元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

スックラ領争奪戦開始 『支配者』の正体

「馬鹿な……レナ・デ・スックラだと!?」

 誰かが声を上げた。しかし、その少女の姿は、

「まさしく、スックラ王室の正装。しかし、それだけで本物とは言えまい」

 コウ国王が代表するかのように言う。

「その通りだ。どこの骨の者が分からぬ女をレナ姫だと――――乱心されたか? ルキウス王?」

 ギロリっと鋭い視線をレナとルキウスの2人に向けるのはマクマ。

 少し離れて「……」と無言で観察の目を向けるのはフレヤー女王。

 だが――――

「私が彼女こそ、本物のレナ姫だと証言しても……でしょうか?」

 その男はいつの間にいたのか? レナの背後に控えるように従者がいた。

「何を! 従者程度が口を出すか! 無礼である」

 マクマは剣を手にかけた。

(これで殺す理由ができた。 馬鹿な従者を斬り捨て、そのままレナ姫も――――殺す!)

 抜刀した剣は従者へ。そのまま胴を切断して、勢いを殺さぬままレナ姫――――そういう思惑の一振りだった。

「お見事。しかし、剣に雑念が混じれば私は斬れません」

 従者はマクマの剛剣に対して、素早く抜刀と共に剣で弾き防御した。

「――――なに!? 貴様っ何者であるか!」

「この顔をお忘れですか? ブロック・マクマ・マディソン?」 

「スックラの狂信者バーサーカー……ハイド・アトキン! 生きていたのか?!」

 各王ですら顔を知るスックラ王の重要人物。 教会の暗部でありながら、王族の懐刀。

 なにより、王室の生き残り――――レナ・デ・スックラを連れてスックラを脱出した情報は、彼ら王にも伝わっている事実である。

 もはや、この場の誰もが、レナの事を本物だと認めていた。

「下がりなさいハイド……マクマ王、従者が失礼しました」

「む……うむ」

「しかし、皆さま方が疑うのは当然の事。でしたら、証拠をお見せしましょう」

「証拠だと?」

 眉を顰めたのはマクマ王だけではなく、コウ王もフレヤー女王も同じだった。

(何をするつもりだ? どうやって本物だと認めさせる?)

 レナが取り出したのは、古ぼけた杖だった。 普段から武器として使っている古い杖だ。

 それがスックラ正装姿のレナが持つと、大きな違和感がある。

「……それが、証拠か?」

「はい……見ていてください」

レナは杖を地面に付け――――「では行きます!」と片手を上げ、

「チェスト!」と裂帛の気合と共に手刀を自身の杖へ振り落とした。

 全員が思う――――

(あの手刀……間違いなくスックラ王室に伝わる肉体改造による威力。間違いなく本物のレナ姫……)

 皮肉にも、人間離れしたレナの膂力が彼女の身分を証明しているのだが……

 パンっと乾いた音を響かせ、レナは杖の中にあった物を見せる。

「これは、正当なるスックラ王位後継者に継がれる指輪です。これが私こそレナ・デ・スックラ本人である証拠です」

「……」と全員が無言。 重い空気が流れる。

 誰が最初に重い口を開くか牽制し合うが、やがて――――

「ほっほっほっ……わかったわかった」と年長者であるコウ王。

「お主が本物のレナ姫だという事はシユウ国のコウが保証しよう」

「でしたら……」

「だが、これは別問題じゃ!」とピシャリと厳しい口調で良い放った。

「今やスクッラ領は、我ら4か国の領土。 正統な後継者が出てきて全て返却……そんな道理は通じまい」

「……」とこれには反論できないレナ。 それに助け船をだすように、

「だから、この俺――――ブラテンのルキウスは棄権を申し出ている」

「何を? 小童が言う!」

「我が国の代表者トール・ソリットはレナ姫とは将来を約束した中……彼がブラテン代表として出場して優勝した場合、この俺、ルキウス王の名において彼に領土の全てを譲ることを公言する」

「な……なんじゃと? お主は何を――――」

「もしも、レナ姫を認めなさり、この争奪戦参加を認めるならば、その代表者は我が国と同じトール・ソリットになるのは当然。だから、我が国は棄権をさせていただく」

「――――」とコウ王はルキウス王の言葉を脳内で繰り返す。

(なるほど、どちらにしても同じという事か。 トールとやらがレナ姫の元、スックラ代表として出場しても、ブラテン代表として出場しても……そして、それはどちらとも可能であると言いたいわけじゃな……)

「ならば、ワシは賛成させてもらおうかのう」とコウ王。

「本当に――――」

「だが、条件がある」とコウ王はルキウス王の発言を遮った。

「――――何を条件となさります?」

「我が国の代表選手……魔物使いのメタスを貴国から招集しておいたのじゃが、代表選手を交代させていただおうかのう」

「それは構いませぬが、メタスよりも強者を? 一体、何者を――――」

「ワシじゃよ」

「はぁ?」とルキウス王は呆気にとられたように声に出してしまった。

「ほっほっほっ……スックラ領程度ならメタスで十分と思っていたが……ワシを出し抜こうと考える新しい世代。これは愉快愉快」

「――――コウ王? 何を……いや、白い煙が体から!?」

 ルキウス王が指摘するようにコウ王の体を白い煙が覆う。

 その煙の正体に気づいたのは、ハイド神父だけだ。なぜなら――――

(あの煙、似ている。そっくりだ。しかし濃度が段違い。私がトールさまに渡した――――エルフの霊薬に)

そして、煙が薄れて行く。 そこに現れたコウ王は――――

「うむ、かつて支配者ドミニネーターと恐れられたワシ……いや、俺が再び戦場に立つことになろうとはな」

 先ほどの老人姿とは別人。 この場で一番の長身であるはずのマクマ王も見上げるほどの巨体が出現したのだ。

「この俺自らトール・ソリットとやらと――――否。 『勇者 クロス』 『魔剣使い シルグ』の全員を葬り去って見せる事をここに誓い、スックラ領争奪戦開始の合図とさせてもらうぞ!」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品