元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

顕現 『狂気』対『狂気』

『狂気発動』 

 血液に魔力を混ぜ、全身に巡回させていく。

 心臓は爆発するほどの鼓動を繰り返す。

 刺激の弱い、鼻、目、耳などの粘膜が痛み出す。

「熱い……痛い……」と口に出したコリンは思い出す。呼吸を忘れていた事を――――

 新鮮な空気を体内に取り入れ、吐き出す。吐き出した息は、熱によって蒸気の如く白く、勢いよく。

 そして、脳にはドロドロとした熱湯が流し込まれていくような感覚。

 気づけば口から、目から、耳から鮮血が零れ落ちていく。

 正気を失い、狂気によって脳は常人の領域から無理やり、超人に引き上げられる。

 痛みはない。 苦しみはない。

 『狂気発動』――――痛みと苦しみを供物に捧げ、強化する。

 本来なら、僅かな時間の超絶強化。

 しかし、コリンには守護獣、あるいは守護天使のように、超常的存在が加護を行っている。

 そのため無限に等しい超絶強化が可能になっているのだ。

 そして、それはトール・ソリットの身体能力をはるかに超えた動きを可能とさせた。


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

「このっ! 当たれッ!『火矢ファイアアロー』」

 トールの超火力魔法。 それをコリンは直撃する。 直撃しても意に介さずに接近してくる。

「げらげらげら……どうした咎人? ソイツは焦りすぎだろ?」

 その表情、その言動は、かつて街中でトールを襲ったコリンと同質の物――――いや、それ以上の狂気を秘めていた。

 そして、そのまま剣を振るう。

 「――――っ!?」と受けたトールは浮遊感に襲われた。

 剣を受けた衝撃に両足は浮かび上がり、後方に弾き飛ばされる。

「どうした? どうした、どうした? そんなもんかよ! トール・ソリットがぁ!」

「来い! 『風の聖剣エックスカリバー』」 

 切れ味を有した風の魔法。 斬撃と化した魔力がコリンを切り裂く。

「だが、効かない――――喰らえ『水球アクアボール』」

 袈裟斬りように鮮血をばら撒くコリンだった。本来ならば致命傷にも関わず、不死鳥の効果だろう。すぐさま肉体は再生して魔法の反撃に転じる。 

 狂化による強化は魔力にも強い影響を与えているらしい。

 コリンの周辺に複数に水球が浮かび――――

 「喰らうか『火矢ファイアアロー』」とトールは撃墜目的に魔法を放つ。 

 空中に衝突する両者の魔法。 どちらが勝つのか?

 押し負けたのはトールの方だった。 

「――――っ!」と空中には、まだ残った『水球』がトールを襲う。

 トールは一撃が強力な判明、連続攻撃は不可能。

 魔法の打ち合いにより無防備になった状態を「魔法的防御が剥がれた」と言う。

 その状態に陥った魔術師は敗北が決するのだが、トールはただの魔導士ではない。

 剣を振うと、迫りくる『水球」を切り払う。しかし、

「げらげらげら……魔法切断か」とコリン自身が接近してくる。

 自ら放った『水球』を受けながらもトールを背後から拘束に回る。

「おまえ―――正気か?」と思わず、トールもわかりきった事を聞く。

「正気か? 今の俺が正気なわけないだろ? 一緒に地獄でも見学しろや!」

「――――いや、地獄はてめぇ1人だけで楽しめ」と突然、トールの口調が変わる。

 思わず、コリンも「あん、誰だ? お前は?」と口にしながら、確かにトール本人のはずなのはわかっていた。

だが、

(体の使い方、筋肉の動き……まるで別人だ。いや、実際に――――)

「フン!」とトールは背中のコリンを投げ飛ばした。 迫りくる『水球』の魔弾に向かってだ。

 自身の放った『水球』にコリンは直撃していく。だが、やはり――――ダメージは少なそうだ。

 しかし、彼にも動揺が見える。

「誰だお前……俺がいくら狂ってるとは言え、トールとお前を間違えるもんか」

コリンの言葉にトールは反応しない。1人、ブツブツと、

「トール、魔力を俺に寄越せ。支援に回れ――――狂気には狂気だ」

「誰だ! てめぇって聞いてるんだよ! くそ野郎が!」

 激高したコリンは剣を構えて突っ込んでくる。対してトールは――――

『我流拳法 狂竜の舞い』

 魔力が込められた拳がコリンに叩き込まれた。

「俺か? 俺の名前が聞きてぇのか?」と先まで、トール・ソリットだったはずの人物は笑い、こう続ける

「俺は知っての通り、トール・ソリットだよ。昔は復讐鬼って自称してたけどな!」

 復讐鬼は、再び顕現した。 
 

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