりたい事があるんじゃない? 強制しなくても良いわよ」
(必要以上にエセリア様に肩入れしないように、必要以上に近づかないつもりなのは分かったから。本当に、変なところで真面目すぎない?)
周囲が怪訝な顔になる中、シレイアは笑って流した。
そんな風に談笑しているうちに実行委員会が使用許可を取っている教室に到着し、シレイア達は長方形に並べられている机の空いている席に座った。そして会議の開始時間と共に、エセリアが宣言する。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます。これから剣術大会実行委員会を開催いたします。まず各係の進捗状況の報告と、要望の集約を行います。それでは最初に刺繍係からお願いします」
「はい、この間の作成状況と、納品希望の品と数量についてご報告します」
(着々と準備が進んでいるし、特に大きな問題は生じていないわね。このまま絶対に、成功させてみせるわ)
各係からの報告を聞きながら、シレイアは小さなトラブルや遅れが出ていることはありつつも、ほぼ順調に計画通り進んでいるのを確認して満足げに頷いていた。
「特に問題なく準備が進んでいますので、この調子でよろしくお願いします。それで今回は最後に、私から一つ提案があるのですが」
唐突に言い出したエセリアに、その場全員を代表して、彼女の隣に座っていたナジェークが問いかける。
「提案? 聞いていないが」
「お兄様、本当にちょっとした思いつきですから、わざわざ事前に口にしておりませんでした」
「へえ? どんな事だい?」
「剣術大会の参加者で、女生徒は僅か5人だけです。ですから、進んでえこ贔屓をするつもりはありませんが、せめてその勇敢な5人の試合時には華やかな応援をして、その場を盛り上げてみたいと考えています」
「ふうん? それはどうかな……」
それを聞いたナジェークは、なんとなく乗り気ではなさそうに呟いた。しかしここで、アリサとメラニーが勢い良く挙手をしつつ、エセリアの意見に賛同する。
「賛成です! 本当に、男子生徒に混ざって試合をするだなんて、それだけで相当勇気がいることですから!」
「私達は騎士科志望でも、参加する気概がなくて……。でもその分、参加を決めた人達を尊敬してます! 他の人より、盛大に応援したいです!」
「良かった。そう思ってくれる?」
「勿論です!」
「やっぱりエセリア様は、人の気持ちが分かるお方です!」
「そう言ってくれると嬉しいわ。それじゃあ今日の会議はここで終わりにしますが、その応援の方法について相談したい事があるから、アリサとメラニーは残ってくれるかしら。それから、シレイアもお願い」
「はい!」
「お任せください!」
「分かりました」
「それでは皆様、今日はご苦労様でした」
(あら? 私もご指名? なにか必要なことでもあるのかしら?)
あっさりと話がまとまり、寝耳に水のシレイアは内心で困惑した。しかしその要請に、素直に頷く。
エセリアの終了の挨拶で生徒達が席を立って行く中、ナジェークが若干不安そうに妹に言い聞かせた。
「エセリア。あまり大ごとにはしないように」
「何を言っているんですか、お兄様。人聞きが悪いです。お兄様には既に色々なことをお任せしているのですから、そちらに集中してください」
「分かったよ」
エセリアに素っ気なく言い返され、ナジェークは苦笑しながら教室を出て行く。それから教室に残った4人だけで机を囲むと、エセリアが何枚かの用紙を他の3人に向けて差し出した。
「シレイア、実行委員会に行くところだよな」
「三人もそうよね。一緒に行きましょう」
「ああ」
放課後に廊下でエリム、ギャレット、ジャンと遭遇したシレイアは、笑顔で並んで歩き出した。すると3人が、しみじみとした口調で言い出す。
「シレイアに実行委員会に誘って貰って、本当に良かったよ」
「それに入寮した日、サビーネさんに、相手が貴族だろうと臆せず交流すべきと言って貰って良かったよな」
「本当に、剣術大会の実行委員会に参加してから、すごく交流範囲が広がって価値観が変わった気がする」
そんな事を口にする友人達に、シレイアは呆れ顔になりながら告げる。
「実行委員会への参加希望者だと言って、エセリア様とナジェーク様の前に連れて行った時、参加理由を聞かれて『将来、官吏となった暁には、敏腕の名を欲しいままにするであろうナジェーク様との面識を得るためです』なんて堂々と異口同音に言い放たれた時には、心底後悔したわよ。ナジェーク様が爆笑して『伝手狙いとは、正直で良いな。顔も名前も覚えてこき使うから、遠慮なく参加してくれ』と仰られて快諾してくれたから、結果的には良かったけど」
「ああ……、あの時は驚かせて悪かった」
「シレイア、顔から血の気が引いてたもんな」
「実はあれ、サビーネさんから助言されていたんだ。『いかにももっともらしいつまらない理由より、コネ目当てですって正直に言った方が、ナジェーク様は気に入ってくれますから』って」
「私もなんとなく、そんな気がしてたわ……。やっぱりサビーネが裏で糸を引いていたのね」
もう苦笑いしかできないシレイアは、そのままの表情で話を続けた。
「だけど発足直後に皆が入ってくれて、本当に助かったわ。どうしても女生徒から男子生徒に言い聞かせるのが難しい場合があるし。3人が率先して入ってくれたから、圧倒的に女生徒が多い実行委員会にも他の男子生徒が入ってくれたもの」
「役に立てて良かったよ。それにしてもローダスも誘われたのに、どうして断固として断ったんだろうな?」
「そういえばそうだな。俺達に『くれぐれもシレイアの事を頼む』なんて言うくらいなら、自分も参加すれば良いのに」
「あいつ『一応中立で、第三者的な立ち位置を保持する必要がある』とかなんとか、訳がわからない事を言っていたが」
「本当に、なんなんだろうな?」
「まあ、ローダスにはローダスの考えがあるし、他に色々とやりたい事があるんじゃない? 強制しなくても良いわよ」
(必要以上にエセリア様に肩入れしないように、必要以上に近づかないつもりなのは分かったから。本当に、変なところで真面目すぎない?)
周囲が怪訝な顔になる中、シレイアは笑って流した。
そんな風に談笑しているうちに実行委員会が使用許可を取っている教室に到着し、シレイア達は長方形に並べられている机の空いている席に座った。そして会議の開始時間と共に、エセリアが宣言する。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます。これから剣術大会実行委員会を開催いたします。まず各係の進捗状況の報告と、要望の集約を行います。それでは最初に刺繍係からお願いします」
「はい、この間の作成状況と、納品希望の品と数量についてご報告します」
(着々と準備が進んでいるし、特に大きな問題は生じていないわね。このまま絶対に、成功させてみせるわ)
各係からの報告を聞きながら、シレイアは小さなトラブルや遅れが出ていることはありつつも、ほぼ順調に計画通り進んでいるのを確認して満足げに頷いていた。
「特に問題なく準備が進んでいますので、この調子でよろしくお願いします。それで今回は最後に、私から一つ提案があるのですが」
唐突に言い出したエセリアに、その場全員を代表して、彼女の隣に座っていたナジェークが問いかける。
「提案? 聞いていないが」
「お兄様、本当にちょっとした思いつきですから、わざわざ事前に口にしておりませんでした」
「へえ? どんな事だい?」
「剣術大会の参加者で、女生徒は僅か5人だけです。ですから、進んでえこ贔屓をするつもりはありませんが、せめてその勇敢な5人の試合時には華やかな応援をして、その場を盛り上げてみたいと考えています」
「ふうん? それはどうかな……」
それを聞いたナジェークは、なんとなく乗り気ではなさそうに呟いた。しかしここで、アリサとメラニーが勢い良く挙手をしつつ、エセリアの意見に賛同する。
「賛成です! 本当に、男子生徒に混ざって試合をするだなんて、それだけで相当勇気がいることですから!」
「私達は騎士科志望でも、参加する気概がなくて……。でもその分、参加を決めた人達を尊敬してます! 他の人より、盛大に応援したいです!」
「良かった。そう思ってくれる?」
「勿論です!」
「やっぱりエセリア様は、人の気持ちが分かるお方です!」
「そう言ってくれると嬉しいわ。それじゃあ今日の会議はここで終わりにしますが、その応援の方法について相談したい事があるから、アリサとメラニーは残ってくれるかしら。それから、シレイアもお願い」
「はい!」
「お任せください!」
「分かりました」
「それでは皆様、今日はご苦労様でした」
(あら? 私もご指名? なにか必要なことでもあるのかしら?)
あっさりと話がまとまり、寝耳に水のシレイアは内心で困惑した。しかしその要請に、素直に頷く。
エセリアの終了の挨拶で生徒達が席を立って行く中、ナジェークが若干不安そうに妹に言い聞かせた。
「エセリア。あまり大ごとにはしないように」
「何を言っているんですか、お兄様。人聞きが悪いです。お兄様には既に色々なことをお任せしているのですから、そちらに集中してください」
「分かったよ」
エセリアに素っ気なく言い返され、ナジェークは苦笑しながら教室を出て行く。それから教室に残った4人だけで机を囲むと、エセリアが何枚かの用紙を他の3人に向けて差し出した。
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