土曜のアン

下之森茂

09 雨の日のアン

ひさしの下に、たたずむ赤い毛むくじゃら。

「なにしてんの?」

「雨見てる。あれが雲。」

ビビが足元の毛玉に言いました。
アンは雨雲を指差します。

「出かけたのかと思った。
 宇宙って雨降らないのか。」

「映画でなら見たことあるぞ。」

「宇宙でも映画ってあるんだ。」

「火星に氷の彗星を落とすと、
 氷が蒸発して雲をつくって
 地球型惑星になるんだぞ。
 今度ビビにも見せる。」

「なにそれ?
 まだ寒いし、ほどほどにね。
 ずっといると風邪ひくよ。」

「わかった。」

――アンは氷の彗星に乗ってそう。

ビビは彗星にまたぐアンを想像して
家の中に戻りました。

鉛色をした雲が空に敷き詰められていて、
降り注ぐ雨粒をアンは目で追い、
地面に落ちた雨の音を全身に感じます。

「おっ。アンちゃーん。」

「エーちゃん。おでかけ?」

「ちがうよー。」

ビビの姉のエリカが玄関から出てきました。

黒色のつなぎ服を着たエリカはガレージに入り、
自分のバイクを濡れタオルで拭きます。

ガレージにはエリカのバイクのほかに、
母のティナの軽乗用車と、ホコリをかぶった赤色の
小さなタイヤの自転車が1台ぽつんとあります。

「出かけないのか?」

「今日は出かける予定ないし、
 だからバイクのメンテだけ。」

「出かけないのか。」

「雨だと路面が滑るからね。」

「なるほど。
 タイヤの摩擦係数に関わるんだな。」

「そうそう。」

エリカのジャマになる前にアンはガレージを出て、
ビビに言われた通り家の中に戻ります。

リビングではビビの母、ティナが
片足立ちをして両手を伸ばし、
不思議なポーズで微動だにしません。

「ママさん、なにしてる?」

「ヨガだよ。
 運動しないとすぐ太っちゃうから。」

「ヨーガ。ママさん細いのに…。
 運動負荷の一種か?」

「そうね。アンちゃんも一緒にやる?」

「いま忙しい。」

ティナの珍妙な姿に興味が湧かず、
適当な理由で断ってアンは2階に上がります。

「なに?」

今日はノックをしてビビの部屋に入りました。

「なんか、容積増してるね。」

湿気のせいか、
アンの毛はいつもに増して
ふさふさになっています。

「ビビ、ヒマだし川行こう。」

「雨で増水してるしダメだよ。
 本貸したんだし、それ読んでてよ。」

ビビはベッドで本を読んだまま断ります。

「そんなにヒマなら
 てるてる坊主でも作ってたら?
 快晴祈願?」

「なんだそれ。」

アンは手元のタブレットで検索をかけました。

「なんだこれ…。」

雨合羽を模した布の人形が
首をくくられ吊るされている奇妙な画像を見て、
アンは恐れおののきます。

「ねえ…なんなのこれ。」

「えー…雨が止むようにするおまじない?
 願掛け? 由来求められてもわかんない。」

「人身御供か…。」

「どこでそんな言葉覚えるの。」

「おそるべき地球文化。」

「千羽鶴とかも分かんないよね。」

「1000?」

「そう、折り紙でツルを1000個折って、
 早い回復を祈るの。」

「オリガミか。
 それは苦行の一種か?」

「ちがうちがう。
 プレゼント? みたいにするの。
 むかし貰ったけど、結局処分したなぁ。」

ビビは本を置いて、机の引き出しから
折り紙を引っ張り出しました。

机でひとつのツルを完成させ、
折り方を覚えていたことに
ビビは少しの驚きを覚えます。

「これ、ツル。」

「ツル? 見えない。
 星座みたいな感じか。」

「だよね。」

アンがタブレットで検索した
ツルの写真と見比べても、
似ても似つかない形です。

今度は緑色の折り紙を取って、カエルを折ります。

「カエルだ。」

ビビが折り紙のお尻の部分を指で押すと、
紙の反動で後ろ足で跳ねているように見えます。

アンは愉快そうにそれをいじりました。

「あと分かりそうなのは…。」

ビビは2枚を手にとって、
それぞれを半分に折ります。

ふたつの同じ形を十字に交差させ、
折っては差し込みを繰り返して
ひとつの形を組み立てました。

「できた。」

「おー! スリケン?」

「これは知ってるんだ。」

「投げていい?」

「ひとに向かって投げちゃダメだよ。」

「承知したでゴザル。」

アンは水切り石のように、
床と水平にして折り紙の手裏剣を投げます。

「楽しい?」

「ヨーガより分かりやすい。」

「あー…。」

ヨガをする母のティナの姿を思い浮かべ、
ビビはなんとも言えません。

せっかくなので的を作り、さらに手裏剣を折って
ビビはアンと一緒になって投げて遊びました。

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