シーマン
成仏
「いや~,ほんま容量悪いのう。もっと,しゃんしゃん動けんのかい。もう少し遅かったらわし,酸素不足で窒息死してたで。生き物を窒息死させるとか,夏祭りの金魚すくいで欲張って小学生みたいやん。小さな袋に魚を入れすぎたら魚たちが水面に浮きあがって口をパクパクさせてるやろ? あれは酸素が足りてない証拠やねん。そんなことも分からずに強欲の塊の少年たちは苦しそうになっている金魚を見てパニックになるねん。自分そんなんして恥ずかしくないんか?」
ああ,それなら経験したことがある。嫌なことを思い出した。あの体験は恐怖以外の何物でもなかった。
子ども心にはそれがトラウマになり,あれ以来生き物にむやみやたらに親しみを持たないようになったし,生き物に対する遠慮も芽生えて犬を飼いたいということもなくなったし,虫を見つけてどんなに鬱陶しくても命を奪うようなこともしなくなった。
かつての失敗から慈悲深い大人へと成長しつつあるおれは,今さっき水槽に入れたばかりの人面魚を見つめながら強く念じた。
さっさと成仏しやがれ!!
まるで中学二年生のように情緒を不安定にしながら水槽に近づき,両手で抱えた。
とにかく,こんな荷物を送り届けてきやがった大貴に今すぐ突き返してやる! いや,こんな重いものを運ぶなんてありえない。家にたどり着く前に,山賊を打ちのめしてごうごうと流れる川を渡り切ったメロスのごとくぼろぼろになるだろうし,その結果お互いの信実の友情を確かめ合ったり,その友情に感動して「仲間に入れてくれ」と涙をこぼしながら言いに来たりするやつもいないだろう。
こんな水槽,大貴が取りに来るまで玄関の外で炎天下にさらしておけばいいんだ! 急げよ大貴。お前が身体をぼろぼろにしながら辿り着くのと,水槽が干からびるのとどっちが早いか。遅れてもかまわない。お前が遅れてもお前にはなんの影響もない。ただ,この哀れな魚が,セリヌンティウスでさえ逃れられた磔の刑とは違って,骸骨の姿になるまで火あぶりの刑に処されるだけだ。そしておれはそれを,「友情など戯言だ!」とさも悲しそうな顔で眺めるのだ!
「いや,自分さっきから心の声が惜しみなく漏れとるで。」
おれたちは数秒間,特に言葉を交わさずに見つめ合った。
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