才媛は一日にして成らず
(8)水面下での活動
「ローダス!」
「え? なんだ、シレイア。どうかしたのか?」
廊下を歩いていたローダスは、突然鬼気迫る表情で駆け寄ってきたシレイアに、本気で面食らった。しかしシレイアは彼の戸惑いなど全く気にせず、単刀直入に告げる。
「今日の授業が終わったらすぐに、大事な話があるからカフェに来て。それからこの事を、皆に大至急伝えて欲しいの」
「『皆に』って……」
「当然、エリムとジャンとギャレットに決まってるわよ! 分かったわね ︎  忘れずに、全員に伝えてよ ︎  それじゃあね!」
「あ、おい! シレイア ︎ 一体、どういう……」
言うだけ言って、来た時の勢いそのままに再び駆け去って行ったシレイアを、ローダスは呆然と見送った。
「あんなに廊下を走ったら、教授達に見つかったら叱責されるだろうが。しかしそんな事も気にしないで急いでいるなんて、一体何事なんだ?」
常にはないシレイアの行動と言われた内容に、ローダスは若干の不安を覚えた。しかし取り敢えず修学場からの付き合いである3人に彼女からの伝言を伝え、授業が終わるとその足でカフェへと向かった。
※※※
「皆、来てくれてありがとう。実は、ちょっと手を貸して貰いたい事ができたのよ」
ローダス達が顔を揃えてカフェに出向くと、テーブルの一つで待ち構えていたシレイアの目は、既に据わっていた。それを見た彼らは異変を感じたが、すぐに問い質したりはせず、取り敢えず促されるまま5人で円卓を囲む。
「今からする話は、絶対に他言無用の話なの。不用意に他人に聞かれても拙いから、各自自分の視界に不自然にこのテーブルに近づいたり、聞き耳を立てている素振りの人がいたら、すぐに警告して話を止めて頂戴」
冒頭から不穏極まりないシレイアの台詞に、さすがに全員の顔が強張った。
「シレイア。まさかとは思うが、例のエセリア様に関する事か?」
こんな場で持ち出すわけないだろうなと思いながら、ローダスは先日耳にしたエセリアの婚約破棄の話を匂わせてみた。しかしシレイアは、真顔のまま首を振る。
「今回は、それとは別件よ。エセリア様が関わっているのは確かだけど」
「そうか……。それなら、どんな話なんだ?」
「このクレランス学園内での、とんでもない不正行為の話よ」
「……え?」
「一週間程前、エセリア様達と一緒に歩いている時に、騎士科所属の先輩達の揉め事に遭遇したの。それが事の発端なのだけど……」
ローダスはシレイアが明確に否定して安堵したのも束の間、話を促したのをすぐに後悔する羽目になった。
「そういうわけで、今現在、騎士科所属生徒の意識改革と近衛騎士団への推薦制度の公平化、生徒間の交流推進を目論みつつ、国境沿いでの大規模軍事演習に代わる諸外国への軍事・勢力アピールに繋げる武闘大会の簡易版として、今年中にクレランス学園で剣術大会を開催する計画なの。3日前にエセリア様とナジェーク様と騎士科所属のイズファイン様で実行委員会を立ち上げ、一昨日にグラデイクト殿下を丸め込んでお飾りの名誉会長に担ぎ上げた上で学園長に企画書を提出し、昨日はエセリア様と交流がある女生徒の方々に集まってもらって、全面協力を確約していただいているわ」
そこまで立て板に水の如く、騎士科での近衛騎士団推薦に関しての脅迫、それが慢性化しているであろう状況、更にそれを打開するためにエセリアが目論んでいる事を一気に語って聞かせたシレイアは、喉の渇きを潤すためにカップを持ち上げて冷め切ったお茶を飲んだ。すると一通り喋った事で落ち着きを取り戻したシレイアとは対照的に、途中から顔色を無くしていたローダス達が、口々に呻くように声を絞り出す。
「話のスケールが大きすぎて、頭の処理能力に自信がなくなってきた」
「教授を脅して推薦を反故にするだけでも問題なのに、それを改善するのに近衛騎士団まで巻き込んで視察をさせようと目論んでいるって……」
「しかも建前が、大規模演習の代替案提案って、学生が片手間に考える事じゃないよな ︎」
「どこまで話がでかくなってるんだよ ︎」
狼狽著しい友人達をみて、シレイアは明るく笑ってみせた。
「別に、そんなに深刻に考える話でもないでしょう? 官吏になれば、携わる仕事はそのまま国家の政策だもの。この話は単なる、学園内での生徒主体の単なる企画の一つに過ぎないじゃない」
「……ああ、確かにそうだな。裏事情を知らなければ」
「聞くんじゃなかった……」
「そう言わないで。本題はこれからなのよ」
「これで終わりじゃないのか ︎」
「ちょっと待て!」
「本当に勘弁してくれ ︎」
容赦の無さすぎるシレイアの言葉に、ローダス達は揃って戦慄した。しかし当然シレイアはここで話を止めたりはせず、再び真顔になって話を続けた。
「え? なんだ、シレイア。どうかしたのか?」
廊下を歩いていたローダスは、突然鬼気迫る表情で駆け寄ってきたシレイアに、本気で面食らった。しかしシレイアは彼の戸惑いなど全く気にせず、単刀直入に告げる。
「今日の授業が終わったらすぐに、大事な話があるからカフェに来て。それからこの事を、皆に大至急伝えて欲しいの」
「『皆に』って……」
「当然、エリムとジャンとギャレットに決まってるわよ! 分かったわね ︎  忘れずに、全員に伝えてよ ︎  それじゃあね!」
「あ、おい! シレイア ︎ 一体、どういう……」
言うだけ言って、来た時の勢いそのままに再び駆け去って行ったシレイアを、ローダスは呆然と見送った。
「あんなに廊下を走ったら、教授達に見つかったら叱責されるだろうが。しかしそんな事も気にしないで急いでいるなんて、一体何事なんだ?」
常にはないシレイアの行動と言われた内容に、ローダスは若干の不安を覚えた。しかし取り敢えず修学場からの付き合いである3人に彼女からの伝言を伝え、授業が終わるとその足でカフェへと向かった。
※※※
「皆、来てくれてありがとう。実は、ちょっと手を貸して貰いたい事ができたのよ」
ローダス達が顔を揃えてカフェに出向くと、テーブルの一つで待ち構えていたシレイアの目は、既に据わっていた。それを見た彼らは異変を感じたが、すぐに問い質したりはせず、取り敢えず促されるまま5人で円卓を囲む。
「今からする話は、絶対に他言無用の話なの。不用意に他人に聞かれても拙いから、各自自分の視界に不自然にこのテーブルに近づいたり、聞き耳を立てている素振りの人がいたら、すぐに警告して話を止めて頂戴」
冒頭から不穏極まりないシレイアの台詞に、さすがに全員の顔が強張った。
「シレイア。まさかとは思うが、例のエセリア様に関する事か?」
こんな場で持ち出すわけないだろうなと思いながら、ローダスは先日耳にしたエセリアの婚約破棄の話を匂わせてみた。しかしシレイアは、真顔のまま首を振る。
「今回は、それとは別件よ。エセリア様が関わっているのは確かだけど」
「そうか……。それなら、どんな話なんだ?」
「このクレランス学園内での、とんでもない不正行為の話よ」
「……え?」
「一週間程前、エセリア様達と一緒に歩いている時に、騎士科所属の先輩達の揉め事に遭遇したの。それが事の発端なのだけど……」
ローダスはシレイアが明確に否定して安堵したのも束の間、話を促したのをすぐに後悔する羽目になった。
「そういうわけで、今現在、騎士科所属生徒の意識改革と近衛騎士団への推薦制度の公平化、生徒間の交流推進を目論みつつ、国境沿いでの大規模軍事演習に代わる諸外国への軍事・勢力アピールに繋げる武闘大会の簡易版として、今年中にクレランス学園で剣術大会を開催する計画なの。3日前にエセリア様とナジェーク様と騎士科所属のイズファイン様で実行委員会を立ち上げ、一昨日にグラデイクト殿下を丸め込んでお飾りの名誉会長に担ぎ上げた上で学園長に企画書を提出し、昨日はエセリア様と交流がある女生徒の方々に集まってもらって、全面協力を確約していただいているわ」
そこまで立て板に水の如く、騎士科での近衛騎士団推薦に関しての脅迫、それが慢性化しているであろう状況、更にそれを打開するためにエセリアが目論んでいる事を一気に語って聞かせたシレイアは、喉の渇きを潤すためにカップを持ち上げて冷め切ったお茶を飲んだ。すると一通り喋った事で落ち着きを取り戻したシレイアとは対照的に、途中から顔色を無くしていたローダス達が、口々に呻くように声を絞り出す。
「話のスケールが大きすぎて、頭の処理能力に自信がなくなってきた」
「教授を脅して推薦を反故にするだけでも問題なのに、それを改善するのに近衛騎士団まで巻き込んで視察をさせようと目論んでいるって……」
「しかも建前が、大規模演習の代替案提案って、学生が片手間に考える事じゃないよな ︎」
「どこまで話がでかくなってるんだよ ︎」
狼狽著しい友人達をみて、シレイアは明るく笑ってみせた。
「別に、そんなに深刻に考える話でもないでしょう? 官吏になれば、携わる仕事はそのまま国家の政策だもの。この話は単なる、学園内での生徒主体の単なる企画の一つに過ぎないじゃない」
「……ああ、確かにそうだな。裏事情を知らなければ」
「聞くんじゃなかった……」
「そう言わないで。本題はこれからなのよ」
「これで終わりじゃないのか ︎」
「ちょっと待て!」
「本当に勘弁してくれ ︎」
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