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フランドールの禁断書架 ~つよつよ美少女吸血鬼、いろんな日常をちょっと覗き見してはメモってます~

ノベルバユーザー557447

第四編:多重古明地症候群

 よおこそ。
 貴方もすっかり馴染みの顔になったわね。楽しんでくれているようで何よりだわ。
 ……判定が早い? そうかしら。……そうかもしれないわ。なにせ私のところに足繁く通うもの好きなんて、お姉様を除けば二人ぐらいしかいないもの。私からすれば、四度も来ればそれはすっかり顔なじみよ。
 これでも他の平行世界の私よりは多いのよ? 縁のある大抵の世界線で、私の友人はその二人のうち片方だけなのだし。これは友人のもう片方が、私が平行世界魔術理論を理解した後に知り合った相手だからなのだけど。
 どんな奴か、と言われると、そうね。
 前者は馬鹿げた不条理の権化で、後者は愚か可愛い子よ。
 酷い言い草?
 まあ、貴方から見ればそうなのかもしれないわ。
 だから言ったでしょう? 私達の倫理は、貴方達のそれとは異なるのだと。

 さて。折角だもの、私の友人の片割れの話でもどうかしら。
 と言っても平行世界の話だし、前者――不条理の権化の方の話なのだけど。
 前と同様、随分短い小噺だから物足りないかもしれないけれど……やっぱりこのくらいの短い話も書きやすいのよね。そもそもこうして公開するまでは、どの世界線の私も文章なんて殆ど書いてこなかったものだから。

 では、登場人妖の紹介をしましょうか。とはいえ、今回は二人しか出てこないのだけど。
 まずはフランドール・スカーレット――平行世界の私よ。意外かもしれないけれど、私は魔法少女だから実体のある分身を作るなんて簡単だし、吸血鬼だから分身を眷属にして操るなんて夕食前――人間は朝飯前と言うのだったかしら――なの。
 そして、古明地こいし――多くの平行世界にいる、私の不条理な友人よ。元々サトリ妖怪、コードに繋がった第三の眼で心を読む妖怪だったらしいのだけど、何かがあって瞳を閉ざし、能力を封印したらしいわ。今は無意識の妖怪、自意識に反したり反しなかったりしながら動き、他人の無意識の隙間を抜けて認識され辛くなった奇妙な妖怪をしているらしいわ。
 あまり説明になってない? 仕方ないのよ、彼女――こいしは世界線によって、何故瞳を閉ざしたのかからどういう能力を持っているのかまでてんでばらばらなのだもの。
 まあ、こいしについては、認識されにくくて意味不明な能力を持っている、とでも考えて頂戴。私は少なくともそう考えているわ。

 そうね、そろそろ私は――何かしら?
 ……意図的に毎回席を外しているのか、って?
 はあ、よくそんなことに気付くわね。その通りよ。私は解説を終わらせたら、そこで席を外すべきだと思っているの。
 だってそうでしょう? 他人に眺められながらする読書ほど居心地の悪いものはないわ。それが作者側の相手なら猶更よ。
 それに何より、読み終えたなら余韻を楽しみたいのが人情なのでしょうし、それを邪魔するなんて無粋はできないわ。

 ふうん、見られることが気にならないような人種もいるのね。知らなかったわ。
 まあ、気を遣わないでほしいというなら、私は別に構わないわ。のんびり書架の整理でもしつつ、ありがたく貴女の反応を見物させてもらおうかしら。

 それじゃあ――『ゆっくりしていってね』。













 階段を下る足音で目を覚ました。棺桶から起き上がると同時、扉が開いてこいしが頭を覗かせた。

「いえーいフランちゃん起きてるー? 私はねーすっごく寝てる! ゆめみごこち! あはははは!」

 赤ら顔だった。

 また面倒なことになってるな、と私が思うのと同時に、こいしは頭を殴りつけられて昏倒した。後ろに立っていたのはまたもやこいしで、そちらは酔ってはいないようだった。酩酊した方のこいしは煙の如くにするすると、殴りつけた方のこいしに吸い込まれて消えていった。残ったこいしは申し訳なさげに言った。

「ごめんねフランちゃん、ちょっと酔った勢いで記憶を飛ばしちゃって。……なにか変なこと言ってなかった?」
「安心して頂戴、こいしは常日頃から変よ」

 私の言葉に、こいしはひどく困ったような顔をした。





 階段を下る足音で目を覚ました。棺桶から起き上がると同時、扉が開いてこいしが頭を覗かせた。
 珍しく暗い表情だったので温かい紅茶を勧めると、少ししてから堰を切ったようにこいしは喚き散らかしだした。

「誰もかれもさー瞳を開け心を閉ざすなそっちの方が幸せになれるって口を揃えて言ってきてさー! どれだけ私が苦しんだ末に瞳を閉じることにしたのか欠片も分かってない癖に! 無責任にも程があるのよ!」
「大変ねえ」
「うん……ありがとね……」こいしは机に突っ伏して言う。「私のことをちゃんと真剣に見てくれるのは、フランちゃんぐらいだよ……」

 常に比べてこいしは随分と饒舌だったし、情緒不安定だったし、何より感情的だった。喜怒哀の八割を欠損したような常のこいしからは考えられない姿だった。雑な相槌を打ちながらも違和感を持って私が館の中を探ると、小走りの速度で私の部屋に向かっている影を感知した。

「今日もね……お姉ちゃんたら酷いのよ……私が朝起きて食堂に顔を出したらさ……つく」
「ちぇすとーーー!!!」

 こいしの言葉を遮るように音を立てて扉が開け放たれると、奇怪な雄叫びを上げながらもう一人こいしが部屋へと飛び込み情緒不安定な方のこいしの頭を回し蹴りにて刈り取った。刈り取られたこいしの様子を一瞥すらせずに、刈り取ったこいしはそのまま流れるように土下座の体勢へ移行した。

「ほんっとにごめん! いやさ、さっきの私めちゃくちゃめんどくさかったでしょ。ああいうの私は全く気にしてないんだけど、フランちゃんは多分いやな気持ちになったと思うの。だから、ごめんね?」
「……いや、別に」

「あ、そう? それなら良かったわー」
「……」

 定型句であることを微塵も疑わないのに僅かばかりに呆れたが、けれどそれでこそこいしである、という節はなくもない。つまりはいつも通りの変人ぶりだ、ということである。

「それより、今のは何だったのよ」
「うーん、抑圧の発露というか、解離性障害……だから、二重人格? みたいな」
「……へえ?」

 つまるところ。幻想郷で二重人格とは、分身のことを指すらしい。




「冗談はともかく」
「なんのはなし?」
「こっちの話よ」
「そっちのはなしかー」

 などと軽口を挟みはしたが。

 こいしの分身の暴走も、流石に三度目ともなると呆れるよりも疑問が勝る。幼児退行したこいしの分体に半日ばかり抱き着かれ続けて凝った身体をほぐしつつ、あれは一体なんなのかと問う私に向かって、あーね、と頷いてこいしは言った。

「ほら、私はどっちかっていうと精神寄りだから」
「伝わるように話して頂戴」
「えー難しいこと言わないでよーフランちゃんのいじわるー」

 とは言いながらも律儀に言葉を探すあたりがこいしの美徳だと私は思うし、そう言わないと言動の雑に過ぎるところがこいしの欠点なのだとも思う。

「んー、だからね。私は特に身体より精神の側に比重があるから、精神の諸々がそのまま身体に返って来やすいの」
「ああ。だから、二重人格ってわけ」
「そうそう。なにかしらあって人格ばらけたらそのまま身体もばらけるし、記憶も物理的に飛んじゃうのよね」

 それはまた、随分に難儀であるというか、滑稽というか。
 言葉選びに悩む私に、でもね、とこいしは続けて言った。

「そうは言っても、妖怪だったら誰だって、そうなる素養は持っているのよ? ヒトガタを使うひととかは、特に」
「……いや、ないでしょ」

 一瞬言葉に詰まったのは、こいしの瞳に僅かばかり気圧されたからだ。
 きっと、その筈だ。






 目が覚めると、私を見下ろす三対六つの瞳があった。
 さては寝惚けて四枚重ねの分身符フォーオブアカインドを使ってしまったか、などと思ったがそれにしては様子がおかしい。
 私がぼんやり見つめていると、三体のヒトガタは互いに目配せし合い、ややあって、そのうちの一つが口を開いた。





「ねえ、私――」





 私は即座に、三つの頭を握り潰した。

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