元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

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カエリ対魔王 決着  過去編終了

 手にした剣。他に魔力が通った3本の剣が浮遊している。

 魔王の四刀流。 

 「ゆくぞカエリ。ここで貴様を殺して、我は世界を終わらせる」

 「――――トールのこの戦いを刮目せよ。これがワシがお前に残せるソリット流の本懐よ」

 カエリは立ち上がる。 しかし、その姿に闘気が発せられていない。

「――――どういうつもりだ?」と魔王とて怪訝な表情。

「ワシにも切り札の用意があってな」とカエリは、そのまま後ろへ下がる。

 間合いを広げるため? しかし、カエリは速度を落とさず、道場の壁にぶつかる。

 その頭上には、神棚……どの道場にもある武神を奉る棚がある。

 偶然ではない。 きっと、それには事前になんらかの仕掛けが施してあったのだろう。

 神棚から、何かが落下してきた。 カエリが手にしたそれは、一見するとただの小瓶。

「むっ?」と魔王を声を上げる。

「病の薬か? それに即効性があると思えぬが……」

「確かに薬じゃよ。まぁ病を治す効果はない……それどころか進行を早めると言われて――――」

 カエリは言葉を止めて笑みを浮かべる。 この世の悪意を集めたような笑みだった。

「――――貴様、何を」と魔王が前に出る。 それと同時に空中に浮遊する3本の剣が魔王を追い抜き、カエリを突き刺そうと接近する。

「じゃが、もう遅いわ」とカエリは小瓶の蓋を捨て、一気に飲み干した。

 だが、その直後だった。カエリの肉体を3本の剣が貫き――――加えて接近した魔王が剣を走らせた。

 いとも簡単にカエリは切り捨てられる。

 その体は赤く染まり、床に転がる。 剣聖と言われた男の最後とは思えぬほどに呆気なく……

「……なんだ? ただの憂いか? しかし、妙に呆気ない最後だった」

「ち、父上」と呟くトール。 残った2人は目が合った。

 トールは、先ほど剣をカエリに渡したばかり、丸腰の状態。

 しかし、殺意だけでも斬りつけようとする意思だけは残っていた。

「親の敵討ちか? どうせ戦争が始まるのに死に急ぐか?」

「黙れっ!」

「ふん、親の心が伝わらぬようだな。カエリは剣の技をお前に残した……我は、そういう人間らしさを尊重する」

「……何を? 何を言っているのだ!」

「魔族の多くは、人種を脆弱な存在だと見下す。では、なぜだ? そんな弱き存在を強き魔族は、今も支配できずにいる?」

「そんなの知らない。考えた事もない」

「父から子へ、その子はさらに子へ……短命種だからこそ、技を残す。100年、1000年と、技の研磨を繰り返し、時には途絶え、新たに生まれ――――それは長寿種が身につける技術を時として凌駕する。だから我は――――」

 だが、魔王はそこで口を噤んだ。 

 背後に何かいる。 自身に冷や汗1つ零れ落とす怪物が1匹。

 ソリット流剣術――――

 『破龍の舞い』 

 怪物は背後から技を繰り出した。 それはソリット流において武器破壊に重きを置いた技。

「――――っ! 貴様はカエリ……なのか?」

 それ以外の正体はあり得ない。しかし、魔王の周辺に浮遊する3つの剣を破壊せんと剛剣を振るう怪物に、その面影はなかった。

 そして―――― 金属音が鳴り響き、床に落下する鈍い音。

「わ、我が剣を2つ破壊してみせるか! 貴様は一体……なんだ?」

「――――」と技を止め、魔王の様子を窺う怪物。 

「その顔、カエリではない……いや、待てよ。貴様、先ほどの飲んだ薬は!」

「そうじゃ、まさに切り札として取っておいた友からの贈り物よ」

「《《エルフの霊薬》》 若返りの薬をエルフから渡されておったか」


『エルフの霊薬』

 1口飲めば10歳は若返ると言われる秘薬。 しかし、カエリの若返り効果は、10歳という比ではなかった。

 まさに全盛期の姿。20代の青年になるまで若がっていたのだ。

「なるほど……それほどの濃度ならば劇薬も同然。まして病の身では容易に使えぬか」

「そうじゃ……これはエルフの友人から、最後の贈り物よ。冥土の土産とて魔王の命……上出来な土産になるじゃろ」

「やはり、エルフを滅ぼす事は間違っていなかったか」と魔王は天を仰ぐ。それから、

「やはり、人間は面白い。 そして、カエリ――――この時に貴様と戦えたのは感謝を表する」

「ふん、抜かせ」とカエリは握った剣に力を込める。それから――――

「トールよ、今からソリット流の全てを見せる。それを学び、できれば後世に広めよ」

「――――っ! はい、父上」とトールは強くうなずいた。


「いくぞ、魔王! これが最後のソリット流奥義よ!」

「来るがよい! カエリ! 我は貴様を越えて世界を――――」

 そして、両者は真っすぐに間合いに飛び込んだ。

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・

 この戦いで剣聖 カエリ・ソリットは死亡。

 一方で魔王も重傷を受けるも一命を取り留め、人界から撤退。

 その僅か2日後に亜人連合は魔王軍に敗北。 しかし、その勢いのまま魔王軍は人界に攻め込まず、魔王の回復まで戦線維持を行った。

 さらに1年後、スックラ城にて――――

「このたび、我がスックラ軍の剣術指南役として、ソリット流剣術最高顧問 トール・ソリットを任命する」

 王女 レナ・デ・スックラの宣言通り、トールはスックラ城に向かい入れられた。

「できれば、その剣を兵士たちへ、さらに未来に繋いでほしい」

「はい、レナ王女」と任命式でトールは頭を下げた。

 すると、レナ王女の後ろで小さな影が「がんばってね」とひょっこりと顔を出した。

「……えっと?」と困惑する。

「ふっふふ……この子は私の娘です。いずれ、レナ・デ・スックラを襲名して、この国の王女となるでしょう」

「――――!? これは失礼を」

「いいのですよ。 どうか、この国を、この子の未来を、貴方には守ってください」

「はい、必ず」と再び頭を下げたトール。

 そんな彼にヨタヨタと少女は近づき、「お兄ちゃん、よろしくね」と下げた頭を撫で始めた。

 のちにトール・ソリットは、この出来事を思い出す。

 レナの先代王女と出会った時に感じたものの正体。

 父親の圧力と似て、それでいて包まれるような衝撃。

「あれは、きっと若い俺が、何もわからないまま受けた……初恋だったのだろう」

 ごくたまに酒を飲んだ時だけ、トールはそう当時の事を思い出して話す事があるのだ。

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