才媛は一日にして成らず
(9)意思統一
「この剣術大会が開催されたら拙い人間が一定数存在しているのは、一々言わなくても皆には分かるわよね?」
シレイアにそう問われた面々は、即座に真顔で頷く。
「実力がないのに裏から手を回して推薦を変えさせた生徒は勿論、今後変えさせようと目論んでいる人間には死活問題だな」
「くだらなさ過ぎる死活問題だが、全力でこの企画を潰しにかかるんじゃないか?」
「それに対して、何か考えているのか?」
「ひょっとして、本題っていうのはそれか?」
そう問い返されたシレイアは、満足げに笑ってみせる。
「皆、頭の回転が速くて助かるわ。まさにその通りなの。企画書を学園長に提出したから、その審査というか検討を学園側にしてもらっている間に、生徒間での合意形成を済ませておきたいのよ。生徒主導というからには、全員参加が望ましいでしょう? 企画趣旨の中に、それも盛り込まれているし」
「なるほどな。それで?」
「各クラスに企画の趣旨説明をする役割の人が出向いて、生徒達に説明の上で参加に同意するよう持ち込むつもりなの。実際に試合に参加する他に、色々な係での参加を想定しているのよ。ごめん、話に夢中で忘れていたけど、これが剣術大会の企画案よ。人数分書き写してきたから、ざっと目を通して」
「分かった」
そこで少しの間、ローダス達はシレイアから手渡された資料にざっと目を通した。その間に、シレイアが補足説明をする。
「専科上級学年と下級学年については、上級貴族、かつ最上級生であるナジェーク様やマリーア様達が手を回して、反対派を抑え込めそうなの。でもここで問題になるのは、今年入学したばかりの教養科の3クラスなのよ。横の繋がりはできていないし、ただでさえ平民の生徒は貴族の生徒に対して遠慮がち。女子生徒も男子生徒に強く出られないとあっては、無理筋が通ってしまう可能性は否定できないわ」
そこまで聞いて、ローダス達は揃って顔を上げた。
「確かにそうだな。こんな企画は前代未聞だ、不要だなどと難癖をつけて、そのクラスでの意見を参加拒否に持ち込まれたら面倒だ」
「それを足がかりに、『参加や協力を拒止しているクラスがある。全員参加など望むべくもない』と理由づけをして、学園側に反対派が企画撤回を申し入れるかもしれない」
「俺達に話を持ちかけたって事は、その説明役の人の話に賛同した上で、それに反論してくる奴を正論で叩き潰せば良いんだよな?」
「皆、揃って察しが良くて大好き! そうなの! まさにそうして欲しいのよ! これが説明会での想定問答集で、これを元に不逞の輩を臨機応変に叩き潰して欲しいの。私のクラスはエセリア様やサビーネがいるしどうにでもするから、他の2クラスの掌握をお願い。この通り」
4人分の想定問答集を押しやってから、シレイアは座ったまま頭を下げた。すると、4人分の笑いを含んだ声が聞こえてくる。
「別に、頭を下げるほどの事でもないさ。子供の頃からの付き合いなのに」
「そうそう。寧ろ、そんな不正を黙って見逃すような人間だと思われる方がショックだよな?」
「言われなくても、全面的に協力するよ。シレイアが頼み事をするなんて初めてだし」
「しかし、凄いなこの問答集。3枚にびっしり書いてあるし、時間がかかっただろう? 本気度が凄いよな」
そこでシレイアは頭を上げ、不敵に笑いながら答えた。
「ええ、気合を入れたわよ。昨日の晩から考えて、今日も朝から考え抜いて清書して、4人分を書き写したわ」
「朝からって……、休み時間とかに?」
「授業中もぶっ続けでやっていたわ。勿論、教授に見つからないように、細心の注意を払ったけど」
それを聞いたローダス達は、本気で呆れた。
「何をやってるんだよ……」
「それなら、まさか今日の授業は、ノートを取っていないのか?」
「実はそうなの。でも、聞いて頂戴! 授業中の私の様子を見て不審に思ったエセリア様から、何をしていたのかを尋ねられて正直に答えたの。そうしたら『剣術大会で、シレイアにそんな負担をかけてしまって、申し訳ないわ。良かったら今日の授業のノートを貸すから、写し取って頂戴』と言ってくださって、全教科ノートをお借りしてきたのよ! なんて僥倖! 私に取っては、この上ないご褒美よ! まさかエセリア様から、ノートをお借りできる日が来るなんて! こんな事、絶対にないと思っていたわ!」
そのまま喜色満面で打ち震えているシレイアを眺めながら、ローダス達は囁き合う。
「そうだろうな。真面目なシレイアがノートを取らないなんてあり得ないから、必然的に普通であればノートを借りる事態にはならないよな」
「以前から、シレイアのエセリア様への崇拝ぶりは時折見聞きしていたが、入学してから拍車がかかっていないか?」
「それが悪いとは言わないが……。さっきも『皆、察しが良くて大好き』とか平気でいう辺り、どうなんだろうな……」
「おい、ジャン。どうしてここで俺を見るんだ?」
「いや、相変わらずローダスも色々大変だなと思ってさ」
「色々頑張れよ?」
「だから、何を言ってるんだ ︎」
「それじゃあ、皆。くれぐれもよろしくね!」
周囲の思惑など全く察せないまま、シレイアは上機嫌で話を締めくくったのだった。
シレイアにそう問われた面々は、即座に真顔で頷く。
「実力がないのに裏から手を回して推薦を変えさせた生徒は勿論、今後変えさせようと目論んでいる人間には死活問題だな」
「くだらなさ過ぎる死活問題だが、全力でこの企画を潰しにかかるんじゃないか?」
「それに対して、何か考えているのか?」
「ひょっとして、本題っていうのはそれか?」
そう問い返されたシレイアは、満足げに笑ってみせる。
「皆、頭の回転が速くて助かるわ。まさにその通りなの。企画書を学園長に提出したから、その審査というか検討を学園側にしてもらっている間に、生徒間での合意形成を済ませておきたいのよ。生徒主導というからには、全員参加が望ましいでしょう? 企画趣旨の中に、それも盛り込まれているし」
「なるほどな。それで?」
「各クラスに企画の趣旨説明をする役割の人が出向いて、生徒達に説明の上で参加に同意するよう持ち込むつもりなの。実際に試合に参加する他に、色々な係での参加を想定しているのよ。ごめん、話に夢中で忘れていたけど、これが剣術大会の企画案よ。人数分書き写してきたから、ざっと目を通して」
「分かった」
そこで少しの間、ローダス達はシレイアから手渡された資料にざっと目を通した。その間に、シレイアが補足説明をする。
「専科上級学年と下級学年については、上級貴族、かつ最上級生であるナジェーク様やマリーア様達が手を回して、反対派を抑え込めそうなの。でもここで問題になるのは、今年入学したばかりの教養科の3クラスなのよ。横の繋がりはできていないし、ただでさえ平民の生徒は貴族の生徒に対して遠慮がち。女子生徒も男子生徒に強く出られないとあっては、無理筋が通ってしまう可能性は否定できないわ」
そこまで聞いて、ローダス達は揃って顔を上げた。
「確かにそうだな。こんな企画は前代未聞だ、不要だなどと難癖をつけて、そのクラスでの意見を参加拒否に持ち込まれたら面倒だ」
「それを足がかりに、『参加や協力を拒止しているクラスがある。全員参加など望むべくもない』と理由づけをして、学園側に反対派が企画撤回を申し入れるかもしれない」
「俺達に話を持ちかけたって事は、その説明役の人の話に賛同した上で、それに反論してくる奴を正論で叩き潰せば良いんだよな?」
「皆、揃って察しが良くて大好き! そうなの! まさにそうして欲しいのよ! これが説明会での想定問答集で、これを元に不逞の輩を臨機応変に叩き潰して欲しいの。私のクラスはエセリア様やサビーネがいるしどうにでもするから、他の2クラスの掌握をお願い。この通り」
4人分の想定問答集を押しやってから、シレイアは座ったまま頭を下げた。すると、4人分の笑いを含んだ声が聞こえてくる。
「別に、頭を下げるほどの事でもないさ。子供の頃からの付き合いなのに」
「そうそう。寧ろ、そんな不正を黙って見逃すような人間だと思われる方がショックだよな?」
「言われなくても、全面的に協力するよ。シレイアが頼み事をするなんて初めてだし」
「しかし、凄いなこの問答集。3枚にびっしり書いてあるし、時間がかかっただろう? 本気度が凄いよな」
そこでシレイアは頭を上げ、不敵に笑いながら答えた。
「ええ、気合を入れたわよ。昨日の晩から考えて、今日も朝から考え抜いて清書して、4人分を書き写したわ」
「朝からって……、休み時間とかに?」
「授業中もぶっ続けでやっていたわ。勿論、教授に見つからないように、細心の注意を払ったけど」
それを聞いたローダス達は、本気で呆れた。
「何をやってるんだよ……」
「それなら、まさか今日の授業は、ノートを取っていないのか?」
「実はそうなの。でも、聞いて頂戴! 授業中の私の様子を見て不審に思ったエセリア様から、何をしていたのかを尋ねられて正直に答えたの。そうしたら『剣術大会で、シレイアにそんな負担をかけてしまって、申し訳ないわ。良かったら今日の授業のノートを貸すから、写し取って頂戴』と言ってくださって、全教科ノートをお借りしてきたのよ! なんて僥倖! 私に取っては、この上ないご褒美よ! まさかエセリア様から、ノートをお借りできる日が来るなんて! こんな事、絶対にないと思っていたわ!」
そのまま喜色満面で打ち震えているシレイアを眺めながら、ローダス達は囁き合う。
「そうだろうな。真面目なシレイアがノートを取らないなんてあり得ないから、必然的に普通であればノートを借りる事態にはならないよな」
「以前から、シレイアのエセリア様への崇拝ぶりは時折見聞きしていたが、入学してから拍車がかかっていないか?」
「それが悪いとは言わないが……。さっきも『皆、察しが良くて大好き』とか平気でいう辺り、どうなんだろうな……」
「おい、ジャン。どうしてここで俺を見るんだ?」
「いや、相変わらずローダスも色々大変だなと思ってさ」
「色々頑張れよ?」
「だから、何を言ってるんだ ︎」
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