シーマン

文戸玲

怪しい男


「大学って,変な奴多いやんな?」
「さあ,もしかしたら,みんなが君に対してそう思っているのかもな」
「なんやねんそれ! ここに来て初めてまともな奴におうたのに,そんな言われたら悲しいわあ」
「まともな奴認定ありがとう。でも,あまり嬉しくはないかな」
「素直じゃないやっちゃな。おれ,田淵大貴や。よろしくな,清介」
「なんでおれの名前を知ってるんだよ」
「この度大学進学にあたって関西に乗り込んできた清介といえば,知らんやつおらんがな。なんつってな。うぬぼれたらあかんで。関西は怖いとこやで~」


 ひょうきんにそう言うと,ほい,と言って不意に物を投げてきた。
 驚いて受け取ったが,それを見てさらに腰を抜かしそうになる。


「え? ありがとう。おれ,財布落としてたんだ。ちゃんとかばんに入れたつもりだったのに」


 まだ土地勘もないのに,財布を落としてしまうなんてシャレにならない。ほっとして胸をなでおろしていると,ちっちっ,と大貴が舌を鳴らした。


「気ぃつけや。スリからしたらカモやで」
「てめえの仕業かよ!」


 怪しい男だけど,大貴という男といて不思議と嫌な感じはしなかった。
 おれたちが一緒に堕落した大学生活を送るのは必然的なことだった。


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