元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

魔族の敵襲

「……」とカエリは無言。彼の言葉を待ってか? 

 レナ王女もトウタク将軍も言葉を発せない。

 しばらく無言の時間が支配する。 最初に耐えきれなくなったのは

「カエリ……レナ王女の御前だぞ! いつまでも黙っているには無礼であろう」

「構いませんよ、トウタク」

「はい、いえ、しかし……」

「私たちはカエリに死地に行くよう頼んでいるです。簡単に決めることはできることではありません」

「しかし……だったらお前の息子はどうだ?」

「え?」とトールは自分のを呼ばれ驚いた。

 この場に同室を許されていること自体、不思議に思っていたのだった。

 カエリは一度、トールを見ると深いため息をついた。それから――――

「うむ……残念ながら我が息子はまだ未熟。それにおよそ、剣の才というものを持たずに生まれてきました」

「――――ッ!? ち、父上……」とトール。

 トールは父を尊敬していた。 その父から才がないと断じられるのは初めて。

 それも客人を前に…… 自分でも信じられないほどに衝撃。

 それはまるで、羞恥心に叩きのめされるようで……

「いいえカエリ、それは違います」

 レナ王女は大きく声を張り上げた。 それに追随したのはトウタク将軍だった。

「カエリ、お前の息子はワシが、いや我が精鋭をもって敗北必死だった魔犬を相手取り、意図も簡単に薙ぎ払って見せた。あの姿は若きお主を思い出したわ」

「なに? 魔犬を……ここら辺で魔物が出現することでも希――――」

 言葉を止めたカエリの目に鋭さが宿った。

「トウタク!」

「わかっておるわ!」と既にトウタク将軍は王女を庇うように動いていた。

 トールは何が起きたのかわからず反応が遅れる。

 カエリに突き飛ばされる。そのまま地面を転がり、立ち上がると――――

 爆音。

 
 いや、何かが落下したのだ。

 落下地点にはモクモクと白い煙が立ち上ぼっている。

 見上げれば天井には大穴が開いていた。

「いや、そんなのことよりもみんなは!」とトールは周囲を見渡す。

 どうやら、怪我人もいないようだった。けど――――

「けど、これは攻撃? 一体、なにが、どういう攻撃が?」

「油断した順番に死ぬぞトール。もう――――来る!」とカエリの声。

 それが正しい事を証明するかのように白煙の中、何かが蠢く。
 
「うん、人界の調査なんてつまらない任務と思ったら、スックラの王女さまに剣聖カエリ……凄い当たりを引いた気分だ」

 特徴的な薄紫の皮膚。 そして、黒い羽。

 それだけで、何者か? 容易に正体がわかる。

「魔族っ!? こんな辺境まで潜り込んでくるとは、あり得ん!」

「あら? 貴方はスックラのトウタク将軍。王女と剣聖には劣るけど超がつく大物に違いないわね」

「……」とトウタクは腰に帯びた剣を抜く。

「いい判断ね。戦う恰好だけ見せて、撤退を最優先している。部下たちも飛び込んでこないのは、そういう訓練をしているから。けどね――――」

 疾い。 魔族が突き出す貫手はトウタク将軍の胸を貫いて――――

 「いや、させない!」とトール。

 ギリギリ間に合う。抜き身の剣によって魔族の手刀はトウタクの胸から弾かれた。

 「見事だ。ご子息」とトウタクが動く。

 思わぬタイミングで攻撃を弾かれ、体が膠着した魔族。 

 がら空きになった瞬間を逃すトウタクではなかった。

「チョイサあぁ!」と気合の叫びと同時に一太刀を浴びせる。

「手ごたえはあり……しかし」とすぐに間合いから離脱したトウタクは自身の剣を見る。

「上位魔族の血液は鉄すら溶かすと聞いて半信半疑だったが」

 1切りで腐食した剣。 もう二振りと持たないだろう。

「流石、ただの人でありながら将軍に成り上がった者。 勝ち負けの機微をわかっている。私が弱き魔族だったら、今ので死んでましたね」

 胸から腰にかけて、血液が零れ落ちている。 しかし、その量は少ない。

 剣をも溶かす血液が、致命傷を避けたのだ。

「さて、こうしている間に剣聖は、王女を逃しましたか。油断も隙もない」

 いつの間にか道場内から王女の姿は消えていた。 

 魔族が言う通りだった。

 今のやり取りの時間。極めて短時間でカエリはレナ王女は外に連れ出し、そして戻ってきている。

「……トール、トウタクも逃げよ。こやつ――――ワシよりも強い」

  

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