元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

 魔剣持ちシルグの攻撃

トール・ソリットは困惑していた。

 許可を取ってやってきた冒険者ギルドの『ギルド地下ダンジョン』

 修行。 新しく手に入れた力による精神的なブレ。

 その些細なブレの修正のためにやってきたのだが……

(何が起きた? アンデット系の魔物と対峙していたら、急に人間に蘇生した……のか?)

「どうした? そんな、言葉を忘れたみたいな顔をして?」

「今まで戦っていた骨将軍が人間になったんだ。そんなの驚くだろ?」

「あん? 骨将軍? 俺の名はシルグだ。 魔剣持ちのシルグ……知ってるかい?」

「――――ッ!? おいおい、250年前の人間だぞ?」

「へぇ、俺の時代から250年も経過したのか……って、そんなに時代が分かっても俺の名前は知られているのか?」

「あぁ、伝説の冒険者の1人だ」

「えへへへ……そいつは照れるね。どう言われているんだ?」

「あらゆる戦場に現れては敵味方関係なしで暴れ狂った伝説の狂戦士《バーサーカー》」

「ん? んん?」

「何年も未到達ダンジョンを独占して、多くの冒険者に顰蹙をかっていたとか?」

「おっ……応う?」

「その土地を治めている神獣とも言われる存在に喧嘩を売って回ったり……」

「え? そんな感じで後世に伝わっているの?」

「――――いや」とシルグは頭を振りながら「めっちゃ心当たりはあるのだけれども……」と自身の行いを振り返っていた。

 しかし、最後にトールは、彼の伝説をこう述べた。 

「魔剣持ちのシルグは、豪快かつ豪胆。自身の信念を貫き通して、数多くの伝説を作ったと伝わっている」

「――――そうか。俺の事を後世の他者から語られると、俺は貫き通して死んだのか実感できるな」

「しかし、疑問が1つ」

「あん? なんだよ……もう少し余韻に浸らしてくれてもいいだろ? 空気読めよな」

「そんな歴史上のアンタが、なんでアンデッドになって……それで、今の世の中に蘇生した?」

「なんでて言われてもな。250年前の話なんて覚えていない……いや、待てよ」

 コツコツと頭を叩きながら「そうだ。思い出した、思い出した!」と叫び出した。

「俺は確か、未踏ダンジョンの挑んでた時、奇妙な召喚儀式後を見つけたんだ」

「奇妙な召喚儀式? 何が呼び出されていたんだ?」

「あれは――――冥王ハーデス」

「はぁ? 冥王ハーデスなんて、それこそ神話の存在じゃないか」

「あぁ、あれは神話級に強かったぜ?」

「それで?」

「ん? それでって何が?」

「言わなくてもわかるだろ? 勝ったのか? って聞いてるんだ」

「はん! お前、俺を誰だと思っているんだ? この俺に負けはねぇよ」

「――――ッ! 凄いなアンタ。流石伝説の魔剣持ちシルグだ」

「勝ったのは良いが、呪いを受けちまってな。 俺の姿も魔剣もこんな事になっちまったのさ。ちなみに聞いとくが……そいつは皮肉か?」

「?」と疑問符をトールは浮かべた。

「そんな強い強い俺に真っ向勝負に戦えている。お前さんだって、相当な強さじゃねぇの?」

「あぁ……そうか。少し、自信になったよ」

「いいねぇ。互いに褒め合い、称え合いは……気分がいい。でも、いつまでも幸せ気分じゃいられいね。強者同士、出会っちまったんだ」

「そうだ――――」とトールは最後まで言えなかった。

 斬撃。 先手必勝と言わんばかりにシルグが攻めてくる。

(魔剣の形状が変化している。腐属性ではないのか?)

 シルグの斬撃を躱して、後方に飛ぶトール。 ――――そのつもりだった。

「ぐっ!? 避けたはずが!」

 後方に飛んだ直後、トールの肩口が裂けた。 

(――――ッ! 斬撃は避けた……はず。魔法による範囲斬撃ではなかったのだ。だとすれば――――)

「どうした……えっと、そう言えば、アンタの名前聞いてなかったな」

「トールだ。トール・ソリットという名前だ」

「そうか、トールとやら……俺の魔剣は初見じゃ対処できないぞ」

「やはり、魔剣の効果か」

「属性は『無』 種類は『間合い』 顕現は『斬撃』 魔剣の名は――――

『アップシュタント』

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

 魔剣 アップシュタント。 その効果は間合いの無視。

 距離を無視した斬撃――――それは、斬撃を飛ばすのではない。

 切った場所から間合いにして数メートル先。空間を無視した斬撃が出現する。

 斬撃のみの瞬間移動…… そう言えばいいだろうか?

 トールは持参してきた剣は、先ほどの攻防で折れている。

風の聖剣エックスカリバー

 風属性の魔法攻撃。 トールと言うよりも復讐鬼が得意とした魔法だ。

 本来なら、トールと復讐鬼の人格融合。その余波による技の変化を確かめる予定だった。だが、ぶつけ本番の技が通じる相手ではない。

「フン!」とシルグは何もない空間に剣を走られると、まだ離れた場所から向かってきている最中の『風の聖剣』に斬撃が届く。

「斬撃に間合いが関係がないと言ってもそれで魔法を切り払うか!」

「魔法切断自体は珍しい技術じゃないだろ?」とシルグは間合いを詰める。

 対するトールは無手。

 剣の間合いに到達されれば歴史に名を残した魔剣使いの有利は動かない。

 『火矢ファイアアロー

「つまらん! ただ火力任せの魔法攻撃なんぞ!」

 シルグは当たり前のように『火矢』を切断。 魔法切断は珍しくないと言っても、超火力と言われるトールの魔法を切断して、さらに前進を続けるのは尋常ではない。

 しかし――――

「むっ!」とシルグは前進を止めた。

「いつの間に、足元に魔法を設置していた?」

水球アクアボール』 ――――粘着力のある水属性の魔法はシルグの足に纏わりついている。

「やはり、殺意も敵意もない罠系魔法トラップは察知し難いでしょう」

「うむ――――だが、俺の魔剣 アップシュタントは間合い無視の斬撃――――」

「そうかい? それじゃ、どうしてアンタは間合いを潰してきた?」

「むっ?」

「どうやら魔剣 アップシュタントは無制限に空間を無視した斬撃を作れるわけじゃないみたいだな」

「この僅かな時間で見抜いたのはアンタが初めてだ。見事――――」とシルグは嗤う。

獰猛な獣が威嚇のために行う行為と酷く似ていた笑いだった。   

  

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