シーマン
暴露
「苦労かけてわりい」
「なんで大貴が謝るんだよ」
「関係あらへんしな。お前ら」
そっぽを向いて,つんと言い放つ。
大貴は窓の外も見ながら,きまりの悪そうに鼻頭をかく。大貴なりに,申し訳ないと思っているのだろう。関係ないと言われればそれまでだが,放っておくわけにはいかない。大貴の父に親としての自覚を促し,一緒に卒業しないと。大貴にだって幸せをつかむ権利はあるのだから。
そうこうしていると,大貴の父親が戻ってきた。
「おう,連絡はついたか?」
陽気な声をしているが,瞳の奥の光は鋭い。来ないかもしれない,と告げた後のこと想像すると,何も返事を返せないでいた。
おかしな様子を察知したらしく,大貴の親父は少し不服そうに見える。
「なんだよ。もしかして,来ないんじゃないだろうな。約束と違う,ってことにはならねえだろうな」
凄んでいるわけではないのに,ひるんでしまう自分が情けない。
怖気づいているのを悟られないようにしていると,横から大貴が声を発した。
「こーへんかもな。相当おどしといたし」
その言葉を聞いて,大貴の父親は目を丸くした。
「脅しただと? また,なんでそんなことを・・・・・・」
「会わせたくないねん,こんなくそ親父に」
「お前なあ,いつまで意地張っているんだ」
「意地張ってんのはどっちや。自分が愛した女やろ。追いかけえや,このでくの坊!」
おいおい,どういうことだ。話の展開についていけなくなって頭がくらくらしてきたところで,シーマンが割って入る。
「親父さん,悪いんじゃけどのう,我が子を傷つける大人の話は聞きたくないんじゃが,一生もんのでこの傷をつけたんじゃ。取りあえずここの治療費ぐらいは持ってくれんかの」
ただでさえ情報量が多いこの状況で,この魚はなんて情報をぶっこむんだ。それに,この父親,常に違和感はあったのだが,なんだか大貴から聞いていたのと印象が違う。
「おいおい大貴。お前そのほらを吹くのはいい加減やめてくれよ。そのせいで何度児童相談所から指導があったと思っているんだ」
「え・・・・・・,あの額の傷はお父さんが付けたものじゃ・・・・・・」
「勘弁してくれよ。だからそれは,そいつが自分でつけたんだ」
「自分でつけた?」
「でたらめ言うなや! 自分のでこに煙草の火ぃおしつけるあほがどこにおるんじゃ!」
馬をなだめるように,どうどうと大貴の父親は手のひらを下にした。
「そのまさかだよ。その傷はこいつが自分でつけたんだ。昔だから,ストーブの上にやかんを置いて温めていた時代があったんだが,まあ今頃の若いやつは知らねえよな。このばか,そのやかんを温めるところに自分の頭を打ち付けたんだ。何の音だとこっちがびっくりしたほどだ。何があったのか聞いても答えやしねえし,その件に関しては謎のままだ気づけばいつの間にかおれが悪者になってたってわけだ。こいつは悲劇の主人公を演じてるが,本当の主人公はこっちの方さ」
ふー,と息を吐いた大貴の父親は辺りを見渡し,「ちょっと煙草吸ってくるわ」と言って喫煙スペースへと歩いて行った。胸ポケットから取り出したのは,ソフトケースの赤マルだった。
説明を求めるように大貴の方を見ると,何食わぬ顔で忙しそうにスマホをつついている。
「説明しろよ」,と問い詰めても一向に反応しないので,スマホを取り上げるつもりで画面をのぞき込むt,大貴はただただホーム画面を右へ左へとスライドさせているだけだった。
「なんで大貴が謝るんだよ」
「関係あらへんしな。お前ら」
そっぽを向いて,つんと言い放つ。
大貴は窓の外も見ながら,きまりの悪そうに鼻頭をかく。大貴なりに,申し訳ないと思っているのだろう。関係ないと言われればそれまでだが,放っておくわけにはいかない。大貴の父に親としての自覚を促し,一緒に卒業しないと。大貴にだって幸せをつかむ権利はあるのだから。
そうこうしていると,大貴の父親が戻ってきた。
「おう,連絡はついたか?」
陽気な声をしているが,瞳の奥の光は鋭い。来ないかもしれない,と告げた後のこと想像すると,何も返事を返せないでいた。
おかしな様子を察知したらしく,大貴の親父は少し不服そうに見える。
「なんだよ。もしかして,来ないんじゃないだろうな。約束と違う,ってことにはならねえだろうな」
凄んでいるわけではないのに,ひるんでしまう自分が情けない。
怖気づいているのを悟られないようにしていると,横から大貴が声を発した。
「こーへんかもな。相当おどしといたし」
その言葉を聞いて,大貴の父親は目を丸くした。
「脅しただと? また,なんでそんなことを・・・・・・」
「会わせたくないねん,こんなくそ親父に」
「お前なあ,いつまで意地張っているんだ」
「意地張ってんのはどっちや。自分が愛した女やろ。追いかけえや,このでくの坊!」
おいおい,どういうことだ。話の展開についていけなくなって頭がくらくらしてきたところで,シーマンが割って入る。
「親父さん,悪いんじゃけどのう,我が子を傷つける大人の話は聞きたくないんじゃが,一生もんのでこの傷をつけたんじゃ。取りあえずここの治療費ぐらいは持ってくれんかの」
ただでさえ情報量が多いこの状況で,この魚はなんて情報をぶっこむんだ。それに,この父親,常に違和感はあったのだが,なんだか大貴から聞いていたのと印象が違う。
「おいおい大貴。お前そのほらを吹くのはいい加減やめてくれよ。そのせいで何度児童相談所から指導があったと思っているんだ」
「え・・・・・・,あの額の傷はお父さんが付けたものじゃ・・・・・・」
「勘弁してくれよ。だからそれは,そいつが自分でつけたんだ」
「自分でつけた?」
「でたらめ言うなや! 自分のでこに煙草の火ぃおしつけるあほがどこにおるんじゃ!」
馬をなだめるように,どうどうと大貴の父親は手のひらを下にした。
「そのまさかだよ。その傷はこいつが自分でつけたんだ。昔だから,ストーブの上にやかんを置いて温めていた時代があったんだが,まあ今頃の若いやつは知らねえよな。このばか,そのやかんを温めるところに自分の頭を打ち付けたんだ。何の音だとこっちがびっくりしたほどだ。何があったのか聞いても答えやしねえし,その件に関しては謎のままだ気づけばいつの間にかおれが悪者になってたってわけだ。こいつは悲劇の主人公を演じてるが,本当の主人公はこっちの方さ」
ふー,と息を吐いた大貴の父親は辺りを見渡し,「ちょっと煙草吸ってくるわ」と言って喫煙スペースへと歩いて行った。胸ポケットから取り出したのは,ソフトケースの赤マルだった。
説明を求めるように大貴の方を見ると,何食わぬ顔で忙しそうにスマホをつついている。
「説明しろよ」,と問い詰めても一向に反応しないので,スマホを取り上げるつもりで画面をのぞき込むt,大貴はただただホーム画面を右へ左へとスライドさせているだけだった。
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