元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

温泉回 不可視の敵撃破

(気配なき不可視の敵。どこから……来る!)

 辛うじて、攻撃の気配が感じられ、トールは防御に回る。

 やはり、攻撃も不可視。 無色透明の一撃。

 反撃……攻撃が飛んできたであろう位置を逆算。 相手の痕跡を残すため、地面を蹴り上げて土を飛ばす。

 しかし――――

「なにもない……か?」

 手ごたえはない。すぐにトールは「レナ! グリア!」と2人を呼ぶ。

 慣れたもので、2人はすぐに近づき、3人で陣形を作る。

 陣形……と言ってもひどく単純なものだ。

 互いに――――いや、3人で背中と預けて、死角を無くす。

「グリア、どうして最初に敵の位置がわかった?」

「い、いや……カン?」

「――――」

「ごめんなさい! わかりません!」

「――――いや、大丈夫だ。カンでわかるなら、何かあるんだろう」 

「へっ?」とグリアは声をあげるも……

「――――ッ!」と攻撃の気配に気づいて防御に回る。

 不慣れなモーニングスター。 しかし、何とか攻撃を弾く事に成功した。

 連続的な攻撃はこない。 どうやら、相手もこちらを警戒しているらしい。

 当然だ。 不可視の……それも気配なき攻撃を見切れる相手なぞ、魔物にしても初めての相手だろう。
 
 緊張が高まっていく感覚、そんな時だった。

「あの……私、思い出したのですが……」とレナが小さく手を上げて発言する。

「確か、討伐対象の魔物って特殊攻撃が……」

「――――しまった!? 散開しろ!」

 トールとレナは気づくのが早かった分、回避に成功した。

 しかし、判断が遅れたグリア。 目前には不可視から認識可能に変わった液体が飛び散っていた。

「っ!? 何これ回避……間にあ――――っ! 何これ全身がビショビショでべとべとして――――え?」

 液体に全身が覆われたグリア。その装備だけ煙が上がり、溶解が始まっていた。

「い、行けません! グリアさんは装備が失われると戦う事ができなくなります!」

「――――ん? なんだそれ? 初耳だが?」

「え? トールさま、あの科学者マッドサイエンティストと戦った時に私たちを見守っていたのでは――――いえ、それどころではありません! グリアさんを助けないと!」

 レナはグリアに駆け寄ろうとする。 しかし――――

 彼女は―――― グリアは――――

 動きを止めたどころか……目を赤く染め、完全に暴走していた。

 狂乱。 乱れた衣服のまま、素肌を風に晒す事をたじろぐ事すらせずに――――

 地面に鈍器モーニングスターを振り下ろした。

「お、落ちついてくださいグリアさん! 闇雲に攻撃しても魔物に当たりませんよ」

「いや、大丈夫だ。 どうやらグリアは冷静のようだぜ」

「え? いえ、トールさまはどこをご覧になって冷静に見――――え?」

 レナも気づく。 グリアは闇雲に攻撃してるわけではない。

  地面を叩き割り、周囲に爆散させるように土煙と石礫が飛び交う。

  宙に舞ったそれら、土煙と石礫は重力に逆らわず落下――――そして――――

「つ、土汚れで魔物の姿が浮かんできました!?」

 レナの言う通り、魔物のシルエットが浮かび上がる。

 それは、その姿は――――

「小型の竜種……いえ! 大きな蜥蜴リーザドですか!」


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・

 不可視の魔物。 

 巨大な蜥蜴――――正確にはイグアナとカメレオンが混じったような生物だった。

 その低い体勢。 流動的なフォルムは風の抵抗を受けずらい。

 攻撃時に、ギリギリまで風の動きなどで生じる『攻撃の気配』と言われるものが認識し難いのは形状によるもの。

 変温動物――――かつては冷血動物と呼ばれていただけあって外温との温度差も少ない。

 そして、何より体色変化。 それも従来のカメレオンとは、段違いのレベル。

 ――――それを理解したトールは、

「なるほど、気配が希薄な理由はわかった。しかし、解せないのは、このレベルの魔物が――――いや、待てグリア! もう少し観察を! あっ――――素手で叩き潰すのか……」

 気配を殺して奇襲を行うのが、この魔物の必勝パターン。

 それが破られた今、冒険者として最上位クラスの人材を相手には、一瞬の延命すら許されず昇天するしかなったのだ……

 「あ、あれ? 私は、何を――――うわぁ!? 手が手が! 汚っ! って体全体に妙な液体ががが! うわぁあああ! 臭いよおぉ!」

 グリアの絶叫が周囲に響き渡る。しかし――――離れた場所。

 3人の様子を観察する影があった。

「……」と無言で立ち去ろうとする影。 だが――――

「うむ、どうであったか! 我がブラテン代表のトール・ソリットという男は!」

 その声――――得体の知れない影を前に、一切の憂いのない王者の自信。

 紛れもなく彼――――ルキウス王が降臨していた。

 その姿を前に「――――っ!」と影は驚き、狼狽えるしかできなかった。

「ハッハハハハ、そう狼狽える必要なし。俺は、トールを送り込むと貴様が動くと読んでいたぞ」

 その言葉に影は観念したのだろう。

「ルキウス王……申し訳ありません」

「謝罪する必要はない。お主とて他国の代表として呼び戻されたのだろ? ――――女将?」

 影から出て来たの女性。それは旅館を切り盛りする女将、その人であった。 


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