土曜のアン

下之森茂

18 アンの石拾い

「ふたりとも、ガレージ集合。」

部屋で本を読んでいたビビと
図鑑片手に拾った石を並べているアンが、
姉のエリカに呼び出されます。

祖父のダンテが置き土産にした
サイドカー付きバイクに乗り込み、
高速道路で30分ほど移動して
目的地の土手道に到着しました。

「大きい川だ。」

「川がふたつある?」

ビビの言う通り、目の前に大きな橋が現れました。
それは土手道が川に挟まれていることを示します。

ビビたちが立っている土手は、
ふたつの一級河川が合流する場所でした。

「ここはキャンプ場よ。」

「え? ここ、泊まるの?」

「まさか。泊まらないわよ。
 それにここ、デイキャンプのみだし。
 もちろん日が暮れる前には帰るつもり。」

駐車場にバイクを置いて、
3人は河原に向かいます。

休日ということもあり、
キャンプ場は人が多くいます。

「サーモンいる?」

「いないかな。季節も違うし。」

「いないか。」

「それにサケの遡上なら、
 もっともっと北の方じゃないと。」

「そっか。」

アンは諦めて川に向かいます。

「石がいっぱいある。ちょっと見てくる!」

「エーちゃん、石拾いに来たの?
 いっぱい拾ってくるよ、アンは。」

「石拾いはしないかな。
 今日はビビと話しをしに来たの。」

「あたし?」

「そうだよ。」

アンは川で遊ぶ人々の片隅で、
さっそく石の物色をはじめています。

「わたし、高校卒業したら
 ひとり暮らしする予定。」

「…初めて聞いた。
 今のバイト先に就職するの?
 大学…とかは?」

「そう。専門学校とかで勉強するよりも、
 早く実務経験身につけたいの。
 お母さんには言ったから、
 お父さんももう知ってるはず。」

ふたりは河原に座り、ティナは
川で遊ぶ人たちとアンの様子を眺めます。

「そうなんだ…。
 なんで? なんでそんな話しするの?」

「ビビは今年で小学校卒業でしょ。
 来年には中学校。
 それから6年経てば、社会に放り出される。
 いまはまだモラトリアムだけど――。」

「ねえ、モラトリアムって?」

「猶予期間のこと。いまはまだ小学生だけど、
 将来のことを考えなくちゃいけなくなる。
 大学に行って、なにか勉強するか。
 仕事に就くなら、どんな仕事をするか。
 それから、黒曜にも寿命があるのと同じで、
 アンちゃんだっていつまでもウチにはいない。
 だからビビはいまから考えなくちゃいけない。」

エリカから浴びせられた言葉の洪水に、
ビビは頬を強く叩かれた感覚を覚えて黙ります。

「病気してからよく本を読むのは、
 知識を蓄えることだから責めたりしないよ。
 でも経験して…自分の目で見たり行動すれば、
 ビビの知識はきっとどっかで活きる。
 だから、いつか自分のタイミングでいいから、
 一歩踏み出してみて。」

黙って、うなずいてから、
ビビは自分の足元を見ることしかできません。

「まだ未成年のあたしが、
 こんな偉そうなの言えた立場じゃないけど。」

「…上手くいかなかったら?」

「言っとくけど、上手く行かないことだらけよ?
 就職失敗したら、すぐ帰ってくるかもだしね。
 いまだってバイト先で失敗だらけ。」

「エーちゃんでも? あたしなんか…。」

「見てこれ。」

ふたりの間に、アンが割って入りました。
たくさん抱えた石の中で、手のひらに
ひとつだけ細長い石を見せます。

それはピンクに白色のスジが交互に入った石です。

「野生のサーモンの切り身。」

「変なの見つけたね。」

「これ、もしかしてサンストーン?」

「うむ。そうだ。」

アンが見つけた石の種類を、
ビビは見事に言い当てました。

「よくこんなの見つけたね。」

「上流でだれか捨てたんじゃないか?」

「ねえ、ふたり、なんでそんなの分かったの?」

ふたりの会話についていけず、エリカは驚きます。

「だってエーちゃん。
 アンって毎日、石の話するんだよ。」

「そんなことない。
 最近は3日に1回ぐらい。」

「いや、1日置きとかあるよ。
 エーちゃん、アンの部屋見たことある?
 石だらけ。」

ビビは言って呆れています。

「どっか寄って帰ろっか。」

「あ、待たれよ。しょくん。
 これはすごいぞ。」

「なにがすごいのかわかんない。白いのが?」

「普通のせっこうに見えるけど…?」

アンが手にしたのは、
表面が白く濁った透明な石です。

見つけた嬉しさを隠しきれず、
アンの顔はずっとニヤニヤ。

「あ、ちょっと、かして。」

ビビは石を手に取り、空にかざしました。
石を指で覆い、光の通る穴を作ります。

ビビの予想通り、その穴から濃度の異なる
ふたつの空の像が浮かびました。

「これ、カルサイトだっ!
 ホントにすごい。初めて見た。」

「キレイにしたらもっと分かるかも。」

「なんか盛り上がってるし…。」

このカルサイトは『太陽の石』とも呼ばれ、
ヴァイキングの時代の船から多く見つかりました。

太陽光の偏光度を検出でき、
ふたつに浮かぶ像の濃淡で、
曇り空でも太陽の位置がわかります。

そのため方位磁針の役割を
果たしたという説があります。

「エーちゃん、ホームセンター行こう。
 サンドペーパーが欲しい。」

「やすりなら、ウチのガレージにあるよ。」

「あたしもなんか探してくる。」

「えー? 帰らないの?」

今度はふたりで石拾いがはじまり、
アンの座るサイドカーの足元には
敷き詰められた石と共に、
夜の高速道路を走りました。

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