フランドールの禁断書架 ~つよつよ美少女吸血鬼、いろんな日常をちょっと覗き見してはメモってます~

ノベルバユーザー557447

第五編:フェムトコイントゥコンティニュー

 よおこそ。
 あら、隈ができてるわ。不健康ね。
 気味が悪くなってよく寝られなかった? 繊細過ぎやしないかしら。まあ、けれど妖怪としては、冥利に尽きると言うべきなのかしらね。いえ、実際に冥利に尽きているのはこいしだと思うのだけど。

 それで? ああ。そういえばスペルカードについては説明していなかったわね。そう、あの「四枚重ねの分身符」――正式な名を「禁忌『フォーオブアカインド』」というあれは、そのスペルカードの一枚よ。

 結局のところ、幻想郷という土地は妖怪にとって狭すぎるのよ。
 妖怪、特に私やお姉様のような強大なものものが全力で力を振るってしまえば、たちまち幻想郷は荒廃しきって滅んでしまうのだもの。
 だからといって力を振るうのを我慢しているのは窮屈だし、何より長く続けていれば弱くなってしまうののよ。妖怪とは恐怖の権化。語られずひとを脅かさない妖怪は、段々と力を失ってしまうものなのだから。

 それを解決するために発案されたのが、命名決闘法――スペルカードよ。
 決闘と名は付いているのだけれど、これは結局は自己表現の手段なの。その攻撃の美しさ、荒々しさで己の格を見せつけること。それがスペルカードの存在意義よ。これが生まれたことによって、どの平行世界の幻想郷も随分と平和でかつ賑やかになったと聞いているわ。

 スペルカードそのものについては、世界線によってかなり違うわ。自身の魔力妖力神力その他を封じ込め、それ単体で現象を起こす場合から、カード自体はただ宣言をするためだけのアイテムであり、起こる事象は完全に自身の手で制御してる場合まで。先の小噺の世界線は、それこそ完全に前者ね。ちなみにここは後者よ。

 丁度話題に上ったものだし、スペルカードの少し関わる小噺でも一つ、どうかしら。
 生きること。人間として在ること。従者として仕えること。なんて真面目ぶって言ってみたけれど、要するに冗談みたいな話よ。呆れながら読むくらいが丁度良いわ。

 いつもの登場人妖紹介――は、もう既に知っている面々だし、軽く流して終わらせるわね。
 フランドール・スカーレット――平行世界の私、魔法少女な吸血鬼。
 レミリア・スカーレット――吸血鬼。威厳溢れる私のお姉様。
 そして、十六夜咲夜――時間を操れる、変な人間。

 それじゃあ、楽しんで行って頂戴。――『ゆっくりしていってね』。











 咲夜が死んだ。自殺だった。
 お姉様に見つからないよう態々地下室まで足を運んでその首を掻き切った彼女は、無念さの滲む顔をしていた。
 愚かなことだ、と私はそれを見て嘆息した。あのお姉様がそこまで強欲に見えるのだろうか。あいつは従者の顔についた切り傷一つ程度に頓着するような狭量な輩ではないのだが。
 まあでも、咲夜にはそう見えるのだろう。なにせあいつは見た目を取り繕うのが上手いから。
 次の貴方は上手くやってくれるでしょう、と言って私は咲夜を見送った。

 咲夜が死んだ。失血死だ。
 異変解決でとちってしまいまして、と苦笑交じりに言った彼女はその右腕の肘から先を失っていた。
 ご愁傷様、と私は言った。それとも何かしら、しんでしまうとはなさけない、とでも言った方が良かったかしら。
 あはは……じゃあ、次の私にはそう声をかけてやってください。咲夜は青白い顔で言う。
 それよりも、お願いがあるのですが。
 なに。
 私を食べて頂けませんか。死ぬ前に。
 厭よ。
 どうしてですか。咲夜は幾許か驚いたような顔で言った。断られるとは思わなかったのだろう。愚かなことだ。私のことをなにも分かっていないらしい。
「だって、貴方はお姉様のものじゃない」

 咲夜が死んだ。
 咲夜が死ぬことをトリガーとしてスペルカードが起動する。デフレーションワールド。収縮する時空世界。時空を縮め、過去と未来を現在の時空に重ね合わせる、咲夜の秘技。彼女の異能を魔道具に籠め、私がシステムを組み上げたそれの目的とするものはただ一つ。
 つまり、咲夜の蘇生。
 正直莫迦々々しいとは思うが、実際に望んだのは彼女の方だ。私は乞われて呆れつつ力を貸したに過ぎない。そこまで細かいことをするならいっそ眷属になれば良いと思うのだが。咲夜にとってはそれは譲れない一線らしい。
「なにせ、一度断ってしまいましたからね。今更怖くなりましたと言うのは反則というものです」
「ああ、そう」心底どうでもいい。
 けれどとりあえず、彼女の前世と約束してしまったからには、言っておかなくてはならないだろう。
「あー、咲夜。死んでしまうとは――――」

「……それで?」
 こめかみを押さえ、絞り出すようにお姉様は言う。それに相対して私と咲夜は正座をさせられている。嘘だ。私も咲夜も自主的にやっているだけだ。お姉様はかくも寛大である。
「ええ、百と四十と七回目よ」
「そういうことを聞いているんじゃないのよ」
 回数ではなかったらしい。いや、分かってはいるのだが。つい軽口を叩いてしまうのは私の悪い癖である。
「私は別に、そこまで狭量ではないのよ。だから咲夜、そうして命を粗末にするのは……いや、粗末にしているわけではないのよね。ああもう……」
 お姉様はあれで常識人である。常識に縛られていると言った方が良いかもしれない。やもしなくとも、咲夜よりも人間らしい節がある。
 ともあれ、これで咲夜の自殺癖も収まるだろう。ここ最近は毎日のように死体の処理をさせられていたのだ。ようやく解放される、と私は人知れず一息ついた。
「申し訳ありません。かくなる上は腹を切ってお詫びいたします」
「ストップ。やめて。やめろ」
 ……いや、まだもう暫くは無理そうか。

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