元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

決着 トール・ソリット対聖・オーク戦

 空気の薄い地下空間。 呼吸器官へのダメージ。

 トールは自身が動ける残り時間を考える。

風の聖剣エクスカリバー

 風を利用した斬撃。あるいは風によって具現化された剣を使うための魔法。

 トールは、それを利用。 周辺から風を集めて、残量空気を調べる。

(地下からの脱出時間も考えて……思っていたよりもないか。なら狙うは短期決戦)

 そのまま、『風の聖剣エクスカリバー』による風魔法を圧縮。

 圧縮した風を拳に固める。その形状は、まるでグローブ。

 武器もない。狭い空間ではトールが得意な極大魔法も使えない。

 だから、選択するのは素手による接近戦。

 対する聖・オークは、大きな構え。

 聖人特有の奇跡。 魔法攻撃。 ――――あるいは武道家が使用する『気』

 それを使用するつもりはないらしい。 コリンから回収した『不死鳥』も『天使』を使う様子はない。

 なぜか? それを思考するための残り時間はない。

 本来の戦いならば、訪ねる。 戦いながら訪ねる。

 あまつさえ、拳で語り合うなんて事を実際に行う。

 だが、わからない。 わかり合うための時間がない。

 だから――――

 意外、トールよりも先に聖・オークが仕掛ける。

 組み狙いの動き。 防御を固めて、強引に巨体を縮めての前進。

「ならば―――――容易い!」とトールは拳を振るう。

 風魔法に強化された拳は通常よりも速い。 加えて巨大化された拳は、相手に与える衝撃を大きくさせる。

「手ごたえあり――――だが、動き続けるか! 聖・オーク!」

「無論、ここで終わるつもりはありません」

 聖・オークの両手がトールの体に絡みつく。 そのまま体重をトールへ預けて、倒れ込もうとしてくる。 

「時間切れを狙うか! だが、させない」とトールは聖・オークの頭部を片手で掴むと――――

「倒れる速度に合わせて、お前の頭部を地面に叩きつける!」

 巨大な音。 地面に震動が広がっていく。

 トールは、自分を掴む聖・オークの力が失われていく感覚が伝わる。

 そのまま立ち上がり――――

「むっ!?」とトールは驚く。 勝ちを確信して立ち去ろうとしていたが、簡単にはいかなかった。

 トールの足が何かに捕まれた。 それは聖・オークの腕によるものではない。

 足――――オークは足も大きい。 そして指も長い。

 その常人よりも指の長い足の指がトールの足を掴んでいた。

 (まるで手で掴まれたような――――逃げれない!?)

 人間でも、たまにいる。

 足の指が極端に長く、手の指と同じくらい器用に動かせる者。

 そういう者は足でボールを掴めて、投げる事すらできるのだ。

 今の状態は――――

 立ち上がった状態のトール。 

 仰向けに倒れている聖・オークの足がトールの足を掴んで離さない。

 聖・オークは意識がまだ残っていた。その目には闘志が衰える様子はない。

 しかし、どうやってこの状態で戦うのか? トールは困惑する。

 それが隙となる。 勝ちたければ簡単だった。

 立った状態から寝転がっている聖・オークに向けて魔法を放てばよかったのだ。
 
 トールの代表的な魔法である『火矢ファイアアロー』を叩き込めばいい。

 それで勝ちは確実だった。 しかし、トールはできなかった。

 足で足を掴まれるという未知の行為。

 その驚き。

 素早く対処ができない。 そして、相手は、奇跡も魔法も使用しない状態での戦い。

 トール自身も気づかず、魔法攻撃に躊躇が生まれたのだ。

(どう動くべきか?) 

 トールの戦闘思考。過去の戦闘経験から、引き出そうとする。 

(だが――――動けない!?)

 何度めか驚愕。

 聖・オークは足を引いてくる。 

 その動きに合わせてトールは前にでる。そうしないと転倒させられるからだ。

 だが、途中で引き寄せてくる動きが変化する。 

 引いていたはずのオーク。今度は逆に強く押してきた。

 片足で、前に出ていたトール。 

 「――――」とオークの動きに反応する。超反応と言える。

 自由な足で地面を蹴ってバランスを整える。 しかし、聖・オークは動きに捻りを加えて来た。

 引く動き。押す動き。左右に振る動き。さらに捻りが加わる。

 複雑な動きが続きバランスを崩しかけると捻りが加わってくるのだ

 「これは投げか!?」 

 聖・オークの狙いに気づく。 足で相手の足を掴んでの投げ。

 トールにとって、やはり未知の技。 対処は遅れる。

 気づいたときに手遅れだった。

 勢いよくトールは地面に倒れる――――いや、地面に叩きつけられたと言っていい。

「くっ!?」とダメージから苦痛の声が漏れるトール。 

 さらにもう一本――――聖・オークの足が掴みに来る。

 それをトールは拳で弾く。 さらにもう一撃、トールの足を掴んでいる足を殴った。

 脹脛ふくらはぎ

 脹脛の外側には神経は通っている。 そこに強烈な打撃を叩き込めば、足首を動かす事ができなくなる。
 
 トールの足から聖・オークの足が剥がれる。

 「せいッ!」と裂帛の気合。 飛び上がり、聖・オークの両足も、体も飛び越え――――
 踵を聖・オークの頭部に叩き込んだ。

 「ふうぅ……」とトールは緊張をほぐすように大きく息を吐く。

  暫く、聖・オークは立ち上がってこないだろう。 まして戦う事など当分できないはずだ。――――いかに打たれ強いオークとは言え……

「だが、私の勝ちだ……」

 倒れたままのオークが呟くように喋る。
 
「もう君には、地下から脱出するまで空気はもたない。 安心したまえ、失神した君を地上まで連れて戻ってあげるよ」

「ふっ」と思わずトールは笑い、

「ありがとう……けど、必要ないさ」とトールは天井を見上げる。

火矢ファイアアロー

 その極大魔法は一瞬で天井を突き破り――――

「ぐっ眩しい……これは太陽の光!?」

「あぁ、やろうと思えば地上までの穴は開けれた」とトールは失われてい酸素を取り込むように深呼吸を繰り返した。

「なぜ? それができるなら、最初からやれば――――」

「まぁ、アンタに勝つのに、アンタの流儀でやってみたかった……そんな感じかな?」

「――――それは、完敗だな。次の戦い、決勝は頑張りたまえ」

「月並みな表現だけど、アンタの分まで頑張るよ」

 そう言って、地上に向かってトールは飛び上がって行った。

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