才媛は一日にして成らず
(11)広がる交流
「2人とも、国教会で行なっている貸金業務について知っている?」
いきなり話題を変えられた彼女達は面食らいながらも、律儀にその問いに答えた。
「勿論、知ってます」
「知らない人はいないんじゃないですか?」
「それなら、財産信託制度は?」
「ええと……、最近国教会で始められた制度ですよね?」
「身寄りのない遺族の生活保護や、没後の親族間の財産紛争を防ぐための制度だったと思いますけど。それがどうかしたんですか?」
「それらが全て、エセリア様の発案だって言ったら信じる?」
そこで2人は驚愕の表情になり、茫然としながら呟く。
「え? でも、だって……」
「それが始まったのは何年か前で、エセリア様はまだ子供だったはずじゃ……」
「そう。私達と同様に、単なる子供だったエセリア様が発案し、国教会総主教会に実施と運営を持ちかけたの。どう考えても、平々凡々な貴族のお嬢様ではないわよね? そんな方がつまらない固定観念に凝り固まって、平民を見下すような真似をすると思う? 市井の困っている人を少しでも減らし、助けになる制度を考え出してきた方なのよ?」
「本当だったら凄い……」
「うん。さすがは未来の王妃様……」
「正真正銘、真実よ。神と大司教である父の名前に誓うわ。だからあなた達も、貴族の人とは気安く話せないとか見下されるといった固定観念は、エセリア様に関しては捨てて欲しいの。エセリア様は本心から、在学中は身分は関係なく交流したいと考えていらっしゃるから」
シレイアは、真摯に言葉を重ねて訴えた。すると2人が、涙ぐみながら言い出す。
「私達、入学直後からエセリア様達と対等に話せているシレイアさんが、凄く羨ましかったの」
「王太子様の婚約者なんて、どう接したら良いか全然分からなかったし」
「剣術大会の話が出た時も、騎士科に脚光が浴びるのは嬉しいけど、まさか男子生徒に混ざって試合をするなんて怖くて」
「騎士科志望でも無理に試合に参加しなくても良くて、何か他の係で参加すれば良いと説明されて安心したけど」
「だからせめて実行委員会に入って、他の人よりお役に立ちたいと考えたけど、周りから馬鹿にされるんじゃないかと思って、どうすれば良いか分からなくなってしまって」
「思い切って、シレイアさんに声をかけてみて良かった」
涙ぐんだままそう言ってきた2人を見て、シレイアは(2人からすると、相当勇気を出してくれたのよね。もっと早く、こちらから声をかければ良かったわ)としみじみ思った。
「それじゃあ一応確認させて貰うけど、2人とも実行委員会に入ってくれるのよね? 前例がない企画だから一から考えて準備しないといけないし、放課後に結構時間を取られることになりそうだけど大丈夫?」
シレイアがそう声をかけると、2人は迷いを完全に断ち切った表情で頷く。
「勿論、大丈夫です。まだ騎士科の専科には所属していないから、放課後の自主訓練とかにも参加していないし」
「勉強に忙しいはずのシレイアさんが率先して活動しているから、私達だって頑張ります」
「分かったわ。それならこれから実行委員会の集まりがあるから、都合が良かったら一緒に来てくれない? 他の皆に紹介するわ。早速、仕事をお願いすることになるかもしれないけど」
「これからですか ︎」
さすがにひるむ様子を見せた2人に、シレイアが畳みかける。
「どうしても決心がつかないなら、改めて他の日に紹介するけど、こういうのって勢いが大事だと思うの。せっかくあなた達が勇気を出してくれたから、私は今日、皆に紹介したいわ」
シレイアがそう告げると、2人は一瞬顔を見合わせてから真顔で懇願してきた。
「分かりました。確かに先延ばしにすると、決心が鈍りそう」
「これから紹介してください。お願いします」
「良かったわ。それじゃあ、教室に行く前に一つだけお願いがあるけど、聞いてもらえる?」
「なんですか?」
幾分不安そうな顔つきになった2人に、シレイアは明るい笑顔で語りかける。
「私は同じクラスの同級生だし、さん付けとか必要以上に丁寧に話すのは止めて貰えない? 私もアリサとメラニーって呼ぶから」
そうすると、ようやく2人も笑顔になって頷いた。
「分かったわ。シレイア、これからよろしくね」
「そういえば、シレイアはサビーネさんの事も『サビーネ』って呼んでいるものね。エセリア様の事は『エセリア様』だけど」
「エセリア様には『呼び捨てで構わない』と言われたことがあるけど、こればかりはね。エセリア様は、もう友人の枠を超えた崇拝の対象だもの。そうだわ! その偉大さが良く分かる本があるのだけど、読んでみない? 2人はこれまで、マール・ハナーが書いた小説を読んだことがあるかしら?」
唐突に出た話題に、2人は困惑しながら答えた。
「え? 『しょうせつ』って、何? そういえば、以前噂に聞いたことがあるけど……。本は気軽に買えない金額だし」
「以前はそうだったかもしれないけど、最近は廉価版の物も出ているのよ」
「そうなの。知らなかったわ」
「エセリア様の偉大さが分かるなら、例の貸金業務や信託財産制度に関する本なの?」
「ううん、そういうのとは違うけど。取り敢えず行きましょうか。今日は実行委員会の仕事が終わったら、私が持っている本を貸すわ。エセリア様の偉大さを口で説明するより、その本を読んでもらった方が実感できる筈だから」
「そうなの? なんだか凄い本みたいね」
「実行委員会の仕事もそうだけど、その本も楽しみ」
「任せて! 実行委員会も本も、絶対後悔させたり失望させたりしないから!」
そう語気強く宣言しながら、シレイアは2人を引き連れて歩き出した。
その翌日から、シレイアは同学年の女子生徒の中でも平民の、周囲から孤立気味の生徒達を狙って次々に突撃し、その全員と友好関係を樹立することに成功した。そして彼女達と、強固なネットワークを構築していくのだった。
いきなり話題を変えられた彼女達は面食らいながらも、律儀にその問いに答えた。
「勿論、知ってます」
「知らない人はいないんじゃないですか?」
「それなら、財産信託制度は?」
「ええと……、最近国教会で始められた制度ですよね?」
「身寄りのない遺族の生活保護や、没後の親族間の財産紛争を防ぐための制度だったと思いますけど。それがどうかしたんですか?」
「それらが全て、エセリア様の発案だって言ったら信じる?」
そこで2人は驚愕の表情になり、茫然としながら呟く。
「え? でも、だって……」
「それが始まったのは何年か前で、エセリア様はまだ子供だったはずじゃ……」
「そう。私達と同様に、単なる子供だったエセリア様が発案し、国教会総主教会に実施と運営を持ちかけたの。どう考えても、平々凡々な貴族のお嬢様ではないわよね? そんな方がつまらない固定観念に凝り固まって、平民を見下すような真似をすると思う? 市井の困っている人を少しでも減らし、助けになる制度を考え出してきた方なのよ?」
「本当だったら凄い……」
「うん。さすがは未来の王妃様……」
「正真正銘、真実よ。神と大司教である父の名前に誓うわ。だからあなた達も、貴族の人とは気安く話せないとか見下されるといった固定観念は、エセリア様に関しては捨てて欲しいの。エセリア様は本心から、在学中は身分は関係なく交流したいと考えていらっしゃるから」
シレイアは、真摯に言葉を重ねて訴えた。すると2人が、涙ぐみながら言い出す。
「私達、入学直後からエセリア様達と対等に話せているシレイアさんが、凄く羨ましかったの」
「王太子様の婚約者なんて、どう接したら良いか全然分からなかったし」
「剣術大会の話が出た時も、騎士科に脚光が浴びるのは嬉しいけど、まさか男子生徒に混ざって試合をするなんて怖くて」
「騎士科志望でも無理に試合に参加しなくても良くて、何か他の係で参加すれば良いと説明されて安心したけど」
「だからせめて実行委員会に入って、他の人よりお役に立ちたいと考えたけど、周りから馬鹿にされるんじゃないかと思って、どうすれば良いか分からなくなってしまって」
「思い切って、シレイアさんに声をかけてみて良かった」
涙ぐんだままそう言ってきた2人を見て、シレイアは(2人からすると、相当勇気を出してくれたのよね。もっと早く、こちらから声をかければ良かったわ)としみじみ思った。
「それじゃあ一応確認させて貰うけど、2人とも実行委員会に入ってくれるのよね? 前例がない企画だから一から考えて準備しないといけないし、放課後に結構時間を取られることになりそうだけど大丈夫?」
シレイアがそう声をかけると、2人は迷いを完全に断ち切った表情で頷く。
「勿論、大丈夫です。まだ騎士科の専科には所属していないから、放課後の自主訓練とかにも参加していないし」
「勉強に忙しいはずのシレイアさんが率先して活動しているから、私達だって頑張ります」
「分かったわ。それならこれから実行委員会の集まりがあるから、都合が良かったら一緒に来てくれない? 他の皆に紹介するわ。早速、仕事をお願いすることになるかもしれないけど」
「これからですか ︎」
さすがにひるむ様子を見せた2人に、シレイアが畳みかける。
「どうしても決心がつかないなら、改めて他の日に紹介するけど、こういうのって勢いが大事だと思うの。せっかくあなた達が勇気を出してくれたから、私は今日、皆に紹介したいわ」
シレイアがそう告げると、2人は一瞬顔を見合わせてから真顔で懇願してきた。
「分かりました。確かに先延ばしにすると、決心が鈍りそう」
「これから紹介してください。お願いします」
「良かったわ。それじゃあ、教室に行く前に一つだけお願いがあるけど、聞いてもらえる?」
「なんですか?」
幾分不安そうな顔つきになった2人に、シレイアは明るい笑顔で語りかける。
「私は同じクラスの同級生だし、さん付けとか必要以上に丁寧に話すのは止めて貰えない? 私もアリサとメラニーって呼ぶから」
そうすると、ようやく2人も笑顔になって頷いた。
「分かったわ。シレイア、これからよろしくね」
「そういえば、シレイアはサビーネさんの事も『サビーネ』って呼んでいるものね。エセリア様の事は『エセリア様』だけど」
「エセリア様には『呼び捨てで構わない』と言われたことがあるけど、こればかりはね。エセリア様は、もう友人の枠を超えた崇拝の対象だもの。そうだわ! その偉大さが良く分かる本があるのだけど、読んでみない? 2人はこれまで、マール・ハナーが書いた小説を読んだことがあるかしら?」
唐突に出た話題に、2人は困惑しながら答えた。
「え? 『しょうせつ』って、何? そういえば、以前噂に聞いたことがあるけど……。本は気軽に買えない金額だし」
「以前はそうだったかもしれないけど、最近は廉価版の物も出ているのよ」
「そうなの。知らなかったわ」
「エセリア様の偉大さが分かるなら、例の貸金業務や信託財産制度に関する本なの?」
「ううん、そういうのとは違うけど。取り敢えず行きましょうか。今日は実行委員会の仕事が終わったら、私が持っている本を貸すわ。エセリア様の偉大さを口で説明するより、その本を読んでもらった方が実感できる筈だから」
「そうなの? なんだか凄い本みたいね」
「実行委員会の仕事もそうだけど、その本も楽しみ」
「任せて! 実行委員会も本も、絶対後悔させたり失望させたりしないから!」
そう語気強く宣言しながら、シレイアは2人を引き連れて歩き出した。
その翌日から、シレイアは同学年の女子生徒の中でも平民の、周囲から孤立気味の生徒達を狙って次々に突撃し、その全員と友好関係を樹立することに成功した。そして彼女達と、強固なネットワークを構築していくのだった。
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