元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

魔犬とトール

犬。

 原始の時代からの人類の相棒パートナー

 魔物を除けば世界最強の生物と説もある。

 訓練された犬は、魔法が飛び交う戦場において勇敢に駆け回り、敵に食らいついていく。

 時折、集団で熊に襲いかかり勝利を収めることもある。

 だからだろうか? 人間には犬に恐怖を持つ者も少なくともいる。

 従順でありながら獰猛な獣。 

 だから、そこに人は魔を見る。 ゆえに魔犬が存在する。

 魔犬がいるから、魔犬が存在するのではない。 人がいるから魔犬が存在するのだ。

 まぁ、要するに――――

 細かい説明はなしで言っちまえば、魔犬は滅茶苦茶強いってことだ。

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 山越えの道。 要人警護とした馬車を囲んでいた兵士たちは魔犬に襲われた。

 彼らはよくやったと言っても言い。

 個々の戦闘力は冒険者よりも劣るが、集団戦闘に特化した彼等は健闘した。

「ぐっあぁっああああああああああああ!」と叫び声。 

 しかし、ついに最初の犠牲者を出す。

 魔犬の爪は鉄の防具を無効化し、その内部に納められた肉を切り裂いた。

「くっ! 編成を乱れさせるな。すぐさま修正しろ。救助は……後回しだ」

 司令官は、部下を見捨てる覚悟をした。 しかし、その横を何かが通り過ぎた。

「すまない。今は武器の持ち合わせがないんだ。それを借りる――――その代わり、アンタを生かして故郷に返してやるよ」

 それは人だった。 有能と言える兵たちが姿を認識するよりも早く、魔犬の前――――最前線に飛び込み。 負傷した兵が地面に倒れるよりも早く抱きかかえた。

「ぐるるるうる……」と魔犬も敵と認識。 はげしく唸り声で威嚇をする。

 だが、ソイツは――――トール・ソリットは、意にも介せない。

 助けた兵を前線から離れさすためか……こともあろうに臨戦態勢の魔犬に対して背を向けて歩き始めた。

 「グル……? がぁあああああ!」

 一瞬、反応が止まった魔犬だったが、すぐさまトールに攻撃を開始。

 その頭、後頭部を噛み砕こうと巨大な顎をトールへ――――

「君!? 危ない!」と兵の誰かが叫んだ。 しかし、魔犬の攻撃に対して遅すぎる指摘である。

「ん? 悪いがもう少しだけ待っててくれ」

 トールの肉体が半回転。 背後から襲いくる魔犬の顎へ回し蹴りを叩き込んだ。

 魔犬ダウン。

「なっ……あの少年。打撃で魔犬を!?」

「あぁ、おたくが隊長? 負傷者……勢いで助けるって言っちまったから頼むよ」

「君は、一体?」

「別に……何者でもないよ。とりあえず、今はまだ……ね」

 トールは負傷者を預けると、振り返る。

 立ち上がった魔犬と対峙する。

「魔物だろうが禁じられてるんだ。無益な殺生ってやつ。でもまぁ、人命優先だから――――」

 何かを言いかけたトールの言葉を遮るように魔犬は――――

「あぁ、やっぱり獣系魔物の攻撃速度は速いな。でも攻撃手段《パターン》が噛みつきと引っ掻きだけじゃなぁ……そりゃ当たらないよ」

 当たらない。 トールの言う通り、猛攻とも言える魔犬の攻撃を避け続ける。

 その動きに危うさはない。

 洗礼された最小の動き。 滑らかな回避運動。

 そして、魔犬の動きを確認し終わったのように――――

「よし、お前も殺すつもりできたんだろ? その殺意に満足する事はないんだろうけど、心残りはもうないか?」

 およそ、言葉の通じるはずのない魔犬。 だが、トールの言葉に、勇敢と獰猛を備えるはずの魔犬が震えた。

 見間違う事なく、その震えは恐怖から来る震えであった。

 それを振り払うように魔犬は、勢いよく――――

 「――――このタイミングだ」

 大きく開かれた魔犬の顎。 だが、トールは魔犬に対して初めて剣を使用した。

 左片手一本突き

 シンプルとも言える突き技は、魔犬の口を突き刺し――――その奥底である喉を抜いた。

 その姿に兵士たちは―――― 

「攻撃を誘った? 魔犬相手に?」と信じられぬものを見た。

 しかし、トール本人は、どこか能天気な感じで、

「んん? まぁ、こんなもんかな?」と倒れた魔犬が絶命した確認しながら呟いた。

 屈強とも言える兵士たちは目前に立つ小柄な少年に驚きを――――それから畏怖と敬意を持った。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品